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EU離脱をやめる方法 元イギリス副首相の主張 ロンドンから

Bestsellers 世界の書店から

今年3月、EUからの離脱通告をした勇ましい英国だが、まともな交渉に入らぬまま交渉期間2年のうちすでに1/3を無駄にした。レームダック化したメイ首相の求心力は失せ、離脱後の経済見通しは暗い。交渉相手のEUは、英国のやる気(ないしは能力)を疑い始めている。

こうした状況でうまれたベストセラー『How to Stop Brexit』。著者ニック・クレッグは自民党に所属し、キャメロン連立内閣で副首相を務めたが、6月の総選挙では労働党候補に敗れ、現在は浪人中。

ブレグジットを止められなければ民主主義ではない、と彼はいう。民主主義ならば国民投票の結果を尊重しろ、という意見への彼の反論は、「事実が変わった場合、私は意見を変える」というケインズの言葉だ。

最大の事実の変更、というよりも真っ赤な嘘が、EUから離脱すれば毎週35000万ポンド(約520億円)をNHS(国民保健サービス)に還元できる、というやつ。王室に次ぐ英国民の第2のプライドNHSが破綻寸前というときにこの数字は干天の慈雨に見えた。ところがこれに根拠がないことが投票直後にばれた。離脱キャンペーンの幹部が、あのインチキ数字を使わなかったら国民投票で負けていたと証言し、「離脱は間違い」と告白する始末だ。英国民は「EU離脱」という欠陥商品を売りつけられたのだから、これを突き返すのは正しい行為だ、と著者はいう。

ではどうするか?離脱に関する条文を書いたスコットランド人法律家が、離脱は撤回可能と明言している。2回目の国民投票をやればよい。そのためには労働党に入党してEU残留を唱えよ、というのが著者の主張だ。労働党議員232人のうち離脱に投票したのは10人程度(保守党議員も317人のうち176人が残留に投票したとされる)。もし労働党と肌が合わなければ保守党に入党してEU残留を唱えよという。上の数字の通り、両党ともマジョリティーは残留派だったから、民意が離脱を嫌い始めたと感じれば流れは変わるという。

ところで、総選挙でクレッグ氏が落選した理由を、彼のブレーンはこう説明している。「ニックは夢中になると自分のことも党のことも顧みなくなるんでね」。確かに、自分が党首を務めた自民党を身びいきせぬ彼は、今回も捨て身である。

ペーター・ヴォールレーベンの『The Hidden Life of Trees』は、ドイツ語からの英訳本で、邦訳(ベストセラーリスト参照)もある。副題の「木々は何を感じ、どのようにコミュニケートするか」が本書の内容を良く表している。木が社会的生物であることを教えてくれる本である。

昔から草木にも感情があるというおとぎ話のような説があるが、それに似た「驚くべき話」を科学的説明で補強して聞かせてくれる。例えば第2章の「木の言葉」はアカシアの木が仲間を救う話。キリンに葉を食べられたアカシアは数分以内に有毒物質を葉に送り込む。キリンはこれに気づいて別のアカシアを食べに行くのだが、わざわざ100メートル以上離れた木を選ぶ。最初にかじられたアカシアが警報ガスのエチレンを出し、これを受信した近接するアカシアがこぞって毒の放出を準備するからだそうだ。また、ある植物の根が220ヘルツの音を発し、別の株の根っこがその音源方向へ先端を向けたという実験など。他にも、渇水時に「喉の」渇きを超音波の悲鳴で表現する木とか、子世代を「教育する」親世代の木の戦略、死にそうな木を隣の木々が助ける話など。山歩き、森林浴の好きな人たちには開眼の書になるだろう。

ドイツ人は「森の民」と形容されるだけでなく、2002年の憲法改正で「自然的生存基盤および動物を保護する」と憲法に書き入れた実践的な人々でもある。昨年「森林アカデミー」を創設した著者は、そうした良きゲルマン的伝統の直系の伝道師であり活動家なのだ。

現在まで地球上に存在した人間を総合計すると1,070億人になるという。現在の世界人口が70億だから1,000億はすでに地に海に帰った人々である。Adam RutherfordA Brief History of Everyone Who Ever Livedは、これら全員(=everyone who ever lived これまで生きた人々)のグループヒストリーを、DNAを鍵にして解き明かそうという壮大な趣向である。著者は壮大に闊歩する中で、これまでの人類史にかかわる誤解や謬見を次々になぎ倒してゆく。そのなかで最も痛快であり、かつ本書のメインテーマと思われるのが「人種」の否定だろう。「遺伝学の観点から見る限り『人種』は存在しない」。初期遺伝学者のひとりであり優生学を創始した人物、フランシス・ゴルトンが人種差別意識の強いレイシストだったという著者の指摘は、強烈な皮肉だ。

英国のベストセラー(ペーパーバック・ノンフィクション部門)

11月4日付けThe Times紙より

※ 『』内の書名は邦題(出版社)

1 The Sun and Her Flowers

Rupi Kaur ルピ・カウア

インド出身カナダ人の第2詩集。第1詩集同様、自作の詩とイラスト

2 Sapiens: A Brief Story of Humankind 

『サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福』

Yuval Noah Harari ユヴァル・ノア・ハラリ

人類の進歩を奇抜な切り口でさばく刺激的な本

3 The Marches

Rory Stewart ローリー・スチュアート

著者は父親から歩くことを教わった。89歳になる父と最後の1,000キロ徒歩旅行

4 How to Stop Brexit

Nick Clegg ニック・クレッグ

EU離脱の決定は間違いだった。間違いを改める柔軟性も民主主義

5 Milk and Honey

Rupi Kaur ルピ・カウア

インド出身カナダ人の第1詩集。アマゾンの自主出版でデビュー

6 The Hidden Life of Trees

Peter Wohllben ペーター・ヴォールベン

ドイツ語からの訳本。森とはソーシャルネットワークである

7 Homo Deus: A Brief History of Tomorrow

Yuval Noah Harari ユヴァル・ノア・ハラリ

世界的ベストセラー『サピエンス全史』の続編。人類はどこへ向かうのか?

8 Keeping On Keeping On

Alan Bennett アラン・ベネット

今年83歳になる劇作家の日記とエッセイ集

9 Prisoners of Geography

Tim Marshall ティム・マーシャル

私たちの歴史も文明も日常も皆、地理に囚われている。最新地政学

10 A Brief History of Everyone Who Ever Lived

Adam Rutherford アダム・ラザフォード

20万年の人類史をDNAを使って語り直す