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対立やまない古都で双子の子育て @エルサレム

私の海外サバイバル 更新日: 公開日:
エルサレムの「十字架の谷」で遊ぶ優明と沙明 photo Kumiko Yayama

屋山久美子 ヘブライ大学日本語講師

私のON

日本の音楽大で学んだ後、クラシック音楽界のユダヤ人演奏家の源流をたどろうと、ヘブライ大に留学しました。だけど、エルサレムは西洋よりも中東の雰囲気が濃厚に漂う街でした。それに魅了され、中東の音楽を研究し始めたんです。ウードという日本の琵琶に近い弦楽器をパレスチナ人から学びました。2年半ぐらいたった頃でしょうか。音楽がエルサレムの人々のしゃべり方や表情と一体になり「そうか。これがこの土地の人々の感情の動きなのか」という感覚が、体の中に染みこんできました。「もうこの土地から離れられない」と思いましたね。

現在は、週に2日、大学で日本語を教えつつ、日本のメディアの取材コーディネートや翻訳の仕事をしています。

私のOFF

民族音楽研究者のイスラエル人と2006年に結婚し、不妊治療で08年に優明(ゆばる)、沙明(しゃはる)という双子の男の子を授かりました。イスラエル人は男性も女性も子どもの扱いに慣れていて、何かと助けてくれる。けれど、ユダヤ人とパレスチナ人の対立は、いやが応でも日常生活や子育ての中に入り込んできます。

優明を街中の医者に連れて行った先月12日には、4件のテロがありました。路面電車が止まり、バスを探して歩いていると、警察の車が次々に東の方に向かっていった。優明は「あっちで戦争をやっているの?」と聞いてきましたが、答えようとしても言葉がまとまりませんでした。

子どものことはいつも心配ですし、この国では18歳になると兵役の義務がある。母親としては受け入れられないという気持ちです。

だけど、心配ばかりしていてもしょうがない。目の前にある日常のことをこなしていくしかありません。子どもたちのためにも、前向きに過ごそうと思っています。

(構成・太田啓之)

ややま・くみこ

1966年、福岡県に生まれる。92年、ユダヤ音楽研究のためにエルサレムのヘブライ大に留学し、2004年に博士号を取得。