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「おまえ、ベトナムに帰るか」その一言が怖い 技能実習の闇②

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ベトナムの送り出し会社の寮。技能実習生として日本に行くまで寮生活を送りながら日本語を勉強する(写真と記事は直接関係ありません)

車の後部座席で、ベトナム人男性が顔をこわばらせ、固まっていた。


「てめえ、こらあ」。前方のシートから日本人が、荒々しい怒声と共に、顔や胸に、何度かパンチを浴びせた。そして、とどめを刺すように、少し声を落としてこう言った。
「おまえ、ベトナムに帰るか」

日本で働くベトナム人らの間にSNSで広まっていた、スマートフォンで隠し撮りしたとみられる映像だ。

ベトナム人男性は、技能実習生として建設会社で働いていた。この映像では、暴力をふるった日本人が「何で勉強しねえんだ」などと説教する場面もあった。ただ、同じベトナム人男性が工事現場で蹴り上げられる別の映像もあり、暴力がたびたびあったことがうかがわれた。

このベトナム人男性は、その後、職場から失踪した。

泣き寝入りか失踪か

「国に帰す」というのは、技能実習生に対する最も効果的な脅しの言葉の一つだ。実習生として来日するまでに、ベトナム人は母国の仲介業者に、数十万円から100万円を超える手数料や研修費、保証金などを、通常は借金をして支払っているからだ。最長3年(昨年11月から5年に延長)の途中で帰れば、出稼ぎに来たのに、借金や利息の返済もできなくなってしまう。

だから、理不尽なことがあっても多くの場合、泣き寝入りするか、失踪して不法就労する。

実際、声を上げ、力ずくで帰国させられかけた実習生もいた。

20代のベトナム人女性は、西日本の学校食堂などで数カ月働いたが、仕事があまりない上、寮費などを引かれるので、月の手取りが1万円台のこともあった。実習生の受け入れ企業などを指導する公益財団法人の国際研修協力機構(JITCO)に電話し、ベトナム語で相談した。その数日後、「新しい職場に行く」と職場の社長に告げられ、車に乗せられた。着いたのは岡山空港だった。

やっと置かれた状況に気がついたものの、搭乗手続きは会社側で済まされ、出国手続きまで進んだ。そこで泣きわめいていると、日本語ができるベトナム人旅行者が、空港の係員に事情を説明してくれた。空港職員らにも助けられ、女性はバスで岡山駅まで行き、大阪の友人宅に転がり込んだ。

実習生の強制帰国は、しばしば明るみに出ている。昨年11月、技能実習生の受け入れ先の監督を強化する新たな法律が、実習制度の拡大に併せて施行された。この法案の国会審議でも、「強制帰国」の問題が取り上げられた。

法務省は「2016年9月から、実習生が空港から出国する際に、入国審査官が実習生の母語で作られた『意思確認票』を使って、帰国を強制されていないかどうか、丁寧に聞き取るようにしている」と説明した。

会社「トラブルが起きる前に」

まさにその9月の半ば、四国の縫製会社で働いていたベトナム人女性は、意思に反して帰国させられた。入国審査官による意思確認はなかったのか。メールで女性に尋ねると、「私は日本語ができない。何も分からないし、何も言えなかった」とのことだった。

会社の社長は取材に対し、「本人と話し、納得していた」と説明する。本人がサインした承諾書もあった。

だが、本人と話したその晩に船便で福岡県に入り、翌日の航空便で福岡空港からベトナムに帰すという慌ただしさだ。社長は「女性が失踪するなど、何らかのトラブルが起きてはいけないということが頭にあった。適切なやり方には見えないかもしれないが、私としては最善の方法をとったつもりだ」と話した。

受け入れる団体などの監督を強化する新法は施行されたがが、技能実習制度の問題に取り組む弁護士団体は、「強制帰国に対して明文で罰則規定を設けなかったことは、技能実習生の保護に欠ける」などと批判している。