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進撃の新興メディア

World Now

米ワシントンのホワイトハウス。米政治の中枢を取材する記者たちが、オバマ大統領や報道官らと質疑応答をする記者会見室に、変化が起きている。

ホワイトハウスを取材する記者は数百人を下らないが、会見室に並ぶ記者席は49席。米国のテレビ局や通信社、新聞社など有力メディアに1席ずつ割り当てられる記者席に、今年、若者に人気のオンラインメディアBuzzFeed(バズフィード)が進出した。ホワイトハウスには、席を持つ政治ニュース専門サイトPOLITICO(ポリティコ)やYahoo(ヤフー)のほか、YouTube(ユーチューブ)、The Huffington Post(ハフィントンポスト)、Vox(ヴォックス)、VICE(ヴァイス)といった、新興のオンラインメディアがすでに担当記者を送っている。

オンラインメディアは今年、オバマ大統領との単独会見も相次いで成功させた。

ホワイトハウスに担当記者を置く各社は、大統領との単独会見を実現しようと、しのぎを削る。新興メディアがその重要な機会を射止めたことを受け、ニューヨーク・タイムズは「Vox、バズフィードがオバマ大統領と会見」との見出しで記事を掲載。「この大統領会見は、新聞やテレビが占めてきた領域への侵入を続けるオンラインメディアにとって、重要な一歩だ」と解説した。

最初にインタビューを実現したVoxは、スポーツ、ゲーム、ファッション、グルメ、テクノロジーなどのサイトを運営するVoxメディアが、2014年に始めたニュース専門のオンラインメディアだ。Voxメディアは、各サイトを通じて「世界で約1億6500万人の教養ある富裕な若い世代につながっている」と標榜(ひょうぼう)している。Voxも個人利用者数を示すユニークビジター(UV、下のキーワード参照)がすでに月間1400万に達している。

Voxに続いて大統領と会見したバズフィードは、可愛い動物のビデオやおもしろクイズ、芸能界のニュースを「とにかく速く、おもしろく」(共同創業者兼CEO<最高経営責任者>のジョナ・ペレッティ)報じるスタイルで人気のメディアだ。UVは最大で月間2億。「バイラル(=ウイルスのように広がる)」という言葉をスローガンに、1980年代~2000年代初めに生まれた「ミレニアル」世代をターゲットにしている。

この世代はスマホを使いこなす一方で、新聞やテレビといった既存メディアには見向きもしない。ホワイトハウスは、こうした世代に大統領のメッセージを伝える手段として、新興メディアとの会見に踏み切ったとみられている。バズフィード編集長のベン・スミスは「彼ら(ホワイトハウス)は、我々の読者と話したいのだろう」と語っている。

Voxやバズフィードの大統領会見は、質問の仕方も報じ方も、テレビや新聞の従来の報道とは大きく違う。

Voxは編集長のエズラ・クライン(31)が、オバマ政権の政策の背景をじっくりと探るスタイルを取った。2編の長文とビデオで構成されたVoxの会見記事「オバマ Voxカンバーセーション」も独特だ。一問一答形式の記事の左右には大統領が語る内容を裏付けるグラフやミニ解説があり、記事の途中には、短い動画もはさまれる。動画は政策を語るオバマ氏に重ねてグラフやキーワードを表示し、SF映画のような仕立てだ。

ただし、Voxの会見記事には、ほかのメディアが引用するようなニュースはあまりなく、「飢えた記者たちにとって肉(内容)がほとんどなかった」(ポリティコ)などと冷ややかな分析もされた。

それでも、Voxメディアの会長兼CEOのジム・バンコフは、「オバマ大統領の政策の背景を徹底的に探る質問が中心で、20年後に読んでも、オバマ氏が下した決断の背景が分かる内容になっている」とVoxの報道スタイルに自信を見せる。

バズフィードは、大統領への質問を読者からも募集。「次期大統領選で、オバマ大統領よりも年配の候補者が出ることに失望していないか」「性転換手術は医療保険でカバーすべきか」「LGBT(同性愛者・両性愛者・トランスジェンダー)活動家との関係は?」など、若い世代の関心事を中心に、編集長のスミスが次々と質問を繰り出した。

同社は過去数年、ベテランの新聞記者などをヘッドハントし、人種差別関連の事件の背景を掘り下げたりする長文の調査報道も手掛けるようになった。「人々は、シリアスで読ませる記事を以前にも増して求めている」と、国際ニュース部門副部門長のスコット・ラムはいう。
(津山恵子)(文中敬称略)

米国で、バズフィードなどと並んで圧倒的な利用者数を誇るオンライン・メディアの一つが、The Huffington Post(ハフィントンポスト)だ。作家・コラムニストのアリアナ・ハフィントンが2005年に数人の仲間と立ち上げ、有名人のブログを集めたリベラルなサイトとして急成長。オバマ大統領の初当選とともにホワイトハウスに担当記者を置き、今年、大統領単独会見にも成功した。2011年に米インターネットサービス大手のAOLに買収された後、規模を急速に拡大し、ブログのほかに、速報からニュースまで、あらゆる分野の大量の記事を掲載。独自編成したニュース番組も配信する。欧州やアジアで各国版を開設するなど、国際展開にも力を入れる。急成長の背景や今後の展開について、CEOのジミー・メイマンに尋ねた。


──ハフィントンポスト(ハフポスト)は今年10周年。月間のユニークビジター(UV)は2億に達したそうですね。

「過去10年、多くの技術革新によって、(記事や写真といった)コンテンツをどうみつけ、シェアし、読むかが変化した。五つの大きなトレンドがあり、それが我々の成功を後押しした」

「最初のトレンドは、10年前に人々が盛んに使い始めたブログ。ハフポストは開設とともに取り入れた。100年以上の間、メディアは何がニュースかを決め、一方的に伝えてきた。技術の進歩で読者の反応を得られるようになり、ニュースは『会話』になった。いま、我々には10万人以上のブロガーがいる」

「2番目はグーグル検索。多くの読者を得るには、その記事が発見されなければならない。ハフポストは検索の重要性を当初から理解していた」

「3番目はソーシャルメディア。ハフポストとはコミュニティーをつくる場であり、ソーシャルメディアとの親和性が高い。四つ目は、読者のスマホやタブレットへのシフトだ。モバイル端末での読者に向け、記事や写真も変化させている。五つ目のトレンドは、動画だ。我々は毎日8時間スタジオからライブ映像を流している」

──伝統的でジャーナリスティックな報道を、どの程度重視していますか。

「ジャーナリズムは重要だし、重要であり続ける。我々は帰還兵を追った報道でピュリツァー賞を受けた。ただ、それだけでは何億人もの読者は獲得できない。人々が何を読みたいか、シェアしたいのかも考える必要がある。多くの人々に達すると同時に、深い報道をする。正しいバランスを見つけるのがカギだ」

「ソーシャルメディア世代に適応するには、新聞社などよりはるかに多くのコンテンツを出さなければならない。5年前、一日200本の記事を出していたが、今は一日1600本だ」

──国際戦略は?

「4年前に国際戦略を立てた。他のメディアが入ってくる前にシェアを取るには、展開を加速させる必要があると考え、フランスではルモンド紙、日本では朝日新聞など世界14の市場で現地のメディアとパートナーシップを結んだ。2億のUVの半分以上が米国以外の読者だ」

──利益は出ているのでしょうか。

「現在、世界中に700人の記者や編集者がいる。ハフポストはAOLの一部であり、単独の収益は公表していない。ただ、AOLのティム・アームストロングCEOは昨年末、ハフポスト単体でも今年は黒字になると明らかにした」

──ゴールは?

「ソーシャルメディア世代のニュースチェックの目的地(the news destination)になることだ。私たちの世代にとってCNNがそうだったように。だが、課題はある。以前からの読者は、ハフポストの記事を平均で15~17ぐらい読むが、ソーシャルメディア経由の読者は、2、3しか読まない。もっと多くの記事を読んでもらえるよう、技術を駆使して、読者が関心を持ちそうな記事を勧めるようなやり方を考えている。アマゾンで本を注文すると関心に合う本のお勧めが来るが、それと少し似ている」

(聞き手・山脇岳志、津山恵子)

新聞や雑誌の中で、読みたい記事にだけお金を払ってつまみ読みし、価値がないと思った記事は「返品」できる。スマホやタブレット端末による読者向けに、そんな記
事の「ばら売り」を始めたオランダのベンチャー企業「Blendle(ブレンドル)」が急成長を遂げている。

利用者はアプリをダウンロードし、提携している新聞や雑誌の読みたい記事だけを買う。1本の値段はメディアによって違うが、平均約25円。売り上げは、メディアに7割、ブレンドルに3割で分配される。

2014年4月にオランダでサービスを開始すると、急速に利用者を増やし英国、ドイツなど欧州の主要メディアと次々に提携。今年3月にはニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、ワシントン・ポストも加わった。現在約90の新聞と雑誌の記事を読める。

共同創業者のマーティン・ブランケシュテイン(28)は「2万人の登録で成功」と考えていたが、1年で登録者は30万人を超えた。

ブランケシュテインはオランダの新聞記者だった。購読者の減少を目の当たりにし、「世界中で優秀な記者がいい記事を書いているのに、ニュースは無料という考えが広がり、報道にお金を払う人が減っているのはなぜか」と考えた。記事を1本だけ読みたい場合、月間購読ではなく、その記事だけを買えると便利だと思い至った。

もう一つの特徴である記事の「返品」も成功につながった。

記事がネット配信されるいま、「見出し勝負」の記事が大量に出回る。そこで、読者が購入した記事に不満を感じたら、理由を記せば返金するというやり方に踏み切った。

メディアからすれば戦々恐々とする契約だが、実際の返品率は「全体の5%程度」という。「質の高い新聞や雑誌の記事の返品率は非常に低いが、低俗なゴシップなどの返品率は高い。返品率を知ることで、ジャーナリズムの質を上げてほしい」という。

ブレンドルは、メディアからニュースを集めて無料で読者に提供する様々なアプリと競合する。だが、広告収入に頼らず、課金する点で、これらのアプリとは一線を画す。

「質の高い記事はただでは手に入らないし、人はいいものにはお金を払う。良質のジャーナリズムは無料ではない」

(宮地ゆう)(文中敬称略)



オンラインメディアが急成長する米国。広告の規模で見ると、テレビが依然としてメディアの中でナンバー1の座を保っている。英コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパースによると、米国のテレビ業界の広告収入は15年、711億ドル(約8兆8000億円)で、新聞、雑誌、ラジオの合計を上回る。

だが、成長が続くインターネット広告(今年は554億ドル)は、19年には839億ドルに達し、同年に810億ドルと予想されるテレビを上回る見通しだ。

インターネット広告は、新興のオンラインメディアの最大の収入源だ。ただし、新興メディアが、インターネット広告からどれだけの収入を得て、どんな経営状態にあるのかは、はっきりしていない。非上場企業だったり、通信関連会社の子会社で決算が公表されていなかったりするケースが多いためだ。

米調査機関ピュー・リサーチ・センターが毎年発表するメディアについての調査によると、経営がうまくいっていないオンラインメディアもある。2014年に創業したファースト・ルック・メディアは、看板ニュースサイトの運営に失敗し、閉鎖した。技術関連ニュースのサイトを運営していたベンチャー企業のギガオムは、借金の返済が滞り、今年3月に業務を停止した。

テレビや新聞も、ネット読者の獲得に向けて、オンライン版に力を入れる。無料でニュースが読めるヤフーABCやNBC、CNNのサイトは、月間のユニークビジター数(UV)でオンラインメディアを上回る。

購読者数が減る新聞も、オンライン版に力を入れているが月間UV数では、全国紙のUSAトゥデーやニューヨーク・タイムズの健闘が目立つ程度だ。収入の6割を占める広告収入の減少も続いており、2014年は新聞各社の合計で199億ドルと、10年前の半分以下になった。
(津山恵子)(文中敬称略)