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研究で見えてきた 100歳の心には、まったく別の幸福の世界がある

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2017年11月、東京都健康長寿医療センター研究所で行われたSONIC調査の様子 photo:Yukari Takahashi

100歳を迎えた人が昔ほど珍しくなくなった今だが、私たちはどこまで彼らが見ている世界を知っているのだろうか。100歳近い人の心の内には、70代ごろまでの人とは異なる「幸福感」が存在する――東京都健康長寿医療センターと大阪大学などの研究(SONIC)から、こんな分析結果が浮かび上がってきた。「老年的超越」と呼ばれる精神世界は、どんなものなのか。

85歳を超えて感じる「超越的な価値観の世界」

「老年的超越」はスウェーデンの社会学者、ラルス・トルンスタムが1989年に提唱した概念。85歳を超える超高齢者になると、それまでの価値観が「宇宙的、超越的なもの」に変わっていくという。①思考に時間や空間の壁がなくなり、過去と未来を行き来する②自己中心性が低下し、あるがままを受け入れるようになる③自分をよく見せようとする態度が減り、本質が分かるようになる、といった特徴がある。

日本でも、2010年から7年にわたる高齢者約3千人へのインタビューや分析の結果「老年的超越」が裏付けられた。仕事を引退し、体力が衰え始める6070代では、できないことが増えることに不安が募り、鬱々とした気持ちが高まるが、85歳以上になると超越する傾向が強まるという。大病を経験すると強まる傾向もあった。

センター研究員の増井幸恵(53)は「できないことが増えて不幸感が高まると思いきや、自分自身をとらえ直し、不幸感が弱くなり感謝の気持ちが高まっていく」と分析。「6070代の人は、超高齢になった親の様子の変化に戸惑ったり、いら立ったりすることが多い。老年的超越の存在を知ることで、家族や介護職員の接し方も変わってくるのではないか」と話す。(文中敬称略)