1. HOME
  2. 特集
  3. 太平洋波高し
  4. 記者が見た緊張の最前線 南シナ海を行く海上自衛隊の護衛艦に同乗取材

記者が見た緊張の最前線 南シナ海を行く海上自衛隊の護衛艦に同乗取材

World Now
南シナ海で海自の護衛艦「いずも」〔写真右)から「さざなみ」へと蛇管を繫いで燃料を補給。速力12ノット、間隔40ヤードを保ちながらの危険な作業だ photo:Kajiwara Mizuho

「レーダー探知!」──。「いずも」のスピーカーから、男性の短いアナウンスが響いた。艦内に緊張が走る。横になっていた私もベッドから跳び起き、「何が起きるのか」と身構えた。レーダーがとらえたのは、中国軍のものとみられる機影だった。「レーダー、ロスト!」。まもなくレーダーから姿を消した。

全長248メートルの「いずも」は、日本が保有する最大かつ最新鋭のヘリコプター搭載型護衛艦だ。潜航中の潜水艦を発見する、対潜哨戒ヘリなどを搭載する。5月に横須賀を出港した後には、論議を呼んだ安全保障関連法に基づき、自衛隊の艦船が平時に米軍艦船を守る「米艦防護」の任務に初めて就いた。

女性自衛官30人を含む乗員450人の一日は、午前6時の起床号令から始まる。共に出航した護衛艦「さざなみ」への燃料の補給、哨戒ヘリによる哨戒活動、人道支援・災害救援の訓練……。乗員たちのスケジュールは分刻みだ。公表された「いずも」の任務は訓練だが、実際の大きな狙いは、国際法に基づく秩序維持のため南シナ海やインド洋でその存在を示すことだ。

中国はこの南シナ海で、最近は使わなくなったが九段線という独自の区画線を主張してきた。この内側に「管轄権および主権的権利」が及ぶとして、岩礁を埋め立て人工島に変え、そこから12カイリを「領海」としている。一部には巨大滑走路やレーダー施設を設置し、軍事拠点化しつつある。

国際法上は、平和や安全を害さない限り領海を自由に航行できる「無害通航権」が認められているが、中国は国内法で軍艦が領海を航行する場合は事前の許可が必要という立場を取る。排他的経済水域(EEZ)についても国内法で独自の権利を主張している。

海上に船舶や漂流物がないか、警戒する「いずも」乗員 Photo: Kajiwara Mizuho

南シナ海は海洋資源が豊富で、海上交通の要衝でもある。さらに中国海軍の拠点である海南島には原子力潜水艦の基地がある。水深が深く、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)搭載の原潜が西太平洋へ出るための戦略的な配備に適している。

日米や東南アジアの国々は中国の動きを警戒するが、互いの主張は平行線だ。

撮影:梶原みずほ

今年6月、シンガポールで開かれた国際会議「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」では、中国の代表団の一人である国防省安全協力センター主任の周波が「毎年約10万隻が南シナ海を自由に航行している。頻繁に軍艦を航行させる米国の方が南シナ海を軍事化している」と反論した。

「いずも」の長期航行のもう一つの目的が、日本が近年強化している東南アジア諸国連合(ASEAN)との防衛協力だった。ベトナムの軍事要衝・カムラン湾では米海軍主催の多国間演習「パシフィック・パートナーシップ」に合流。フィリピンでは大統領のドゥテルテを「いずも」に招いた。ASEAN10カ国の海軍士官らも5日間乗せ、海上自衛官が国際海洋法などを講義した。

こうした「いずも」の活動の背景には、同盟国に負担の共有を求める、米国の期待もある。米国は、中国が領海と主張する南シナ海の海域などに軍艦を通航させる「航行の自由作戦」を続けている。実効性に乏しいとの指摘があることに対し、米太平洋軍司令官のハリー・ハリスは「南シナ海は世界全体の問題であり、なぜ米国1カ国だけでやっているのか」と逆に疑問を呈す。

ただ、尖閣諸島をめぐって中国と対立する日本は、東シナ海への影響など米国と異なる事情も抱えている。日本政府はこれまで、防衛相らが「航行の自由作戦」の支持を表明する一方で、自衛隊が参加する予定はない、と繰り返してきた。「いずも」も今回の航行では、中国が主張する「九段線」の内側には入らなかった。

ロンドン大学キングスカレッジ戦争学教授のアレッシオ・パタラーノは「中国の登場により、海は国家が海軍力を背景に影響力を競う伝統的なパワーポリティクスの舞台へと逆戻りした」と指摘する。そのうえで「安全な海上交通路によって繁栄してきた日本は、東シナ海の先のどの範囲まで関与するのかしないのか、他の国以上に問われている」と話している。

(文中敬称略)