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アメリカは村上春樹をこう知った 元ベテラン書評記者が振り返る

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田辺・フランシス・邦夫

――村上春樹の米国進出時について。
当時、村上春樹のことなんて米国では誰も知らなかった。それで、『羊をめぐる冒険』が米国で出版された時に、『ノルウェーの森』が日本で売れていたことを書いた。本当にこっちでは知られていなかった。日本で売れている奴が来たぞ、ぐらいの雰囲気だった。

――米国から見ると、村上春樹の印象は。
新鮮な作家が出てきたなと。いままで、遠藤周作はこちらでも受けたが、大江健三郎の場合は息子さんと戦争の話。次の段階で、遠藤周作は宗教に関しての、深い本を書いていた。

――大江とかはフィクションでも現実に即した着想。村上春樹の作品はイマジネーションということか。
そう、イマジネーション。そのあたり、カフカエスクというか、カフカのメタファー、人間が虫に変わってしまうとかいう発想。そんなファンタジーが村上作品にはあって、世界中で求められていたフィクションとして受けた。『1Q84』も急に二つの月が出てくる世界に変わるとか、羊男というあり得ないものが出てくる作品とかで、そういう人並み外れたファンタジーを感じるところが、違っていた。米国ではファンタジーは人気がある。カート・ヴォネガットという作家もファンタジーを手がけてベストセラーを書いている。そういう世界にハルキは飛び込んできた。日本文学からだいぶ離れた別世界の、カフカとか、ヴォネガットとかと同じ読者が村上春樹を発見して、それで売れてきた。「日本文学」でなくて、ファンタジーのフィクションとして。ノーベル賞は騒がれているけど、難しいだろう。選考委員会は保守的だし、ファンタジー作家の受賞は少ないんじゃないか。社会的なものの方が多い。

――村上はフィクションでも社会派でなくて、ファンタジーに?
ファンタジーに分類される。村上以前の日本の作家にはいなかった。

――彼の成功の理由は。
まず出版社が強くて、さらにニューヨーカーという雑誌に載った。

――村上春樹でなくても、クノップフという強い出版社だから売れた?
彼のファンタジーが売れたということだ。国籍など関係ない作品だから、おもしろいじゃないかと。たとえば、ミラン・クンデラというチェコの作家のように、書評部としても国籍を意識しない作家だった。日本の作家ということではなく、おもしろい中身のものを出す作家だと。

――しっかりしたエージェントと出版社が成功の条件か。
そうだ。村上はビンキー(本名:アマンダ・アーバン)というトップの文芸エージェントがついた。めったに受けないだろうが、ビンキーが目をつけたんだと思う。