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『パディントン2』 「移民」のクマに学ぶ、不寛容との向き合い方

シネマニア・リポート
東京でインタビューに答えるヒュー・ボネヴィル=仙波理撮影

「移民」「外国人」と聞くと、「自分とは無縁」と思う人も多いかもしれない。でも19日公開の英・仏映画『パディントン2』(原題: Paddington 2)(2017年)でクマのパディントンと暮らすブラウン家のお父さん役ヒュー・ボネヴィル(54)にインタビューし、はっとさせられた。何らかの「よそ者」「新参者」になる経験は、誰にだってある。移民排斥と不寛容が世界で渦巻く今だからこそ、ペルーから英国に渡った「移民」パディントンに学んでみよう。

『パディントン2』は英国の作家、故マイケル・ボンドが1958年から書いた世界的な児童文学『くまのパディントン』を原作とした実写版『パディントン』(2014年)の続編だ。ペルーの森で生まれ育ち、ロンドンへひとり「移民」をしたクマのパディントン(声: ベン・ウィショー、37)は、ヘンリー・ブラウン(ボネヴィル)&メアリー・ブラウン(サリー・ホーキンス)夫妻一家の一員に。よそ者を嫌う近所のカリーさん(ピーター・カパルディ、59)に邪険にされながらも、楽しく暮らしていた。ある日、骨董品店で高価な「飛び出す絵本」を見つけ、故郷で独り暮らすルーシーおばさん(声: イメルダ・スタウントン、62)の100歳の誕生日に贈ろうと、窓ふきの仕事を始める。うまくいかず落ち込むものの、次第に腕をあげてお金も貯まっていくが、ある夜、絵本が何者かに盗まれるのを目撃。必死で追いかけるが、駆けつけた警官に逆に逮捕され有罪となり、刑務所へ送られる。真犯人を探して奔走するブラウン一家。背後では、パディントンから聞きつけた「飛び出す絵本」にただならぬ関心を持った落ち目の俳優、フェニックス・ブキャナン(ヒュー・グラント、57)がよからぬ動きを見せていたーー。

『パディントン2』より ©2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.

このヒュー・グラントの役柄は、かなりろくでもない、それでいて憎みきれないキャラだ。第1作に続いて脚本も書いたポール・キング監督がグラントにあて書きした。来日したグラントは東京でのプレミア上映での舞台挨拶で、 「(監督から)『昔はとても有名だったのに、今やすっかり落ちぶれてとても苦々しくなり、自分がとても大好きな俳優の役がある。あなたはそれにぴったりだと思う』という手紙が届いた。ちょっと傷ついたけどね」とおどけたが、オファーはすぐに受けたそうだ。「これまでやった映画の中で『パディントン2』はベストかもしれない、と思っている。引き受けた当初はまさかそうなるとは思っていなかったけど、ちょっと変わった形の名作だと本当に思う」とまでグラントは言った。

東京でのプレミア上映を前に舞台挨拶するヒュー・グラント(右)とヒュー・ボネヴィル=1月16日、藤えりか撮影

実際、この作品を見ながら私は何度も笑って泣き、泣いて笑った。ヒュー・ボネヴィルにインタビューの冒頭でそう言うと、「まさにそれが狙いだよ」と返ってきた。

パディントンがブラウン一家と暮らすロンドンの「ウィンザー・ガーデン」地区は、第1作よりも人種的に多様になっているように見えた。第1作公開後、欧州は中東やアフリカなどから移民や難民が殺到し、いわゆる「欧州難民危機」に。英国は2016年、欧州連合(EU)離脱を決めた。今作は、この間の変化を反映しているのだろうか。ボネヴィルは答えた。「ロンドンないし英国は今、先が読めない雰囲気になっている。他国との協調から脱しようとしている特異な状況にあるためだ。私の人生の中で、英国は一度は共同市場の一員となりながら、国民投票でEU離脱を決めた。どうなるか見通せない独特の雰囲気が漂っている。それでもロンドンは変わらず多様だけどね」

ヒュー・ボネヴィル=仙波理撮影

ボネヴィルはそのうえで、「マイケル・ボンドは『くまのパディントン』を最初に書いた1958年の時点で、意識してか無意識なのか、すでに文化的にも人種構成的にも変わりつつあるロンドンの姿を反映させていた。彼が住んだロンドンの地区にはカリブ諸国からの移民が大勢流れ込み、それが映画の第1作にも第2作にも登場したカリプソ・バンドのヒントになっている」と、多様性は原作の当初から織り込まれていたと語った。

パディントンは、ロンドンのパディントン駅にたどり着いた時、スーツケースを抱え、「このクマをよろしくお願いします」という札を首に下げていた。「これは(第2次大戦中に)子どもたちがガスマスクを着けてロンドンから避難した時の様子が原型となっている」とボネヴィル。英BBCによると、英南部レディング育ちのボンドの脳裏に、戦時中のニュース映像が焼きついていたそうだ。つまりパディントンは、「移民」の象徴ばかりではないのだ。

『パディントン2』より、ヒュー・グラント(左) ©2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.

ボネヴィルは続けた。「私たちはものすごく不確かな世界を生きている。英国だけでなく、どの地域でも緊張関係がある。それに向き合おうということだ。米国もとても不安定で 、不寛容が急速に広がっていると言える。そんな中、『親切で礼儀正しくしていれば世界はちゃんと応じてくれる』と言うクマが出てくるなんて、すばらしいよね。実際は必ずしもその通りにならなくても、そうありたい、ということだ」

『パディントン2』より、ヒュー・グラント(左) ©2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.

それにしても、パディントンはカリーさんに何を言われても、刑務所で嫌な目に遭っても、基本的にはきちんとしていて、礼儀正しい。怒る時もあるけれど、あくまで紳士的だ。パディントンはある意味、外国人(foreigners)やよそ者は善人であれ、という世の中の期待を体現している……。そこまで言うや、ボネヴィルはすかさず応じた。

「外国(foreign)という言葉をどう定義するかによるよね。私たちはみんな、パディントンのような経験をしてきたと思う。人生のある時期には誰だって、新入生になったり、街を引っ越したり、見知らぬ国に行ったりして、他者の助けに頼りながら溶け込んで一員となろうとすることがある。そこではみんな、どんな環境でもなじもうと考える」。そうだ、移民をめぐる問題自体、移民に限った話ではない。

ヒュー・ボネヴィル=仙波理撮影

「地元の習慣や価値観への配慮は必要とはいえ、もちろん礼儀正しくすぎる必要はない。でも、宗派を変えさせられるとか、暴力的に何かを強制させられたりするのでない限り、新しいところへなじもうとするのも、市民の義務ではないか。一方で、他者を受け入れ理解するのも市民の義務だと思う。世界中の緊張関係や敵対心は、互いへの理解や寛容な心が足りないことから起きているのだと思う」

物語とはいえ実際、パディントンによっていろんな人の閉じた心がどんどん開かれている。ボネヴィル演じるヘンリー・ブラウンも、第1作の当初はとても注意深いキャラで、パディントンにも距離を置いていた。それが第2作にかけて、ずいぶん楽しい雰囲気になってきた。「子どもを持つ前のブラウン夫妻は気楽で、ヘンリー・ブラウンもネクタイとは無縁だった。でも子どもを持ったことで、危険はないか目を光らせ、守りに入って注意深くなった。それがパディントンの登場で大混乱が生まれ、彼も解き放たれる必要を感じた。もっと寛大になって冒険心を持つようになり、若い時のような元気や楽しい感じを取り戻していったんだ」

『パディントン2』より、ヒュー・グラント(左) ©2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.

とはいえそれでも、近所のカリーさんは相変わらず排外的だし、彼のような人物は世界中で増えている。EU離脱の手続きを進める英国のメイ首相(61)は移民規制を掲げる。パディントンが現実に存在すれば、結局は強制送還だろう。メイ首相にこの映画を見てもらいたい? いや、すでに見ているかもしれないけれど。

ボネヴィルは言った。「見ているかもね。ただ、この映画はメイ首相に政治的なメッセージを送ったり、国境を開こうと訴えたりするのではなく、人間の本質について問いかけ、寛容の気持ちや、人の中にある最良のものを見いだそうという作品なんだ。物事がいい方向に進むのは、人が善意をもって楽観的になった時であって、ネガティブになって誰かを批判し失礼なことをしたり、理解を拒んで壁を作ったりする際ではない。いい点を強調してネガティブなものをなくすというのが、マイケル・ボンドの物語の中心にある」

ヒュー・ボネヴィル=仙波理撮影

そのうえで、ボネヴィルは強調した。「パディントンの哲学はシンプルに、礼儀正しく親切であること。この世界もそうすればしばらくは、うまくやっていける可能性があるんじゃないかな」

シリーズを俯瞰すると、第1作は移住編、今回の第2作は定住編と言える。3作目があるとしたら、どんな流れになるだろう? 「第1作で家を見つけたパディントンは、第2作でコミュニティーに入り、近所にどんな人たちかいるのか知って、文化や人々と交わった。第3作は、どうだろう、恋したりしてね」。ボネヴィルは笑った。その頃にはパディントンも「移民」「よそ者」扱いをされなくなっていることを願いつつ、取材を終えた。

©2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.