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食品添加物めぐる「安心」の育て方

LifeStyle 更新日: 公開日:
photo:Kodera Hiroyuki

photo:Kodera Hiroyuki

全国の店舗でおにぎりやお弁当など様々な加工食品を売るコンビニエンスストアは、食品添加物をどのように使い、どう考えているのか。

最大手セブン-イレブン・ジャパンの都内の本社を9月に訪ねると、「加盟店の従業員さんに配るため、今ちょうどこういうものを作っています」とQC室長の青山誠一に紙を渡された。「食品添加物は科学的に安全性が確認されたものです」としたうえで、「オリジナル食品からは合成着色料・保存料を完全排除しています」とあった。

2013年の東京都政モニターアンケートで、食品への不安について52.1%が「食品添加物」を挙げ、「残留農薬」「食中毒」をおさえて最多だった。こうした不安を持つ客から、店頭で質問を受けた際に備えての資料だ。

ネットには添加物の危険を必要以上にあおる記事も目立つ。「我々からみると、こんな添加物の使い方はしないのに、と言いたくなる記事もあります」。セブン-イレブンのQC室アシスタント総括マネジャー、佐藤健宣は言う。

同社は01年、保存料や合成着色料をおにぎりや弁当、調理パン、総菜などに使わないと決めた。04年にはオリジナルのパンやデザートへの添加もやめた。

添加物不使用を強調しすぎても

ローソンも04年から、オリジナルの弁当やおにぎり、総菜などには保存料と合成着色料を使わなくなった。健康志向から01年に始めた「ナチュラルローソン」は、医薬品・医薬部外品を除く全商品で合成保存料を使っていない。

ただ、セブン-イレブンも、添加物削減をテレビCMなどで盛んに宣伝したのは01年ぐらい。この時、添加物メーカーなどが加盟する「日本食品添加物協会」から「いずれも安全なもの。添加物への信頼性を損なう」といった趣旨の物言いがついた。今は積極的にPRしていない。

「不使用を強調すると全ての商品に添加物を使っていないと誤解され、多くの食品にある添加物の表示を見たお客様から『使っているじゃないか』と言われる可能性もある」。同社QC室デイリー担当マネジャーの赤垣智佳子は言う。

冷蔵・衛生管理の技術や物流効率が高まり、コンビニでは、以前ほどの量の添加物を使う必要はなくなっている。それでも保存性やおいしさを高めるため必要な添加物も多く、また中華麺など添加物がないと成り立たない食品もある。「例えば肉は鮮度にばらつきがあり、そのままだととてつもなく変色するものもある」(佐藤)

コストの問題もある。近畿大学農学部や上野製薬(大阪市)などの研究によると、ちくわやかまぼこなど水産練り製品について、少なくとも10年まで年約5%ずつ保存料の使用が減った。結果として、腐敗を防ぐための温度管理費が上がり、廃棄量も増えて年間1772億円もの経済損失が出るはずだとの試算をはじいた。

加工食品の表示に目をこらす消費者への対応に業界が腐心する一方で、同じ弁当でも店内で作って販売される場合は、表示は省略できる。外食や百貨店の量り売りに至っては、表示義務は適用されない。これらも表示義務を課すべきではないか、との意見が消費者庁に寄せられている。

(藤えりか)
(文中敬称略)

ロンドンのアジア食品スーパーで売られていたタール色素の500グラム入りボトル。一部の中華料理店で使われている photo:Kodera Hiroyuki

ある国で作られた食品に含まれる添加物が他の国では法律違反とみなされ、食品の輸出入が困難になることがある。

米国通商代表部(USTR)は4月、議会への報告書で「米国で広く使われる多くの添加物が、日本で認可されていない」とし、輸出の妨げになっているとした。駐日EU代表部も、ウェブサイトで「日本の食品添加物リストは世界の流れに追いついていない」と批判する。

厚生労働省が国際比較のためにまとめた資料によれば、日本で認可されている食品添加物は香料を除き667。米国は1612だ。

日本では、1960~70年代に高まった消費者運動で、添加物の安全性が強く疑問視された。72年には「食品添加物については、極力その使用を制限する方向で措置する」という国会決議がなされた。この決議に基づき、行政は添加物の数を極力抑える方針をとってきた。

だが、厚生労働省は2002年、従来方針を覆し、一気に45種類もの未認可添加物を「国際汎用添加物」に指定し、早期に認可しようとした。当時すでに高まっていた「日本の添加物規制は非関税障壁」という国際的な批判をかわそうとしたのだ。

外圧と食の安全

だが、13年を経た現在でも、45種類のうち、アルミニウムを含む化合物4種類は認可のめどがたたない。時間の経過と共に、今度は欧米でアルミ添加物の安全性を疑問視する声が高まったためだ。腎臓に悪影響を与える可能性があり、EUは昨年、4種類の一つであるケイ酸アルミニウムカルシウムの使用を禁止した。

日本でも、菓子パンなどにアルミ化合物のベーキングパウダーが多く含まれ、厚労省は未就学の子どもが許容量を超えて摂取する危険性があると認めている。外圧に押され、4種類のアルミ添加物を認可していたら、食の安全は揺らいでいたことになる。

大筋合意された環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る日米間の協議では、自動車など他の課題が優先され、添加物は重要テーマとなっていない。だが、食品輸出入のさらなる自由化に向けて、今後、添加物の認可を巡る議論が白熱する可能性は小さくない。

(太田啓之、藤えりか)

1988年に食品化学新聞社に入社し、食品添加物を中心に取材してきました。日本では、添加物が嫌われることが半ば常識となってしまった。食品安全委員会が2009~10年に行った調査では、中学の技術・家庭科の教科書や副読本に「食品添加物は安全とは言い切れない」「できるだけ食品添加物の少ない食品を選びましょう」という記述がありました。非科学的な記述は、誤解のもとです。

本当は、食品添加物は日本人の食生活の向上に大きな貢献をしてきた。私は戦後、添加物のおかげで安全で保存性の高い食品が日本中に広まり、長寿国になる礎が作られたと考えています。

消費者が添加物に対して抱く不安は理解できます。私自身、取材を始めた頃は、政府の審議会で添加物の発がん性に関する議論などを傍聴し、不安な思いに駆られました。だけど今では、食品添加物は一般の食べ物よりもむしろ、健康に与えるリスクは少ないと考えています。

自然の食材は一部を除き、本当の意味での安全性は確認されていない。分かっている範囲だけでも、多くの自然の食べ物にはリスクがあるし、ジャガイモの芽のように毒のあるものもある。

消費者にもっと情報提供を

一方、添加物は多くの費用と時間をかけた動物実験などで安全性を検証しなければ使えません。世界では、FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)という組織があり、食品添加物の安全性を評価しています。

添加物は、動物実験のデータを元に、人間の害になる量まで摂取しないようリスクがコントロールされている。一般の食べ物は、そこまでの安全策は講じられていません。

JECFAではこれまでに2600以上の食品添加物の安全性評価を行ってきました。一方、日本で流通する食品添加物は、指定添加物と既存添加物合わせて814です。日本もより多種類の添加物を認可した方が、国民が同じ種類の添加物をとり続けることが少なくなり、リスクが分散されると思います。

「よく分からない添加物はできるだけ取らないようにしよう」というのも、消費者の防衛本能として分かりますが、その場合でも、無添加だからといって同じ食品ばかり食べ続けるのはやめた方がいい。食のリスクを避けるには、添加物を避けるよりも、色々な種類のものを食べることが最善です。

大きな問題と感じているのは、食品添加物業界と消費者とのコミュニケーションです。添加物への偏見があるので、業界側がもっと消費者に積極的に情報を提供して欲しい。消費者も断片的な情報に踊らされず、添加物についての体系的な知識を蓄えて欲しいと思います。

(聞き手:太田啓之)

あるコンビニ業者に、めんたいこの発色剤である亜硝酸塩の削減を提案したことがあります。亜硝酸塩は保存料でもあるので、それを減らすならば、衛生管理を強化する必要がある。その分生産コストは上昇し、価格に跳ね返ります。

市販の高級アイスクリームと安価なアイスの原材料表示を比べてみてください。高級アイスに添加物はあまり使われていないが、安価なアイスには各種の添加物が入っている。安くておいしいものを作るには、添加物が欠かせません。

しかし、添加物の安全性審査には問題点が多い。例えば、添加物には動物実験で安全性を確認した「指定添加物」以外にも、「わが国で広く使われ、長い実績がある」というだけの理由で使用が認められた「既存添加物」があります。

本来ならば、既存添加物すべてについても動物実験で安全性を確認する必要がありますが、厚生省(現・厚労省)は1995年に告示した489の既存添加物のうち、150については「基原、製法、本質等からみて安全と考えられ、早急に検討を行う必要はない」と分類しました。「実験するまでもなく、安全だ」ということです。

私は当時、添加物業界の一員として、厚生省の職員と共にこの添加物を選び出す作業を非公式に行いました。実はこの作業は、動物実験の必要がある添加物をできるだけ減らすのが目的でした。

安全性の確認がない109の添加物

膨大な添加物を実験すれば多額の予算が必要となるし、万が一危険性が判明すれば、業界もダメージを負うからです。

その後、多くの既存添加物が「実際には使われていない」という理由でリストから外れましたが、20年たった今も、365の既存添加物のうち109については、安全性確認について何の取り組みもされていません。

指定添加物についても、かまぼこ用の着色料として今年認可されたカンタキサンチンは、目の網膜に悪影響を及ぼすリスクが指摘されていますが、食品安全委員会が安全性を審査する際には、新たな実験は求められず、欧米での過去の実験結果を検討するだけで摂取許容量が決まりました。

しかも、動物実験の際に必要な実施基準を満たしたかどうか不明な実験結果が、多数引用されています。

このように、「明白な健康上の危険がない限り、添加物として使用を認める」という傾向が強い。背景には、日本国内の添加物産業の空洞化があります。今や、多くの添加物の生産拠点は海外に移っている。添加物の開発や製造、安全性確認の現場を知る人が減ったことが、食品安全委員会の人員構成にも影響し、甘い審査につながっているのでは、と危惧しています。

(聞き手:太田啓之)

五味太郎作「ふたりはでんぷん」(絵本館)より

さつま揚げを手作りしたことがある。揚げたてはいいけど、時間がたつとすぐにかたくなっちゃう。悔しいけど、市販のさつま揚げの方が長持ちするし、うまいんだよ。当然、色々な添加物を使っていることも影響しているんだろうな。食品メーカーだって悪意で添加物を入れているわけじゃない。その方が多くの人の買いたがる物を作れるんだよ。

だけど、添加物が色々増えてくると、「さつま揚げ」という商品名でも、中身はかつてのさつま揚げとだんだん異なってくる。極端に言えば「さつま揚げの幻影」という感じになる。オレンジ味のジュースだって、原材料表示を見たら無果汁だった、ということはよくあるよな。

そういう食品はまやかしで、食べ物は自然に近ければ近いほどいい、という理念は当然ある。だけど、人間は一方で、狩猟採集生活の時代から「どうやって食べ物を腐らせないで保存し、飢えを免れるか」と懸命に努力してきた。食品添加物も、その工夫の延長上にある。これも人間にとって自然なことじゃないかな。

ただ、今は「その工夫が行き過ぎたのでは」と多くの人が不安に思っている。それで「無添加」「地産地消」という話になるんだけど、結構お金や手間がかかる。多少添加物が入っていても安い方がいい、と思う人もそりゃ、いるだろう。

自分の感覚が一番の頼り

五味太郎作「買物絵本」(ブロンズ新社)より

じゃあ、何を食べるのか。それは結局、自分で選ぶしかないし、選んだ責任は自分でとるしかない。この産業資本主義社会で、ある商品を買うか買わないか判断することは、ひとつの意見表明でもある。売れないものはメーカーも作らない。高くても自分が安全と思うものを食べたいんだったら、それに徹するのが消費者の仕事だよ。

オレ自身は食品の表示を意識しつつも、自分の味覚や嗅覚、胃袋という天然のセンサーを一番頼りにしている。後味がいま一つだったり、腹にもたれたりするものは2度と食べない。この感覚を鋭敏にするには、子どもの頃の食生活をきちんとすることや、食べ過ぎないことが大事だと思うよ。

それでも「知らないうちに危険なものを食べてしまった」ということは起こりうるだろう。けれど、それはもうあきらめるしかない。100%の安全はないし、この社会の「食のインフラ」に頼って生きる限り、最終的にはそれを信頼するしかないからな。

「文明の利器」は自動車も飛行機も、人々が使い続け、試行錯誤を重ねることで安全性が向上した。食品添加物も、一人ひとりの商品の選択や発言を通じて、安全性を育てる方がいい。それが開かれた社会の証しだよ。

(聞き手:太田啓之)


ごみ・たろう

「きんぎょがにげた」「ことわざ絵本」など400冊以上の作品があり、海外25カ国以上で翻訳出版されている

静物写真

小寺浩之(こでら・ひろゆき)
1965年生まれ。雑誌編集者を経て静物写真の世界へ。日本写真家協会会員。