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彼女たちの笑顔が見たくて@イスラマバード(パキスタン)

私の海外サバイバル 更新日: 公開日:
ペーパービーズの作り手の女性たちと高垣絵里さん=高垣さん提供

高垣絵里 開発援助コンサルタント会社経営 

私のON

2005年のパキスタン大地震で障害を負った女性らの自立支援のため、不要紙を再利用してアクセサリーなどを作る「ペーパーミラクルズ」というプロジェクトを4年半前に立ち上げました。きっかけは、被災者が暮らすシェルターでの一人の女性との出会いでした。家の下敷きになり、車いす生活を余儀なくされていました。ほんの数分言葉を交わしただけでしたが、「自分の力で生きたい」と私に訴えかけてきた時のまなざしが頭から離れず、その晩は一睡もできませんでした。決して同情からではなく、「この人に関わりたい」と心から思いました。

独特の色と味わいがあるペーパービーズのアクセサリー=高垣さん提供

自分でも説明できないほどの強い衝動にかられ、「彼女たちのために何かできないか」と考えました。思いついたのが以前アフリカで見た、ペーパービーズを使ったアクセサリー作りでした。ペーパービーズはカレンダーや新聞紙を細く切り、爪楊枝にクルクルと巻いて作ります。車いすに座ったまま、自分の好きな時に携わることができる上、要らない紙を使うので材料費もかからないのではと思いました。

ネットで関連記事や動画を見て作り方を研究し、毎晩、とりつかれたように紙を切り刻んでは丸めました。シェルターの女性たちの多くは家族から見捨てられ、多くのトラウマを乗り越えてきています。いい加減な気持ちで提案し、期待を持たせるだけで終らせては絶対にいけない。1カ月ほど1人で試行錯誤を重ね、ようやく「作り方を教えられるレベルになった」と感じました。シェルターを再訪し、「一緒にペーパービーズ革命を起こそう」と提案しました。

学校に通うパキスタンの女の子たち=高垣さん提供
イスラマバードの経済的に貧しい地域=高垣さん提供

いまではビーズの作り手に、地方の貧しい農村部やスラム街で、困難を抱えながら暮らす女性らも加わり、約200人になりました。

作り手の報酬は歩合制です。国の定める最低賃金よりも高めに設定してあります。それぞれの事情に合わせて、毎日2、3時間だけパートで作業する人もいれば、ビーズ作りで得た収入で、家計を支えている人もいます。パキスタンでは女性が経済的に自立するハードルは高く、障害をもつ女性が雇用される機会はほとんどありません。希望を失っていた彼女たちが、自らの手で美しいアクセサリーを作り、現金収入を得る。そのことで自信を取り戻し、表情が明るくなっていきます。

ペーパーミラクルズは、パキスタン国内だけでなく、日本を含む海外の大手メデイアで取りあげられ、ブランドとして確立されつつあります。毎年行っているファッションショーには、駐イスラマバードの各国大使らがモデルとして参加し、脚光を浴びています。

パキスタンに来たのはそもそも、開発援助コンサルタント会社の起業のためでした。日本の大学を卒業後、米国の大手通信機器会社に就職し、そこで途上国のIT教育を支援する仕事に携わりました。UNDP(国連開発計画)やUSAID(米国際開発庁)と提携して、IT技術者が不足していた発展途上国での教育環境構築や技術者育成の推進が主な仕事でした。

もともと開発援助に興味があったので夢のような仕事でした。出張で約50カ国を訪れ、現場に足を運ぶ機会にも恵まれました。ただ、一つの国に1、2日ほど滞在してまた次の国へ、というような生活に、物足りなさも感じました。「もっと現場に入りたい」。そう思って、約10年間勤めた会社を辞め、まずは最貧国と言われるバングラデシュ、続いてパキスタンで、国際機関や開発援助機関のプロジェクトの計画策定や運営をする開発援助コンサルタント会社を立ち上げました。

本業はようやく軌道に乗り、部下にもだいぶ任せられるようになりました。しかし、ペーパーミラクルズの活動はこれからが正念場です。販路拡大など多くの課題があり、プレッシャーもありますが、その分やりがいも感じています。

私のOFF

高台からイスラマバードの街をのぞむ=高垣さん提供

私が住んでいる首都イスラマバードは計画的に整備された、緑の多いきれいな街です。定期停電など発展途上国ならでは多少の不便さはありますが、大型ショッピングモールもでき、あまり問題なく生活できます。

やはり一番の心配は、治安です。特にここ1年ほどは相次いでテロ事件が起きるなど、情勢は悪化しています。いつどこで何が起きるか分からない状況なので、スタッフが出張する時は心配です。私も部下が心配するのでドライバーと行動を共にすることが多くなり、やや不自由を感じます。自宅では、数年来、常勤の警備員を雇っており、最近では友人に勧められ、ラブラドール犬を飼い始めました。人懐っこい性格のため、番犬としての力量発揮はこれからのようですが。

週末もなんだかんだで、結局、ビジネスミーティングが多いですね。それ以外の時間は、ネットで新しいビーズ作りの技法を研究したり、事業に役立ちそうな情報を見つけては関連記事を読んだりしています。もともとパソコン1台あれば、何時間でも過ごせるタイプです。仕事の延長ではありますが、好きなことですから。(構成・浅倉拓也)

Eri Takagaki

たかがき・えり/1974年、東京都生まれ。米通信機器大手を経て、バングラデシュとパキスタンで開発援助コンサルタント会社を営む。