朝日新聞社SDGsプロジェクトで、エグゼクティブ・ディレクターを務めています。これまでキャンペーン企画「2030 SDGsで変える」を1面と2面、時には特設面を使って大きく紹介、動画を用いたデジタル版の特集も続けてきました。2015年に国連で全会一致で採択されたSDGsについて、「そういうことだったんだ」という理解が広がってきていることを、実感しています。
これまでの取材を通じて見えてきたことは、SDGsには地域の課題を捉え直し、取り組みを広げていく力もあるということです。「誰も置き去りにしない」という基本理念や17分野の目標に照らし合わせることで欠けている点が見えるようになり、目指す方向が明確になるからです。北海道下川町では7項目からなる自分たちのSDGsをつくりました。策定作業にかかわった女性たちからは、町のことについて声をあげやすくなったと聞きました。地域の経済や産業、そして将来像を自分ごととして捉えるうえでも、SDGsが役に立っています。住民たちは今後、持続的な街づくりをSDGsを使ってチェックしていこうとしています。
SDGsは、多種多様な課題が国境を超えて深いところではつながっていることに着目し、解決に向けて統合的な取り組みを促すものです。けれども、2030年を期限とする目標の達成は義務ではなく、進め方についてルールがあるわけでもありません。それぞれが自分で考えて動くことが求められているのですが、とりわけ推進力として期待されているのが企業です。
自社の強みを生かした企業価値の創出において、SDGsを取り込む企業は増えています。一方で、自分たちが弱いところを見つけるために使ったり、経営の進む方向を修正したりすることに役立てる動きは鈍いままです。ESG投資の流れがようやく日本でも動き出しましたが、これから流れが強まることは必然です。こうした点からもSDGsを活用してほしいと思います。
売り手よし、買い手よし、世間よし。近江商人が大事にしてきた「三方よし」は、企業活動とSDGsとの関係によく例えられます。これからのSDGs時代においては、さらに2つの「よし」が必要です。それは「将来よし」「地球よし」です。
企業における認知度はしだいに高まっています。けれどもまだまだ大企業が中心ですし、向き合わなくてはいけないものだと認識したところで止まってしまっているところもあります。プロジェクトを進めながら、動き始めた人たちの背中を押していくことを目指したいと思います。
今後の取材では、海の中の危機的な状況など、見えないところで進む「地球の悲鳴」を科学的に捉えていきたいです。ジェンダー平等への取り組みが、いろいろなところで好循環を生み出すことについても紹介していくつもりです。
「地球の環境がギリギリのところまできているのではないか」という指摘があいつぐなか、私たちは「新たな豊かさ」というものを作り上げていく必要に迫られています。例えば食料問題では地球環境を悪化させずに生産を増やしていかねばなりませんし、消費のあり方も問われています。とても難しいことではありますが、可能性はいろいろあります。目標達成に向けたイノベーションを起こすために、政策誘導や合意形成のあり方を変えていかなくてはならないでしょう。これまで二の足を踏んでいたことに着手し、いくつかの方法をうまく組みあわせていく必要もあります。そうした可能性を生み出すことにつながる、様々な人たちによるたくさんの「挑戦」を、伝えていきたいと思っています。
国谷裕子 HIROKO KUNIYA
米ブラウン大卒。1993〜2016年、NHK総合「クローズアップ現代」を担当し、98年に放送ウーマン賞、02年に菊池寛賞、11年日本記者クラブ賞などを受賞。近著に『キャスターという仕事』(岩波新書)。
本記事は朝日新聞社が各界のリーダーたちの意見、自治体や企業がゴールに向けて取り組んでいること、若い人のチャレンジなど2018年の動きをまとめた冊子「SDGsACTION!2」からの転載です。「SDGsACTION!2」はPDFファイルでご覧いただけます。