米フィラデルフィアで、ヒッチハイキングをしていたロボットが頭部を切断された。シリコンバレーでは、警備ロボットが殴り倒された。サンフランシスコでは、別の警備ロボットが防水シートをかぶせられ、バーベキューソースをかけられた。加害者はむろん、人間だ。
人はなぜロボットに当たり散らすのだろう?
特に人間の形に近いロボットに対して攻撃的になる。ロボットへの攻撃は世界中で起きている。大阪市内のショッピングモールに配備されていた警備ロボットは3人の子どもたちに思い切り殴られた。モスクワでは、「Alantim」という教育用ロボットが、バットを持った男に襲われた。ロボットは助けを求めたが、蹴り倒された。
なぜ私たちは、こうも攻撃的にふるまうのか?
ロボットが私たちの仕事を奪ってしまうのを恐れているからか?
ロボットが人間社会をひっくり返してしまうから?
絶えず拡大するロボットの能力と反逆心を秘めたような冷たい風貌(ふうぼう)で、人間の行動を隅々までコントロールしてしまうかもしれないから?
あり得ることだ。ロボットの反逆に対する人間の不安は「ロボット」という言葉自体に秘められている。この言葉をオートマトン(機械的に行動する者)に関連して初めて使ったのは、チェコの劇作家カレル・チャペック(訳注=1890~1938年)だった。ただし、彼は人間のさまざまな労働を肩代わりさせる、あるいは農奴制のようなシステムに結び付けて「ロボット」という言葉を使った。
コメディアンのAristotle Georgesonは、Blake Webberのペンネームでインスタグラムに投稿している。その中で最も人気のある投稿の一つが、人々がロボットを攻撃するビデオだった。反応の多くに、ロボットの反逆を恐れる人間の心理的傾向がみられた。
Georgesonは言った。インスタグラムの反応を見ると、ロボットへの攻撃を是認する人たちは「ロボットが反逆しないように、懲らしめるべきだと主張している」。その一方で、「それとはまったく別の人たちは、そんなことはすべきじゃない、なぜならロボットたちはビデオを見たら怒り出すだろうから、と言う」と解説した。
しかし、「社会ロボット国際工学ジャーナル」の編集長で認知神経科学者のAgnieszka Wykowskaは、人間のロボットへの敵意には様々な表現形態や動機があるが、それはしばしば人間が傷つけ合うのに類似した行為だ、と言うのだった。彼女は、ロボットに対するいじめは、内部の者を守り外部の人間を排除する部族優先的な心理によるのではないか、と説明した。
「ロボットという代理人がいる。代理人といっても、それは人間とは違う部類に属している。つまり部外者で、社会から追放しようとする人間の心理的メカニズムが働きやすいからではないか。人間ではないのに、それでもロボットを非人間化しようとする。その点こそ論議されるべきだ」。彼女はそう語った。
実に逆説的な話だが、我々がロボットを非人間化しようとする心理傾向は、一方でロボットを擬人化、すなわち人間に似せて作ろうとする人間の本能から出てくる、ということだ。米国最大の警備ロボットメーカーであるナイトスコープの警備ロボットは、サンフランシスコで2台が打ち壊された。同社の最高責任者、ウィリアム・サンタナ・リーは、製品(ロボット)を感覚を備えたような存在として扱うのは避けているのに、顧客のほうはそうはいかないようだ、と次のように語った。
「我々の顧客のほとんどは、結局ロボットという機械に名前を付けてしまう。『ホームズ』や『ワトソン』、『ロージー』もいれば『スティーブ』もいる。『CB2』も『CX3PO』もいる」
Wykowskaは、ロボットの擬人化がもたらす人間の残酷さは「フランケンシュタイン症候群」を反映しているのではないか、と指摘した。なぜなら、「それ(人間の形をしたロボット)は人間に少し似ているけれど、十分には似ていない。それゆえ、よく理解できない。だから恐れる」と。
また、スイス連邦工科大学ローザンヌ校でデジタルヒューマン研究を主宰しているフレデリック・カプランは、「人間の形をしたロボットを恐れるのは誰か?」という論文の中で、こう主張している。すなわち、西洋人はこれまで、人間とは生物学的な情報処理機器であると教えられてきた。おそらくそれ故、人間という観念を「機械」から切り離して見ることができないのではないか、と。彼は、人間の神経系は、電気信号の発生によることが解明されてようやく理解されたに過ぎない、と記している。DNA(訳注=デオキシリボ核酸、遺伝子の本体)がコンピューターコードの類似物と解釈されるのも必然であり、心臓はしばしば機械式ポンプとして理解される。
しかし彼は、それほど人間の形をしていない機械を人間が壊すことに関しては、説明していない。たとえば、米アリゾナ州では何十人もの自警団員が自動運転車に投石した。サンフランシスコからの報道によると、車の運転手がわざと自動運転車に衝突した。この種のロボット攻撃は、むしろ失業への不安や報復といったものに根差しているのかもしれない。
マサチューセッツ工科大学(MIT)とボストン大学の経済学者たちが2018年に出した論文によると、経済活動の中でも目立たないところにロボットを導入すると、1台で「約6人の労働者の雇用を減らす」ことになるという。特に肉体労働者は大打撃を受ける。また、同年3月にアリゾナ州テンピで、自動運転車が女性をはねて死亡させたが、これに怒った男がライフル銃を振り回し、機械を憎むと叫んでいた。
人間の形をしたロボットへのいじめ問題は確かに気がかりだし、費用も高くつく。それでも、認知神経科学者のWykowskaは、解決法はありうる、と言った。そこで彼女は、社会ロボット工学を専攻する同僚のロボット体験談を話した。
最近のこと、ある幼稚園にロボットが導入されたという。同僚が言うには「子どもたちは、ロボットに厳しかった。殴ったり蹴ったりしようとした。残忍な態度。品行方正とはいえなかった」という。 「しかし、それも保育士がロボットたちに名前を付け始めるまでのことだった。名前が付けられた途端にロボットは単なるロボットではなくなり、『アンディ』や『ジョー』や『サリー』になった。その瞬間、子どもたちの仕打ちは止まった。非常に興味深いことで、言ってみれば名前を付けるだけで、ロボットは子どもたちの仲間集団に近づくことができたのだ」と彼女は話した。
ナイトスコープ社のリーも、警備ロボットがひどい仕打ちを受けた際の対応で、同じような体験をしている。
「最も簡単なことは、新しく配備する町に行ったら、初日は、ロボットを配備する前に公会堂でランチミーティングを開く」とリー。「ロボットに会いに来てください、ケーキも出ます、と。命名のコンテストをし、機械に何ができて何ができないかについてきちんと対話する。それをすればオーケー、100%だ」
もし、しなかったら?
「怒りを買うだけだ」とリーは断言した。(抄訳)
(Jonah Engel Bromwich)©2019 The New York Times
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