米南部サンディエゴから車で約1時間。荒れた大地に風力発電機が並ぶハクンバ自然保護区そばの駐車場に、約50人が集まっていた。手にしているのは、4リットルのペットボトル。移民ルートに水を届けるNGO「ボーダーエンジェルズ」のボランティアだ。体力に応じて4班に分かれ、私は15人の初心者グループに同行した。
気温は約40度。乾燥した熱風がほおに吹き付ける。帽子を忘れたことをすぐに後悔した。
サボテンはもちろん、茂みや草にも鋭利なトゲが潜み、上着や靴に引っかかる。先導役の大学院生ジョナサン・ヨースト(31)が、背中を押さえ始めた。「ハチに刺された!」。猛毒のガラガラヘビやサソリもいるという。
1時間余り歩いて小高い岩山に着いた。
「ようこそ」「歩み続けて」。スペイン語で励ましのメッセージを書き込んだペットボトルを、目のつきやすいところに置いていく。ヨーストは参加者に呼びかけた。「移民の立場を想像してみてください。へとへとになって、倒れたら終わり。愛する家族とはもう会えないし、夢は終わりです。そう、あなたが置いた水は希望、そして命なのです」
参加者の人種や性別、年齢はバラバラだが、昨年11月の大統領選後に初めて活動に参加した人が目立つ。両親がメキシコ系移民の会社員ジェフ・バレンズエラ(33)もその1人。「トランプの壁は我々を分断してしまう。いまこそ、行動を起こすべき時だと思ったんです」
ボーダーエンジェルズは1986年の創設で、30年以上も水を置く活動を続けてきた。
その風景が大統領選直後に一変した。
代表のエンリケ・モロネス(61)は「すごいことになった」と振り返る。定例活動日の朝、集合場所にはいつもの10倍以上の500人近い志願者が集まっていたのだ。寄付金も10倍のペースで届く。「多すぎて人数制限を始めました。それだけ人々がトランプに憤激しているのです」
一方、嫌がらせも絶えない。
アリゾナ州の砂漠に約50の水タンクを置くNGO「ヒューメインボーダーズ」。給水車に同乗して同州アリバカの草原を巡ると、銃撃で蜂の巣状態になった看板や、上部が大きくへこんだタンクがあった。メンバーで弁護士のステファン・ソルトンストル(73)(写真下、青シャツの男性)は「タンクにガソリンを入れられたり、コヨーテの死骸を置かれたりもした」と憤る。
道路脇の草むらに小さな十字架が立っていた。数年前に移民の男性の遺体が見つかった場所で、水タンクまで数十メートルしか離れていない。「ここのタンクはしょっちゅう空にされたり、銃弾を撃ち込まれたりしていた。水がなくて、力尽きてしまったのかもしれない」
タンクはジュース会社がシロップを保存していたもので、アリが入りこんでしまうことも多い。それでも、メンバーが一つひとつ実際に飲んで水質を確かめている。技術者のギエルモ・ジョーンズ(47)は言う。「それでお腹を下しても、すぐに病院にいける僕らはまし。移民だったらすぐに死んでしまう」
(敬称略)