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大陸と台湾、橋でつながる? 分断の海峡に架橋計画、議論呼ぶ

World Now
台湾・金門島の西の海。烈嶼とを結ぶ橋の建設が進んでいる=五十川倫義

5月下旬、台湾・金門島。水頭埠頭は中国人団体客でにぎわっていた。十数キロしか離れていない対岸の中国福建省アモイ市から船が到着したばかりだった。台湾と中国を分断し、かつては砲弾も飛び交った海峡だが、もはや緊張感はない。

「僕は何度も来ていますよ。ここは風景がいいです」「私は毎年、来ています」と中国人観光客の中年男女。常連客だ。出港の待合室では、初めて来た一人旅の女性がいた。この日は海上の霧が深いため、乗る船が欠航し、別便を待っていた。北京の法律事務所で働く楊晶(29)。「伝統的な建築物が印象的でした。今度は両親と来たい」

この島はもとはアモイの生活圏にあった。中国側の最も近い島との間は2km余りしかない。だが、第2次大戦後の中国共産党と国民党政府の内戦が金門島の運命を変えた。国民党は敗れて台湾に撤退するが、激戦の末に守った金門島を反撃の拠点とし、要塞(ようさい)化した。狭い海に見えない分断線が引かれた。

戦闘が繰り返されたが、台湾軍は米軍の支援も得て金門島を守った。砲撃戦は1970年代まで続くが、しだいに緊張は和らぎ、2001年からは島と対岸の往来が可能になった。中国からは昨年、38万人が来た。海峡を毎日、船が約20往復する。

往来が拡大する中で、海峡に橋を架ける構想が浮上した。だが、大陸と陸続きになるため、議論を呼んでいる。

■安全保障上の懸念

架橋に積極的なのは、地元金門県長(知事)の李沃士だ。県庁に訪ねると、李は温和な表情で「アモイには中国各地から大勢の観光客が訪れています」と述べ、金門島に足を延ばしてほしいとの願いを語った。

中国人の観光客は1人平均で約8000台湾ドル(約2万6000円)を使い、人口約11万の県の経済を助けている。観光にとどまらず、発展が著しいアモイとの行き来をもっと増やし、中国側の活力を取り込もうと考えている。橋を架けることについては「住民の支持は高く、資料をつくるための調査を行った。しかし、決定するのは台北だ」と述べた。

金門県長(知事)の李沃士=五十川倫義撮影

橋のルートは、アモイ市とつながっている大嶝島経由と、金門島の西方に浮かぶ台湾の烈嶼(小金門)経由が想定されている。すでに金門島と烈嶼の間では約5.4kmの金門大橋を建設中で、16年にも完成する。

ところが台湾本島では、橋を架けることに反対する声が多い。安全保障上の懸念がぬぐえないからだ。緊張は緩和し、最盛期に10万人いた兵士も5000人に減った。しかし金門島が台湾防衛の最前線であることに変わりはない。

中国の軍事力が格段に強化され、もはや島の防衛は難しいとの見方もある。当局はむしろ守備隊をさらに減らすことを検討している。今や中国が国際的反応を無視して武力で金門島を取りに来るはずはないと見るからだ。また、こういう読みもある。「金門島が大陸のそばにあるからこそ、台湾側の意識を大陸に引き寄せ続けられる。統一をめざす大陸はこのままの方が都合がいいと考えているはずだ」。安全保障政策に関わった前国家安全会議諮問委員の李嘉進はそう語る。

とはいえ、架橋構想に対する台湾本島の人々の当惑は大きい。「これまで海で分断されてきたのですから」。当局関係者は、橋によって台湾と中国が初めてつながることへの不安感を隠さない。

狭い海峡だが、分断を象徴する意味は大きい。(五十川倫義、文中敬称略)