「里親ってなに?」
「本当に自分に続けられるか自信がない」
「里親はできないけど、他に協力できることは?」
10月10日、東京・浜離宮朝日ホールで開かれたパネルディスカッション第1部「里親の輪を広げるには」には、このような質問が多く寄せられました。
こどもが成長する過程において家庭で暮らすことは大切ですが、家庭養護を提供する里親家庭やファミリーホームで暮らすこどもたちは、まだ2割に過ぎません。
当事者である、現役里親の斎藤夫妻、子育て中の眞鍋かをりさん、日本女子大学教授の林浩康さんと一緒にみんなで考えてみました。(敬称略)

左から、岩崎賢一さん、林浩康さん、斎藤直巨さん、斎藤竜さん、真鍋かをりさん
パネルディスカッションの登壇者

【質問1】里親制度が身近でない私たちは何から始めればいいですか?

岩崎賢一(以下、岩崎):このパネルディスカッションには、会場やWebでの参加申し込みの方から登壇者に多くの質問が寄せられています。今日は、その質問に答える形で進めていきます。まずは大阪府の20代の女性からの質問です。「親と暮らせないこどもが約4万5000人いるという問題は、すべての人に関わることです。それでありながら、里親制度や特別養子縁組制度はあまり身近でないと思います。私たちは何から始めればいいですか」。自己紹介とともに順番にアドバイスをお願いします。

眞鍋かをり(以下、眞鍋):2年ぐらい前、虐待問題に対して世論が高まった時、何かできないかということで署名を集めて厚生労働省に届けました。そこで児童福祉に興味を持って、色々なところに取材に行きました。最初は、自分が里親になれるわけではないのに啓発に関わっていいんだろうかという思いがありましたが、みんながそう思っていたら前に進めないなと実感しました。世間の感覚では、里親という制度は日本人の日常生活にまだ溶け込んでいません。里親になる人を増やすだけじゃなくて、まず応援団を増やしていかないといけないと思います。

斎藤竜(以下、竜):里親をやって14年になります。今は長期の女の子を3歳の時から預かっています。もう10年で中学生になりました。我が家は、他に実子が19歳と14歳の実子の女の子がいて家族5人で暮らしています。ご質問をいただいた方に伝えたいのは、興味を持ったことをSNSなどで伝えるだけでも意義があるということです。

斎藤直巨(以下、直巨):里親制度については高校生の頃から知っていました。結婚してすぐ2人のこどもに恵まれましたが、悲しいことに流産も経験しました。抱きしめることさえもできないこどもがいることを実感して、生きているこどもってなんて素敵なんだろう、抱きしめられるこどもたちの力になりたいなぁと思って里親を始めました。こどもがもう一人ぐらいいて、一緒にご飯を食べて、一緒にお昼寝して遊んで、一緒に色々なことを経験することぐらいは私にもできるんじゃないかと思って始めました。

林浩康(以下、林):育ててくださっている里親さんへの敬意を持つ、あるいは里親や特別養子縁組に関心を寄せて情報を身近な人たちに伝えていくことがまず一歩だと思います。親と暮らせないこどもたちを公的責任で社会的に養育し、養育が困難な家庭にも支援をする「社会的養護」の社会には、国民も含まれます。また週末里親とかショートステイのような形での貢献の仕方もあります。子育てを共有し、様々な「社会的親」の担い手になることができます。

質問に答える斎藤直巨さん、竜さん夫婦
斎藤直巨さん、竜さんのインタビュー「あきらめないで! 里親ネットワークで乗り切ろう」はここから

【質問2】里親をしていて困ったことや、つらかったことはありましたか?

岩崎:斎藤さんにお聞きしたいと思います。長野県の50代の男性からの質問です。「里親家庭をしている中で、困ったことや、つらかったことはありましたか。解決方法やこんな支援があればよかったということも含めて教えて下さい」

直巨:こどもにとって親と離れ離れになってしまった経験は大きな衝撃です。その衝撃を抱えたこどもにとって必要な心のケアがわからず、トラブルの原因にもなりました。何度、里親を辞めようと思ったか。「今日こそ辞める」と言って、家族に止められたこともあります。話し合いをして本音でぶつかり合いながらやってきました。
解決方法ですが、私の場合は色々経験している里親の先輩が受け止めてくれました。「こうしてみたら」と教えてくれたり、泣きながら愚痴を言って聞いてもらったりして大変な時期を乗り越えました。自分を受け止めてもらえたからこそ、こどもを受け止める力も湧いてきたのかなと思います。里親の先輩とつながるためには、東京都なら里親サロンが毎月あります。私もサロンで色々聞いてもらいながら、ネットワークを広げていきました。

質問に答える真鍋かをりさん
眞鍋かをりさんのインタビュー「眞鍋かをりさんが子育てで大切にする『幸せになる力』って?」はここから

【質問3】育児疲れや孤立する実の親へのケアが大切では?

岩崎:「育児疲れや孤立からこどもへの虐待に至る前に、気軽に短期的に里親にこどもを預かってもらえる仕組みや、実の親のケアやサポートの仕組みが大切ではないか」という意見も多くの方からいただきました。児童福祉関連の活動をされている眞鍋さん、アドバイスはありますか。

眞鍋:親へのサポートは絶対に必要だと思います。負のスパイラルにはまってしまうと自分で抜け出すのは大変なことです。 私も最初に児童福祉に関心を持った頃は、どうして虐待をするようなひどい親にケアしないといけないの、と思っていました。でも実際に色々なケースを取材してみると、これが一番効果的なんだなとわかったんです。インタビューをした児童養護施設の園長が「こどもに必要なのは、衣食住だけじゃない」と話していたのが印象的でした。家庭的な養育が必ず必要である、と。そのために、その園ではこどもや親に対するサポートのプログラムを組んで就学前までに親の元に戻ることを目指していました。こどものためには、そういう仕組みが必要だと感じました。

現役里親ならではの具体的なアドバイスが述べられるパネルディスカッションの様子
パネルディスカッションでは、現役里親ならではの具体的なアドバイスがいくつも述べられた

【質問4】里親のレスパイト・ケアの現状は?

岩崎:東京都の40代の女性から質問が届いています。里親にも、疲れたり、時間が欲しかったりする時があります。厚生労働省の「里親委託ガイドライン」では、里親の一時的な休息のための支援(レスパイト・ケア)を積極的に活用するようにと記載されています。「里親のレスパイト・ケアの現状について教えて下さい」

直巨:私たち家族はすごく使いました。実子も2人いるので、こどもたちの心の調整をしなければいけないということがあります。先輩里親に、(迎え入れているこどもを)海や山に連れて行ってもらっている間に、実子のケアをしました。子育ては休み休みすることがすごく重要です。昔だったら大家族だったり、ご近所の人たちだったりみんなが一時的に預かってくれるから、制度を利用しなくてもレスパイトができていたんですよね。それが今の時代は難しいので、こういう仕組みがあると思います。眞鍋さんがおっしゃったように、里親もすごく真面目な方が多くて、レスパイトを取りにくく感じている方もいます。でも悪いことじゃなくて、その分リフレッシュしてまた子育てに取り組めるほうが私は前向きだと思います。

リフレッシュをして、心の調整をした上で子育てに取り組むことが大事だという斉藤直巨さん
夫婦で役割分担をしながら里親をする斎藤さん夫妻

【質問5】里親を続けるための経済力ってどれぐらい?

岩崎:次の質問は三重県の40代の女性からです。「里親をやっていくためには実際どのくらいの経済力が必要になるのかが不安で、里親になる勇気がでません。金銭的な持ち出しについて教えて下さい」

竜:里子にかかる費用は基本的に全て国・自治体が賄ってくれます(詳しくはここから)。例えば、学費は基本的に支給されますし、教材費など細かいものは後で申請ができます。里親として重要なのは、(里親夫婦の)どちらかが定職についていて安定した収入があることです。定職がなくなると里親の資格がなくなってしまいます。

質問に答える林浩康さん
林浩康さんのインタビュー「こどもの『生きる力』を育む里親家庭」はここから

【質問6】実の親との交流はどうなっているの?

岩崎:里親は特別養子縁組と違って、戸籍が移るわけではありません。里親として迎え入れたこどもと実の親との交流について、神奈川の20代の女性から質問が届いています。「こどもと実親との交流や思いは、どのように保障されているのでしょうか」

直巨:我が家の場合、3歳から預かっていますが、その頃から丁寧にお母さんの話などをしながら育ててきました。こどもにとってなぜ(真実告知が)必要かというと、自分が誰で、どんな人から生まれたのか、根源的な思いをこどもはずっと抱き続けているからです。こどもを思うからこそ、こどもが思うお父さんお母さんのことを大切に思う、というスタンスで今まできました。こどものペースで自分の親や過去について振り返っていけるように、一緒に考えながらサポートできたらと思います。
交流についても、こどもに危険性がない限りはこどもの思いを尊重します。実は今年、うちの子は実の親と交流ができるようになるということで話が進んでいます。良かったなぁと思います。これからこの子はいろんなことを考えて、心が揺れる時期もあると思いますが、そばで味方になって寄り添っていきたいです。

眞鍋:とてもデリケートな問題ですよね。実の親の気持ち、里親の気持ち、こどもの気持ちがありますし、それが本当にこどもにとって良いことなのかはケースで全然違うと思うんです。実の親が病気や問題を抱えているケースもあるわけで。その辺りをどうジャッジしてくれるのか、教えてもらいたいです。

林:交流は、児童福祉法に規定されています。でも眞鍋さんも危惧されているように、実の親の状況は多様です。今、9割以上のこどもたちに両親のいずれかが存在していますので、親子交流は外せません。こどもの立場からすると、自分を大切にしてくれている里親さんも、生みの親も、良い関係であることが安心につながります。自分の目の前で里親さんと実親さんが楽しげに話している、自分を気にかけてくれている、という実感を持てることが大事です。「忠誠葛藤」「ロイヤリティコンフリクト」という言葉があるように、両方に忠誠を誓わなければいけないという、こどもが過剰な気遣いを強いられる面があります。両方の親を愛することは「決してタブーじゃないんだよ」と儀式としてこどもに伝えるのは一つの方法だと思います。生みの親の状況は本当に様々です。経済的な困難を抱えてこどもを虐待してしまったかもしれません。でも支援環境が与えられることで保護者の状況も安定すれば、こどもに適切に関われる可能性も大きいと思います。そこに児童相談所がどう関わるか、力量も問われます。
例えば、海外では実親子交流室という場所が児童相談所にあります。リビングやキッチンがあって、家庭的な雰囲気の中で交流できる部屋が必要なんです。

実の親との交流について意見する登壇者
地域で里親を支える輪が広がれば、里親家庭の負担も軽減される

【質問7】40代、50代でもできることあるの?

岩崎:終了時間が近づいてきました。最後は京都府の40代の男性からの質問です。「我が家はこどもに恵まれませんでした。養子縁組も考えましたが、私が40代、妻が50代という年齢では難しいとあきらめています。それでも虐待のニュースを見るたびに、『そんなことをするくらいならうちに迎えさせてくれ!』 と心を痛めています。私たちにできる支援の方法はありますか」。虐待などの問題に心を痛めている方はこの会場でもWebでの参加者でも多くの方が関心を寄せてくださっていると思います。最後に一言ずつアドバイスやメッセージをいただけますか。

眞鍋:こどもが何歳になった時に自分が何歳か、と考えると私も体力的に不安になることはあります。養子縁組をあきらめている方でも、いろんな支援の方法がありますよね。週末里親とか3日里親とか。ハードルを高く感じてしまうのは、支援の方法を具体的に知らないからだと思うんです。今日も斎藤さんご夫妻のお話を伺って里親家庭の実像が見えてきました。今は自分のこどもで精一杯ですが、子育てが落ち着いてきたら、何らかの形で支援や受け入れができたら楽しいかもしれない、と今日のお話を聞いていて感じました。

直巨:40代、50代なら、里親をされている方がいっぱいいます。ぜひ挑戦してほしいと思いました。東京都は年齢の規定を撤廃しています。

竜:いきなり養子縁組や里親ではなく、近所のお子さんを預かることから始めてもいいでしょう。ファミリーサポートやショートステイの受け入れ先としてスタートしていただいたら、助かる方がたくさんいます。その上で里親をやってみたいと思ったらやっていただくといいと思います。

林:養育里親に関しては年齢規定を設けている自治体は少ないです。ある自治体では65歳を超えると健康診断書を出していただいて、できる里親の形態を担っていただくという場合もあります。養子縁組に関しては、国から自治体などに出された通知文には、養親とこどもの年齢差が40歳ぐらいが望ましいという記載がありました。それは削除されました。体力や定年にも個人差がありますし、年齢要件で排除することは徐々に少なくなってきているように思います。

岩崎:本日はみなさんありがとうございました。

【動画】シンポジウム第一部の模様はこちらから
デジタルリーフレット
デジタルリーフレットのダウンロードはここから

イベント参加者から寄せられたその他の質問

里親を広く知ってもらうことを目的に開かれたパネルディスカッションで、当日のタイムスケジュールに収まらなかった質問の一部について、登壇者から回答を頂きました。

【質問8】登録しても何年も迎え入れるこどもがいない人がいるのはなぜ?

岩崎:山形県の50代の女性からの質問です。「家庭養護が必要なこどもがたくさんいるにもかかわらず、里親登録していながら何年もこどもを迎え入れる話がない登録里親もいると聞いています。なぜでしょうか」

林:長期にわたる未委託状態は、ご本人の里親への思いを失わせると同時に、社会としての損失でもあると思います。一方、未委託の要因は多様であるかと思います。何らかの理由で里親がこどもを受託できる状況でなくなったこと、例えば実子の誕生、介護への従事、高齢となり委託が困難、里親の希望と委託可能なこどもとの齟齬(そご)、養育里親と養子縁組里親双方に登録し、養子縁組成立後も双方への登録は継続しているが、現時点では委託は困難など様々かと思います。

直巨:とても残念なことだと感じています。私の場合、先輩里親の方から「なるべくサロンに出て交流し、こどもを預かる意思があると伝えると良いよ」とアドバイスいただいていました。児童相談所の職員側としても大切なこどもを預ける里親さんと信頼関係が築けていると、より積極的にお願いすることが増える傾向にあるようです。一方で児童相談所の職員の方にお願いしたいのは、委託がされない理由を登録里親さんに説明し、改善のためのサポートをして欲しいと思います。きちんと説明してくだされば、ほとんどの方はこどものために努力してくださると思います。

【質問9】赤ちゃんを迎える際にあたっての研修はあるの?

岩崎:東京都の40代の女性からの質問です。「育てたいという気持ちが大きくなり、今、真剣に考えています。赤ちゃんを迎える際にあたっての養育里親や養子縁組里親の条件や、研修について教えて下さい」

林:児童相談所を通してこどもを迎え入れる場合、研修の中に数日間の乳児院での実習があります。また正式にこどもを迎え入れる場合、自宅に迎え入れる前に乳児院でのこどもとの交流期間があり、職員が養育方法を教えてくれます。養育里親や養子縁組里親の基本的な要件としては、親の元で暮らせない要保護児童の養育についての理解、熱意、こどもへの豊かな愛情を有していることがあります。

直巨:育てたいという気持ちを持ってくれてとてもうれしいです。力になってほしいと思っているお子さんはいると思います。養育里親では、赤ちゃんをお預かりする場合は乳幼児研修を受ける必要があります。ぜひ児童相談所へ相談してみて下さい。お仲間になってくださること、楽しみにお待ちしています。

【質問10】近所にどのように説明したらいいか悩んでいます

岩崎:静岡県の50代の男性からの質問です。「現在、里親をしています。こどもの年齢や性別が受け入れごとに違うので、近所にどのように説明したらいいか悩んでいます」

斎藤:色々な考え方や地域差がありますので、私がどんな対応をしているかをお伝えしますね。我が家は基本的に近所の方には「こんなかわいい子が仲間入りしています! よろしくお願いします」と呼び名や年齢など簡単に紹介しています。こどものプライバシーに踏み込んだ質問に対しては「ごめんなさい、こどもの個人情報を守らないといけないので、言えないこともあるんです」と説明すると、みなさん理解してくれて同じ質問はしないように控えてくれているようです。私の知らないうちにお菓子をいただいたり、「かわいいからアイス買ってあげちゃう!」と声をかけられたり、中学生になっても温かく見守ってくれています。

林:ご近所には里親であり、多様なこどもを預かったり、実の親の家庭に戻ったりすることがあると伝えられるだけで十分だと思います。こどもの個人情報を伝える必要はないと思います。里親は公的養育者として、児童相談所や里親支援機関の職員と連携し、その伝え方については助言を求めながら行う必要があると思います。

◆おことわり
パネルディスカッションの第2部「『特別養子縁組』という家族の形」は後日、朝日新聞社のバーティカルメディア「telling,」の特集ページに掲載します。

【動画】シンポジウム第一部&第二部の模様はこちらから