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「世の中にないものをつくる」。洗濯物をたたむ夢の機械 妻の一言から生まれた

Breakthrough 突破する力
洗濯物自動折りたたみ機「ランドロイド」の説明会でプレゼンテーションするセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社長の阪根信一=東京都渋谷区 Photo: Semba Satoru
洗濯物自動折りたたみ機「ランドロイド」の説明会でプレゼンテーションするセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社長の阪根信一=東京都渋谷区 Photo: Semba Satoru

2005年のことだ。帰宅した阪根は、単純に妻に聞いた。「世の中になくて、家の中で使うもので、ほしいものは何かない?」。ちょうど洗濯物をたたんでいた妻は「これを、自動でやってくれる機械でしょ」と一言。たたんでみると、あまりにも時間がかかる。この時間をほかの有意義なことに使えたら――。リサーチすると、世界のどの企業も挑戦していなかった。「よし、やろう」
これが、世界初の「洗濯物自動折りたたみ機」となる「ランドロイド」の始まりだった。だが、まさか製品化までに13年もかかるとは想像していなかった。
「ランドロイド」の試作機が、東京・表参道のショールームにある。サイズは大型冷蔵庫ほど。側面には天然木が使われ、前面は鏡になっている。一見すると家具のようだ。引き出しに数枚のTシャツが放り込まれると、静かなモーター音が鳴り始めた。胴体部のわずかな隙間から見えるのは、黒いロボットアーム。内蔵されている人工知能(AI)が、衣類の種類や大きさを見極め、アームが折りたたんでいく。15分後。扉が開き、Tシャツがきれいにたたまれて出てきた。

機械が自動で洗濯物を折りたたむ様子をプレゼンする阪根信一さん(動画)

来年3月までの日本、米国、中国の同時発売をめざし、準備は最終段階に来ている。3年ほど前から注目を浴び、パナソニック、大和ハウス工業も出資した。価格は185万円を予定。最初は高値でも、ゆくゆくは20万円以下にしたいという。将来は洗濯機や乾燥機ともつながり、汚れ物を入れたらスイッチひとつできれいになって折りたたまれ、各部屋のクローゼットまで運ばれていく。最初からそのシステムが備え付けられた一戸建てやマンションができたら――。そんな未来図を描く。

中学受験直前、歯車が狂った

阪神間で生まれ育った。小学生のとき、住友電工に勤めていた父・勇が40歳で独立。研究開発型のベンチャー企業を立ち上げ、本拠を滋賀県大津市に置くことに。当時、神戸の名門、灘中をめざしていた阪根だが、受験直前の引っ越しで歯車が狂う。塾では灘中に余裕でいける成績だったのが、滋賀から通える京都・洛星中の受験に失敗してしまう。
中高時代は「死ぬほど遊んだ」。高3最後の半年間だけ勉強して、入れる大学に滑り込む。小さいころから好きだったスキーを思い切りやろうと、体育会スキー部に入った。そこで先輩から1年間、言われ続けた言葉があった。
「人生の目標を決めろ。目標設定をして、そこから逆算して、今日、何をするか決めるんだ」。気にも留めていなかったのに、いつの間にか体にしみこんだ。
大学院では勉強に打ち込もうと決意し、米東部のデラウェア大学に進んだ。「日本人とつるまない」と決め、日本人に日本語で話しかけられても英語で返した。優れた研究成果に与えられる賞をもらい、28歳で化学分野で博士号を取った。
帰国後、勇の会社ISTに入社した阪根は、カテーテル治療に関連する医療系のヒット商品を生み出し、いきなり高収益を生む。すると、勇は「お前に任せた」とCEO(最高経営責任者)に就任させ、やがて自らは会長に退いた。阪根は「ビジネスは30年間だけ」と決めていた。目標は「30年後、売り上げ3500億円、経常利益20%」。成功したら、財産を死ぬまでに使い切る覚悟で社会貢献活動をするのが夢。ただ、逆算すると、企業向けの商品だけでは売り上げ目標に達しない。消費者向けの製品開発に乗り出そうと考えた。
阪根は、若いころからいびきをかいていた。スキー合宿では、いびきのうるさい部員専用の「怪獣部屋」に寝かされた。長時間フライトでは目覚めたら隣の人が席を替わっていることも。睡眠時無呼吸症候群は高血圧や心臓病にもつながりかねない。妻からは「このままだと、死ぬよ」と言われた。空気を鼻から送り込む機械を使って寝るようにしたが、持ち歩くのが不便だった。
「使い捨てコンタクトレンズのようなものができないか」
大半の睡眠時無呼吸症候群は、のどの構造や肥満などから、就寝時に、のどの肉が下がって気道をふさいでしまうために起きる。ならば、鼻から管を入れて気道を確保しようと、軟らかい金属で試作品を作ってみた。阪根自身が被験者として鼻に入れたとたん激痛が走り、血みどろになってうめくことになった。
シリコン樹脂にするなど改良を重ねて完成した睡眠時無呼吸症候群の改善器具「ナステント」は、ヒット商品になった。

発想はまず「ニーズ(需要)」から

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「ランドロイド」の機能などについて説明をする阪根信一=東京都渋谷区 Photo: Semba Satoru

「最も影響を受けた人物」という父・勇とたもとを分かつ道を選んだのは、CEOになって数年後のことだ。会社の急成長を目指し、阪根が将来の上場を見据えるのに、勇は反対した。勇には、苦い思い出があった。日本で初めてプラスねじを生産した会社の社長だった父・健三が、会社の乗っ取りにあったのだ。勇は「会社は従業員のためにある。外部資本はいらない」と譲らなかった。けんか別れではない。会社に対する考え方の違いからの「別離」だった。
父と同じ40歳で起業。ベンチャー企業で、宇宙開発の技術を使ってミクロン単位でゴルフのカーボンシャフトを作る事業なども立ち上げた。それぞれは分野も技術も異なり、相互に関係がないように見えるが、阪根はこう言い切る。「うちの会社にこの技術があるから、それを生かして製品を作る、という考え方はしない。『シーズ(種)思考』ではなく、世の中にどのような『ニーズ(需要)』があるのかという点から考えている」
ランドロイドの構想を初めて伝えたときは「頭がおかしくなったのか」と社内で言われた。それでも、阪根は少人数で開発を続けた。人の手で衣類をセットすれば、機械にたたませるところまでは比較的簡単にできた。だがそれでは、あまり手間の節約にならない。AIが、無造作に放り込んださまざまな衣類の形を見分け、それぞれに応じたたたみ方をして、仕分ける。そこまでこぎつけるのに13年かかった。
父の勇は、そんな息子をこう評する。「思いついたら全身全霊。石にかじりついてでも成功させるというところは、自分に似ている」
阪根のランドロイドは昨年秋、東京都内で開かれた起業家コンテスト「スタートアップ・ワールドカップ」の日本予選で優勝。5月には米シリコンバレーの本選に出場する。1月には、世界中の企業が出展するラスベガスの家電・技術見本市「CES」にも出展、米国などの海外メディア約30社の取材を受けた。米大手テレビ局も取り上げ、女性キャスターは「これはいいわ!」とカメラに向かって笑みを浮かべた。
ランドロイドが世界的なヒット商品になるには、まだいくつもの壁を破らなくてはならない。だが、阪根は壁を恐れてはいない。
若いころ、阪根はこう考えていた。「成功する人とは、賢明であり、描いた場所に向かい、勝利を重ねていく人のこと」
今は違う。「成功とは、とんでもないトラブルの連続を、あきらめずに乗り切ること」。もがき苦しみながら生き残った人を、成功者と呼ぶのだと思う。(文中敬称略)

■Profile
1971 兵庫県芦屋市生まれ
1994
 日本の大学を経て、米デラウェア大学大学院入学
1999
 デラウェア大学大学院化学・生物化学科博士課程修了
2000
 父・勇の経営するISTに入社、取締役に
2003
 ISTCEO(最高経営責任者)に就任。08年には代表取締役社長に
2010
 IST代表取締役社長退任
2011
 Seven Dreamers Laboratories, Inc.を米国で創業、CEOに就任。14年には日本法人を設立
2014
 いびきを抑える医療器具「ナステント」を発売
2016
 パナソニック、大和ハウス工業から出資を受け、セブン・ドリーマーズ・ランドロイド株式会社設立、代表取締役社長に就任
2017
 洗濯物自動折りたたみ機「ランドロイド」の発売を記者発表(18年度中に発売へ)

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■Memo

スキー大学時代はスキーにのめりこんだ。目標としていた学生選手権で入賞したことも。1999年からは、健常者と障がい者が同じコースを使って成績を競うスキー大会である「icetee cup」を主導してきた。2016年には、主催団体をNPO法人として登録した。ボランティア活動は「スキーへの恩返し」だという。

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大学時代のスキー部の仲間と。阪根は写真中央=本人提供

父も起業家…勇(74)がISTを創業したのが1983年、40歳のとき。通信ケーブルや新幹線などに使われている不燃機能繊維、コピー機などに使われるトナー定着用耐熱チューブなど、独自の技術で優れた製品を次々開発、高収益企業に育てた。米化学大手、デュポンから樹脂原料事業を買収し、米国法人も持つ。一度社長を譲った信一が2011年にISTから独立すると同時に勇が再び社長に復帰したが、16年に長女で信一の姉である利子(としこ)に社長を譲り、勇は会長に退いた。

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阪根の父、勇。「何か新しいものを作れないか、いまも考えています」=滋賀県大津市のI.S.T本社で