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1万ドルの使い道、学生が決定 米国で広がる「寄付教育」とは

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─―なぜラーニング・バイ・ギビング財団(以下ラーニング財団)を設立したのですか? 

私の祖母、ウォーレン・バフェットの姉であるドリス・バフェットは社会貢献のための財団を長らく運営してきました。多くの団体に寄付する中で、彼女は、学校で本物のお金を使って、助成をする過程を学べばいいのではないか、と気が付いたのです。個人や企業による寄付は米国のGDPの約2%を占める規模です。日本は0.2%ですね。

一つの大学で寄付教育を始めましたが、限界があります。そこで寄付教育のプログラムを提供する財団をつくろうと思い立ち、私に声をかけたのです。

─―本業をお持ちですね。

投資事業をしていますが教育や非営利活動にも関心がありました。社会貢献のお金の多くは、ビジネス界から流れ込んでいます。ビジネス界の多くの人から、社会貢献にお金を使いたいが、どうやったらいいのかわからないという声もよく聞いていました。そこで、こういった活動が役に立つと思ったのです。

─―ラーニング財団はどんなことをしているのですか。

大学に助成先を決めるためのプログラムと、助成金の1万ドルを提供します。助成金は寄付で募ります。個人のほかグーグルなどの大企業、大リーグのレッドソックス財団からも寄付がありました。プログラムは、コロンビアやスタンフォードをはじめ、150以上の大学で導入され、2800人以上の学生が参加しました。約205万ドル(約2億1000万円)を助成してきました。

─―学生たちは、1万ドルの助成先を選ぶわけですね。

本物のお金ですから、責任も重いですし、真剣そのものです。ここに意味があります。授業ではまず社会貢献の概念やNPOの歴史、ビジネスモデルなどを学びます。それからチームに分かれ、地域社会の課題を調査・分析し、寄付をしたらどのような成果が期待できるかも議論します。団体の活動現場に足を運んで、スタッフとも意見を交わします。団体の強みや弱みは何か。事業に持続性はあるか。社会にどのような変革をもたらすか。財務戦略も検討します。1万ドルは一つの団体に使っても、分割していくつかの団体に配分しても構いません。

─―どのような団体に助成する傾向があるのでしょう。

福祉の団体が全体の4割、健康関連が3割、教育が2割弱です。地域で活動する団体が多いですね。たとえば、ホームレスにシェルターを提供する活動や、野良犬や捨て猫の保護をする団体。そういう地元に根差した団体にとっては、1万ドルは決して大きな額ではないけれども、少額でもない。絶妙な金額といえると思います。

全米やグローバルに活動する団体に助成するのも悪くはありませんが、地元の団体であれば、スタッフ一人一人が何をしているかもわかり、顔の見える関係を築く中でさまざまなことを学べます。

─―学生にはどんな影響がありますか。

目に見えて変化が表れます。最初は、単に時間が合ったから選択した学生たちも、最後のほうには情熱をもって、ワクワクしながら参加するようになっています。そして、自分たちが助成した結果がどうなるのか見続けたいといいます。これもやはり、本物のお金だからこその効果だと思います。

非営利の事業についても興味を持つようになり、ビジネスから専攻を変えた学生も目立ちます。地域への愛着、関心もわき、クラスが終わった後に、非営利活動に参加する学生も見られます。

学生の一人は「活動現場で団体のリーダーと話し、この経験ができて本当によいと思いました。将来、知的障害を持つ移民を助けたい」との感想を寄せてくれました。

─―本物のお金を用いることで、不祥事は起きていませんか。

学生が詐欺をはたらいたことは一回もありません。助成した団体の職員が着服したケースが一つありましたが、こうしたことは起こりうることです。もちろん再発防止のために、財団も、助成先の団体も監査をより一層厳しくしています。

─―日本は寄付がなかなか広がらないといわれています。

日本ファンドレイジング協会と協力し、日本でもこのプログラムを広めようとしています。寄付市場が小さいといいますが、私が3月に日本で講演した時は多くの教育関係者が来場し、確かな手ごたえを感じました。

(構成 編集委員 秋山訓子)


Alex Buffett Rozek 1976年生まれ。大学を卒業後、フェデックスや投資事業組合勤務を経て、独立して投資事業を始めた。著名投資家のウォーレン・バフェットは祖母の弟にあたる。