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Because I am a Girl・・・ 日本と途上国に横たわる共通の壁

World Outlook いまを読む 更新日: 公開日:

途上国の支援をしている「プラン・インターナショナル・ジャパン」の池上清子理事長(65)が今月、国際女性デーにあわせて東京都内で講演した。途上国の女性が直面している問題が、日本でも起きているのではないか、と警鐘を鳴らした。

私は国連機関とNGOを行ったり来たりし、60カ国ぐらいの途上国を視察してきました。その経験を生かし、いまは国際NGO「プラン・インターナショナル」の日本事務局のトップを務めています。

途上国の女性問題に関わる直接のきっかけは、国連本部勤務時代、ニューヨークで出産したことでした。「ニューヨークだったら何の問題もないだろう」と思っていたのですが、「自然分娩で問題ない」と言われていたにもかかわらず、陣痛が始まって病院に行くと子どもが下りて来ない。過熟児で4千グラムあったことが原因でした。急きょ帝王切開になり無事生まれたのですが、「もしこれがアフリカのどこかの国のどこかの村だったら、私も娘も死んでいたのではないか」と思ったんです。どこに生まれたか、どこで出産するかによって人の命の重さが変わっていいのだろうかと。それが一番大きなきっかけで、ジェンダーの問題を追い続けてきました。

途上国の女性が直面する問題はたくさんありますが、四つ、象徴的なものをあげると、一つは宗教的側面を含めた社会的な話があります。たとえば、出産の際に立ち会う医師や助産師が女性でないといけないという慣習がある国があります。アフガニスタンではタリバンが政権を取っていた時代、女性が外で働くことは禁じられました。女医や助産師も例外ではありませんでした。その5年ほどの間、妊娠しているお母さんたちの死亡率が跳ね上がりました。出血したときに見てくれる人がいない。男性の医師はいるけれど、女性の体は触れられないので原因が分からない。このように社会的価値観が、女性の問題になることがあります。

もう一つは経済的理由から生じる問題です。日本でも女性と男性が同一賃金ではないという指摘がありますが、開発途上国は同一賃金をめざすどころか、はじめから女性だからという理由で給料が10分の1ということもあります。また、サウジアラビアでは未亡人に子供がいない場合、夫の財産の8分の1しか相続できません。

アフリカでは「sugar daddy(甘いお父さん)」という援助交際のようなものがあります。女の子が年上の男性と付き合うことで、お金がたくさんもらえ、もらったお金を家族に渡し家族が食べる物を買う。エイズウイルス(HIV)が猛威をふるっていた頃、「処女と交われば治る」という根拠のないデマが流布され、HIV感染者やエイズ患者が「sugar daddy」となって若い女の子を買う、ということが起こりました。何か問題があると、女の子の方に負担がかかり、女の子が家族のために犠牲になることが多いのです。

政治的な話もあります。米トランプ大統領は就任の翌週に「グローバル・ギャグ・ルール(口封じの世界ルール)」として知られる「メキシコシティ政策」を再導入する大統領令に署名しました。人工妊娠中絶を支援する団体への補助金を禁じるものでした。健康や経済的な理由などで、どうしても人工妊娠中絶をせざるを得なくなったとき、どう女性を助けられるかは大きな課題だと思っています。ですが、トランプ大統領がしたのは、中絶や堕胎について話すことができない社会をつくることでした。一つの政権が変わると、女性の健康や権利がおびやかされることがありうるということなんです。

文化的な理由もあります。マッチョイズム、つまり「強い男の人をよし」とする価値観がある国では、男性たちは子どもをたくさん欲しいと考える傾向があります。だから子どもを産むという前提で女性を見ます。子どもを産めない女性は、一方的に「悪い」と決めつけられてしまいます。

 いま、技術の発達で男女の産み分けが可能になり、中国やインドなど一部の国で男女比の不均衡が起きています。生まれる前に男性が選ばれ、女性が消される。すると男の子が結婚できない状況が生まれてきます。人口のアンバランスは、治安の悪化や女性に対する性暴力の増加につながる恐れがあり、社会的不安をもたらすと言われています。

世界人口は1年に約8千万人のペースで増え続けています。でも日本にいると少子高齢化の話しか聞こえてきません。誰か選んで少子化になっているのか。出産可能年齢にいる女性たちとパートナーです。そこには、「産めない社会」があります。統計によると、夫婦が理想とする子どもの数は2~3人なのに実際に産む数は1・46人。原因の一つは長時間労働です。パートナーは疲れ切って帰ってきて家の仕事を何もしない。こんな状況で子どもを産んで私一人で育児できるだろうかという不安。保育園はあるけれど入れない。自分の親は働いていて頼めない。育児と仕事の両立がすごく難しい社会で、男性にも一家を支えないといけないという重圧があります。女性も男性も変わっていかないといけない。

世界経済フォーラムが発表した2016年のジェンダーギャップ指数で日本は144カ国中111位(前年101位)。このみっともない数字は一体なんでしょうか。縦軸に合計特殊出生率、横軸にジェンダー指数をとると、ジェンダーにやさしい国ほど出生率が高いという相関関係が分かります。先進国で日本と同じグループは韓国、スペイン、イタリア、ポルトガルなどです。なぜジェンダーに優しくないのかが分かれば、出生率は上がるということです。

では私たちが何をしたらよいか、ということですが、家庭の中から変えていけると思っています。人の行動は急には変わらない。家事や育児を手伝わない男性は、そうやって育てられているのだと思います。母親が男の子に家事をさせないのかもしれません。母親が子どもをどう教育するかは、とても大事なことです。若い人たちにもっとメッセージを伝える必要があります。

そして、連帯すること、つながることが大切です。「プラン」のキャンペーン名になっている「Because I am a Girl(女の子だから)」、学校に行けない、仕事をもらえないということは途上国だけの話ではありません。日本でも、「女の子だから」という理由で何かができないのは、おかしいんじゃない?という疑問を持って欲しい。女の子が自分の足で立って考えることができれば、社会を変えていくことができるんじゃないか。「プラン」はこれまで途上国のことを中心にやってきましたが、日本国内にも活動範囲を広げていけたらと考えています。