私のON
自分を入れて社員14人の現地法人でタイヤの輸入やコーヒー豆の輸出などを手がけています。日本メーカーのタイヤを、日本やタイの工場から持ってきてこちらのタイヤ・ディーラーに売るわけです。市場シェアはトップで2割ほどを占めます。エチオピアには工業製品を作れる工場がほとんどなく、車メーカーもないのですが、タイヤの買い替え需要は年々伸びています。
こちらでは40~50年落ちの車が平気で走っています。8割は日本車で、カローラの初期モデルなどにもお目にかかります。10年落ちのカローラが200万円で売られていて驚きました。日本ではお金を出して処分してもらわなければいけないレベルですよね。ただ、車を所有できるのはごく一部の富裕層に限られています。日本では年間500万台の新車が売れているのに対し、エチオピアでは車の保有台数が50万台レベルにとどまっています。
エチオピアからはコーヒー豆を生産者組合や大手農園から購入して国外に販売しています。アラビカ種のコーヒー豆はコロンビアやブラジルが主な産地ですが、エチオピアでも新しいコーヒー農園が積極的に開拓されており、これから生産量が増えていく可能性があります。政府も農業投資には積極的です。コーヒー園の経営については外資に開放もしています。
新たな事業開拓先として注目しているのは発電所の新設です。道路やビルの建設ではコストで中国企業にかないませんが、発電事業ならば勝ち目があります。特にエチオピア政府は地熱発電所を求めていて、地中深く掘って蒸気を引き出す技術では日本に優位性があるためです。
アフリカには資源で潤っている国も多いですが、エチオピアにはほとんどありません。そのため政府は再生可能エネルギーだけを使おうというポリシーを持っていて、水力や地熱、太陽光、風力などが注目されています。現在は98%の電力がダム(水力)でつくられていますが、送配電網の不備や干ばつなどによって安定供給にはほど遠い状態にあり、首都アディスアベバでも毎日停電があります。短くて30分、長いと24時間続くこともあります。水力だけでは頼りにならないので、政府は電源を多様化しようとしているわけです。
まだ具体的な事業については確定していませんが、そのときには日本のパートナー企業と一緒に受注できるよう、関係省庁や政府の人に会うなどして情報収集を続けています。
私のOFF
エチオピアに住んでいる日本人が250人ほどなのに対し、中国人は2万人とも10万人とも言われています。道路やビル、空港、電車などのインフラ建設では圧倒的な存在感を示しており、家電製品も中国からの輸入品が圧倒的に多いです。
現地では中国ほど日本の存在感は高くないものの、エチオピア人は日本人のことが大好きだと感じます。1970年代までの王政時代には、日本の皇室とのつきあいも親密だったそうです。かつての宮殿(現在は大統領官邸)には日本庭園もあります。最後の皇帝が日本へ行ったときに感動して、帰国後に作らせたそうです。その後、荒れ放題になっていたのを現政権になってから日本政府と三菱商事の支援で再建し、今は再びきれいに整備されています。
2013年4月に赴任して3年が過ぎました。単身赴任ですが、アディスアベバの社宅にはエチオピア人のガーネットさんという女性の料理人がいて食事などを用意してくれます。この女性は25年以上にわたり歴代の駐在員たちを支えてきたベテランで、駐在員の奥様方から教わったおかげで大変おいしい日本食を作ってくれます。普通に毎日ごはんとおみそ汁、肉じゃが、トンカツなどを食べられるのは、エチオピアで日本大使と私くらいではないでしょうか。
日本食が食べられるレストランはほぼなく、食材の調達にも苦労する街なので日本に残した家内は大変心配していたのですが、食事の写真を撮ってメールで送ったら「ウチの食事よりいいんじゃないの?」と言っていましたよ。ギョーザも皮から作る本格派です。
エチオピアには海がないのですが、たまに隣国のジブチに行くときはクーラーボックスを持参し、カツオやカレイ、エビ、マグロなどを買って持ち帰ります。すると、見事なカツオのたたきやカレイの煮付けが食卓にのぼります。
各国にいる駐在員の生活を支えている東京本社の人事担当者が視察に来たときは「世界中にいる駐在員のなかで一番おいしい日本食を食べてますね」と言ったほどです。ネット回線も不安定で停電も多く、IT事情ではおそらく最も恵まれていないのですが、普段の食事については大変恵まれています。
(構成 GLOBE記者 田玉恵美)
Tanaka Takuo
1958年、神戸生まれ。三菱商事に入社後、食品原料取引の担当やヨハネスブルク支店勤務などを経て、2013年からエチオピア三菱商事社長。