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受け入れるなら長期に働ける外国人を 専門家の視点

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日本で技能実習生として働くことをめざし日本語などを勉強するベトナムの若者たち

日本で働いても家は建たない


厚生労働省の雇用調査によると、日本で働いている外国人は16年10月時点で108万人と、はじめて100万人を超えました。

「もうすぐ発表される17年の統計では、さらに増えているでしょう。この約100万人の内訳は、おおまかに技能実習生と留学生のアルバイトさんが4割、日系ブラジル人や日本人の配偶者らが4割、残りがいわゆる労働ビザをとって働きに来ている人たちです。つまり、8割は働くことが目的ではない、つまり『実習』や『留学』の名目や戸籍との関係で居住が認められる人々で、しかも前者は短期間しかいない前提で受け入れた人たちです。この方たちを絶えず確保していくのはたいへんなことです。それよりも、日本で長く働いてくれる外国人をどう受け入れるかを考えるべきではないでしょうか。長く働ける人を受け入れる方がコストもかからない。受け入れにかかる諸経費は一度で済むし、仕事に慣れてくれれば生産性も上がるわけですから。技能実習生たちのように、せっかく仕事を覚えたら帰して、また新しい人を入れるというのでは、とてもコストがかかる。だから、賃金が安くしないとやっていけないということにもなっているんです」

その実習生も、かつて頼っていた中国は、経済成長で国内の賃金水準が上がり、日本に来る人は少なくなりました。いまはベトナム人実習生が主力になっていますが、さらにミャンマーやカンボジアと、より賃金水準の低い国から人を集めようという動きもあります。このようなやり方で大丈夫でしょうか。

「難しいでしょう。中国は国土も人口も大きいので、経済成長するのに時間がかかりました。沿岸部が発展しても、内陸はまだまだということで、決してくみ尽くされることのない油田のように労働者を集めていましたが、内陸部もかなり工業化が進み、いよいよ枯渇してきて、ベトナムなどにシフトしました。しかし、ベトナムなどは中国のような大きな国と違い、経済発展もより急速に進むでしょうから、限界はあるでしょう。5年も経たずに、くみ尽くしてしまうのではないでしょうか。

日本で技能実習生として働くことをめざし日本語などを勉強するベトナムの若者たち


「日系ブラジル人にしても、2008年のリーマンショックから減り続け、この1、2年は少し増えましが、もう大きく増えることはありません。中国から労働者が来なくなったのと同じことです。日本で外国人労働者に与えられている仕事は、せいぜい時給1000円程度です。これでは、自分一人が生きる分には良いかもしれないけど、家族は養えないでしょう。かつては中国やブラジルと日本の賃金格差が大きかったので、それでも生活を切り詰めれば、母国に家を建てられたんですが、いまは無理です。持ち帰るものがないなら来ないですよ」

ブラジルの大卒初任給は日本の倍



ブラジルなどの日系人については、これまで、日本で定住資格が認められるのは、原則として3世までだったのを、4世まで広げようという動きもあります。海外に住む18~30歳の4世に、日本で自由に働ける「特定活動」の在留資格で、最長3年間の滞在を認め、日本語で日常会話や読み書きができることを来日や資格更新の要件にするという案が出ているようです。

「いま出ている案は、ワーキングホリデーのようなかたちで受け入れるということですよね。技能実習生と同じで、単身で家族は連れて来られず、限られた期間しかいられない。でも、ワーホリで工場勤務をするでしょうか。こんな仕組みは、日系人にとってメリットがほとんどありません。すでに帰国した4世が、日本にいる3世の親に会うために来るような例はあるかもしれませんが、大きな人数ではないでしょう。いまブラジルは大卒の初任給で、だいたい日本の2倍くらいです。もちろん、日本の場合は年功序列で若いうちは給料が安いのですが。この条件で日本に来るのは、成長に取り残された層でしょうね。日本が貧しい外国人を救済するために引き受けるという目的なら、それは結構なことですが」

「治安の悪化」を理由に外国人の受け入れに反対する人も多いようですが、そういう意味では、日本で長く働けるようにした方が、言葉や習慣を覚えてもらえるし、家庭を築くなどして、生活が安定して、犯罪に巻き込まれるようなリスクは減りそうですね。

「外国人労働者だけは、家族を連れてこない単身者を求めるというのも変ですよね。普通は家庭を持った人の方が信頼されがちですよね。要するに、外国人はとにかく入れたくないということなのでしょう。だけど、日本が一番困っているのは、高齢化していることです。大都市圏はまだ良いですが、地方は若者が出て行くばかりです。いま、地方に日本語学校がすごい勢いでできていますが、それだけ労働力が足りないということですよ。日本語学校の学生はアルバイトで働くことを前提に来ていますから、働く場がなければ学校は成り立たない」

外国人労働者を受け入れることで、いつまでも低賃金労働がなくならず、イノベーション(技術革新)や生産性の向上を、阻害するという考え方もあります。

「そういう面は確かにあります。労働者から搾取することで成り立っているような会社や業界は、淘汰されるのが本来の姿だと私も思います。だからこそ、外国人技能実習制度が温存されているということですよ。この制度は労働者のためではなく、産業が生き残るための、事業者のための制度です。よく『外国人の問題は票にならないので政治家は関心がない』と言われますが、この制度は票にもからむ、ある意味、誰にとっても『おいしい』制度です。制度を所管する役所は行政としての実績を残し、政治家に貸しをつくれる。政治家は『これだけ呼べることにした』と有権者に力を見せられる。実習生の受け入れをなりわいにしている監理組合の大手は、トップや役員に元厚労大臣や族議員を抱え込んでいます。これは強いですよ」

変わらない日本の「上から目線」



外国人労働者の受け入れはどうあるべきでしょうか。

「1990年から日系人を『定住』という資格で受け入れましたが、私はこれは成功であり、とても良い経験だったと考えています。ただ問題は、日系人という戸籍上のつながりがある人に限って資格を与えるということです。日系かどうかにこだわるより、滞在実績に応じて、問題ない職業について、生活基盤のある人に定住ビザを与えたらいいんですよ。そして家族で住んでもらったらいいじゃないですか。いまある労働ビザは、例えば『人文知識・国際業務』など、専門性の高い職種に限られています。でも、日本の会社に就職したら、色んな部署に行きますよね。定住ビザなら、会社や部署が変わっても働き続けられるし、日本の会社の人事パターンにも合っている。
「あと、まず考えなければいけないのは、すでに日本で暮らしている外国人のことです。オーバーステイなどで在留資格はないけれど、もう何年も日本に住んでいて、生活基盤がしっかりできている方々がいます。こうした方々や、その子どもたちさえ在留資格が与えられず、権利が守られていない状況にある。技能実習やワーキングホリデーのような小手先のやり方は、いずれ破綻します。少なくとも諸外国と同じ程度の条件で受け入れようとしなければ、日本は選ばれなくなりますよ。働き手を送り出している国々は経済成長しているし、行き先は日本だけではないのですから」

どうせ受け入れるなら、より日本にとって有益なかたちで受け入れる方法を考えることが必要ですね。

「やはり、この国は一貫して、アジアへの『上から目線』があって、そこが変わらないんですよね。しかし、例えば英語教育にしても、アジアで一番遅れていますよ。どこの国でも、大学生の半数くらいは英語で授業をやってもついていける能力はあると思いますが、日本はそんなことないですよね。日本の家電メーカーが、韓国に追い抜かれるのも、やはり海外に出て英語でビジネスをできる人間をどれだけ育てたかが、大きいのではないでしょうか。『上から目線』でアジア諸国を見るような時代ではとっくになくなっているのに、そこに気がつかない。国もよく『ダイバーシティー(多様性)』と言いますが、本当にそれを進めるのであれば、もっと身近に外から来た人たちがいる環境をつくるべきですよね」