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橋下徹が語る「ポピュリズムが広がる世界」(2)

World Now 更新日: 公開日:
前大阪市長・橋下徹=いずれも仙波理撮影

「自由の国」のはずの米国が、じつは、自由にモノを言えない社会になっている--。前・大阪市長の橋下徹はそう指摘します。どういうことでしょう。(聞き手=GLOBE編集長・国末憲人、構成=GLOBE記者・左古将規)

国末 トランプのようにポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)を尊重しないという人が最近になって出てきています。現在こういうふうに急に変わってきたのは、どうしてだと思いますか。

橋下 有権者が政治家のきれいごとに、口ばかりで本気で課題解決をしない政治に、おかしいと思い始めてきたんですよ。日本で言うところの永田町にあたる、米国で言えばワシントン、英国で言えばウェストミンスターの中だけで通用するプロトコル(儀礼)できれいごとを言っても、それはしょせん、明日のメシを満足に食べられる連中だから言えることですからね。

理想とか、きれいごとは、明日のメシを安心して食えるようになってから、その次の問題だと思うんですよ。優先順位の問題です。第2次世界大戦後、高度成長時代には、みんなの生活レベルはまだそんなに高くなかったし、今日より明日は良くなるという希望のもとに、国民の不満が鬱積(うっせき)している状態ではなかったんでしょう。だから、政治家がきれいごとを言っていても、みんな気にも止めてなかった。でも、どんどんグローバルな社会になって、僕は自由貿易推進論者ですけど、だけどグローバル化が進めば格差が出てくることは間違いありません。弱者と強者の差が広がってくる。そういう中で、明日の生活に不満を持つ人たちが増えてきた。その中でね、ポリティカル・コレクトネスの優先順位が一番じゃなくなっちゃったわけですよ。きれいごとよりも明日のメシだという有権者を増やしてしまったこと自体、これまでの政治の失敗です。さらに、国民の教育レベルが上がり、情報収集手段も発達している今、政治家や知識人が国民よりも絶対的に優秀だ、賢いということはあり得ません。国民は政治家や知識人のきれいごと、欺瞞を見抜いています。

英国がEU離脱を決めた国民投票では、ウェストミンスターの政治に対して有権者からあれだけの「ノー」が出て、やっと首相のメイが「我々は今まで一部の人たちだけのために政治をやっていたんだ」と気づいたわけです。これからは「ノー」を突きつけた人たちの声も聴かなきゃいけない、そういう人たちのための政治をしなきゃいけない、と気づいた。

アメリカ大統領選の今回の結果でも、民主党側の、ポリティカル・コレクトネスを重視している人たちが、自分たちは絶対的に正しいわけじゃないんだと気づいたんじゃないですか? トランプを支持している人たちの不平、不満って何なんだと。これに目を向けるようになりますよ。トランプ自身は、大統領選に勝利して、これからは全国民のために政治をやると言っています。政治家だから当たり前だと思いますが、当選してからも偏った政治をやるのであれば、メディアが徹底的に批判して、下院の中間選挙で鉄槌を食らわせたらいいじゃないですか。

これまでの政治に対して「ノー」を突きつける。そして、これまでの政治が正しいと思っていた政治家に、目を覚まさせる。これこそが民主主義ですよ。EU離脱という英国の国民投票の結果も、トランプの当選も、その文脈です。今後またおかしな状況になれば、民主主義で修正していけばいい。このように、振り子が振れながら前進していくのが民主主義です。

日本でも民主党時代の政治は悲惨でしたよ。でもあの政権交代があったからこそ、自民党が変わったというのも厳然たる事実でしょう。政権交代を一度経験して、自民党も何か失敗すれば野党に下るかもしれないという危機感を持つようになった。民主党への政権交代には、大きな意味があったんです。

心の中ではトランプを支持している

国末 かつてポリティカル・コレクトネスは政治家の条件だったのに。いまではある種下品な人が支持されている。

橋下 アメリカ大統領選の世論調査で、多くのトランプ支持者が「おもてではトランプ支持だとは言えない」って言ってました。怖い、って。朝日新聞とかがよく言ってますよね。「モノが言えない社会はダメだ」と。政治家が国民に一定の方向性を押しつけて、メディアにも介入して、市民がおびえる、モノが言えない恐怖の社会。そんな社会は最悪だと。僕もそう思います。みんなが自由にモノを言える社会にならなきゃいけない。

ところが今のアメリカ社会では、ポリティカル・コレクトネスをあまりにも過度に重視しすぎたために、ものすごく怖い社会になっているわけです。メディアや学者、知識層、それに、自分が属するコミュニティーの人たちからたたかれたら怖いっていうね、今そういう社会になっていますよ。

トランプを応援してると言ったら、総袋だたきにあう。だから、おもてでは言えないけど、心の中ではトランプを支持している。そんな人がものすごく多い。

僕も過度なポリティカル・コレクトネスには疑問を呈して、「人間なんて下品なんだから」と下品な言葉を言い続けてきました。そうやって言い続けることができたということは、日本はまだアメリカほど「政治的な正しさ」におびえるような社会ではないのでしょうね。アメリカは多民族国家ですから、ポリティカル・コレクトネスは必要です。でもそれをやりすぎると、政治家も有権者も本音を言えない社会になります。不平、不満が鬱積して、社会の分断が生じる。きわめて危険な状態だと思いますよ。