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「AIで幸せになれる?」だれもが答えを知りたい問いに、英国人専門家の答えは

World Now
photo: Sako Masanori

ケンブリッジ大学リバーヒューム未来知能センター事務局長、スティーブン・ケーブ

産業革命は人類の物理的な力を飛躍的に拡張した。蒸気の力で遠く、速く移動し、重い物を運ぶことが可能になった。それに対し、人工知能(AI)は、人類の知能の力を拡張する。文明のすべては知能がつくりだした。医療、交通、教育、エネルギー。AIの進化によって、文明のすべてが大きく発展する可能性がある。

しかし、産業革命は人類の生活を豊かにするいっぽうで負の側面も生みだした。多くの人間が都市に流れ込み、劣悪な環境で働いた。労働者階級の誕生だ。共産主義やファシズムが生まれ、悲惨な大戦につながり、環境も破壊された。産業革命がもたらした課題に対応するため、人類が福祉や教育などの社会制度を整えるのに100年かかった。私たちはこの経験から学ばなければならない。「AI革命」後をにらみ、議論を始める必要がある。

AIの進化で心配しなければならないのは、映画「ターミネーター」のように機械がマシンガンを持って人間に襲いかかってくることではない。もっと、目に見えにくいものだ。自動運転を例に挙げると分かりやすい。トラックやタクシーの運転手が職を失う可能性は高い。富の再分配の仕組みや、職業技術の再教育制度を議論する必要がある。

哲学的な問題も生まれる。たとえば、自動運転車の両側を自転車が走っているとする。右の人はヘルメットをかぶっていて、左の人はかぶっていない。前方に障害物が現れてどちらかにハンドルを切らなければならないとき、どうするか。左に切れば、自転車の人は確実に死ぬ。右に切ればヘルメットのおかげで助かるかもしれない。では右へ切るべきなのか。そうするとヘルメットをかぶっている人が損をすることになる。

人間であれば、時々の状況に応じて臨機応変に行動を決められるが、AIの場合、どう行動するかのルールをあらかじめ設定する必要がある。古代ギリシャのソクラテスの時代から、哲学者たちはさまざまな倫理の問題を指摘してきた。2000年以上にわたって答えの出なかった問題の数々に、私たちは今ここで答えを出すことを迫られるのだ。

結局、私たち次第なのだ

AIは人類を幸せにするのか、不幸せにするのか。私に言えるのは、AIは人類を幸せにできる力を持っている、ということだ。実際に幸せになるかどうかは、私たち人類にかかっている。AIをどう利用し、操縦し、どう規制するか。オープンに、注意深く議論しなければならない。(聞き手・左古将規)

 

 Stephen Cave ケンブリッジ大学で博士号(哲学)を取得後、英国の外交官として勤務。その後退官して哲学書『不死』などを出版。昨年10月に設立されたケンブリッジ大学リバーヒューム未来知能センター事務局長。