科学では説明できない、いわゆる「超常現象」。これを米国人のどれだけが信じているかを数値化するには、いくつかの方法がある。
一つは、社会の中から抽出した人々に、「幽霊を信じるか」と尋ねることだ。パリを本拠とする世界的な調査会社イプソスの2019年の世論調査によると、米国人の46%が「信じる」と答えた。
別の方法もある。何がこわいかを聞くことだ。米チャップマン大学が実施した21年の関連調査によると、米国の大人1035人のうち「幽霊」もしくは「ゾンビ」をあげた人が約9%ずついた。はるかに多くの人は、「政府の腐敗」「コロナウイルス」「社会不安の広がり」と答えていた。
米ギャラップ社が、世論調査で最後に「幽霊」について尋ねたのは05年のこと。回答者の32%が「幽霊や死霊の復活」を信じていた。同じ質問をした1990年の調査では、そう答えたのは25%だった。
超常現象を信じることは、何世紀もかけて米国の文化に染み込み、メディアとも深い関わりができた。でも、そう信じる人の割合が増えたことについては近年、新たな解釈の試みが一部の専門家の間でなされている。
米国人の宗教離れが、ここ数十年で進んだことと部分的に関係しているのではないか、との見方だ。
「生きることにまつわる大きな問題について、人々はこれまでとは視点を変えたり、伝統的な方法を離れたりして考えようとし、必ずしも宗教とは結びつかなくなっている」。米ボーリング・グリーン州立大学の社会学者トーマス・モーウェンは、こう指摘する。
一例として、宗教と超常現象について続けられている調査を見てみよう。その分析結果から、モーウェンは「無宗教者の方が宗教心の深い人より超常現象を信じる傾向がある」ことを発見したという。
■超自然界への関心
ギャラップ社が2021年3月に発表した調査によると、宗教団体に属している米国人の比率は20年に50%を割った。(訳注=この種の調査が始まってから)80年余で初めてのことだった。
逆に、無宗教の人が増えている。米居住者を対象にシカゴ大学が続けている総合的社会調査(GSS)では、その割合は1978年から2018年の間に3倍近くになった。
生と死の意味について考える宗教的な枠組みは、米国ではこうして細っている。一方で、自分はなぜ存在するのかというような大きな命題が消えたわけではない。
GSSによれば、この40年間で宗教を信じる人は減った。しかし、来世を信じる人の割合は比較的安定しており、1978年は約70%、2018年は約74%だった。
これについて「American Secularism: Cultural Contours of Nonreligious Belief Systems(米国の世俗主義:非宗教的な信念体系の文化的な輪郭)」の共著(訳注=2015年刊行)があるジョセフ・ベーカーは、こう記している。「宗教組織には属さなくなっても、超自然界への関心は依然として続いている」
超常現象は、テレビや映画、その他さまざまなメディアで扱われている。これが、超自然的なものを信じることが続く重要な要因になっている、との分析もある。
17年刊行の「Scientifical Americans: The Culture of Amateur Paranormal Researchers(科学的な米国人:超常現象を探るアマチュア文化)」の著者シャロン・ヒルは、関連のノンフィクション番組がテレビで増えるようになったことが、とくに大きな影響を及ぼしたと見ている。
米テレビ局Syfyのリアリティー番組「ゴーストハンターズ」は、その代表例だろう(絶頂期には放映されるたびに平均で約300万人もが視聴した)。04年に始まり、超常現象探りを肝試しのように描いて、当初は11シーズン続いた。
「面白い小道具を駆使し、専門用語が飛び交い、真に迫っていた」とヒルは語る。「自宅のテレビの前に座っている人は、大変なことが世界で起きていると信じ込んだ」
「超常現象への関心が高まり、大衆紙にとってはたわいもない街の話を取り上げるだけで十分だった」とヒルは続ける。「家に悪霊がいる。幽霊を見た。ビデオカメラにゾッとするようなものが映っている」
こうした関心を、インターネットが世界の隅々まで結びつけるようになった、とヒルは補足する。中でも、掲示板型ソーシャルニュースサイトのレディットは、説明不能なミステリー情報を交換する場として人気を集めた。高速道路のパーキングエリアでの不気味な体験。病院のある施設で聞こえる悪魔のいさかいのような声……。
こうした話に相互対話機能を加えたことが、このサイトでは新しかった。読者は好きなときにコメントできたし、話に入り込んだり、新たなネタを加えたりすることができた。
■コロナ禍で増える超常現象
超常現象を調べているいくつかの米国内の組織は、コロナ禍になっていつもより調査依頼が増えたという。
その一つ、オハイオ州トレドの「Fringe Paranormal(二次的超常現象)」。代表のドン・コリンズによると、居住地を調べてほしいという依頼や関連情報を求める問い合わせが、21年は毎週のように入るようになった。コロナ禍の前は、通常は月に1、2回しかなかったことだ。
「自宅にいることが多くなり、在宅時に超常現象に出くわすようになったのが一因ではないか」とコリンズは話す。
「説明できない現象が起きると、人々は超常現象としてとらえがちになる。だから、身の回りにあったおかしなことを超常現象と結びつけている、ということなのかもしれない」
先のジョセフ・ベーカーの見解は異なる。「宗教と超自然現象を信じる思いは、いわゆる『実存の危機』――もしくは生命に差し迫った危険が生じている状況――のもとでは高まるものだ」というのだ。
「コロナ禍で苦しみや死と直面する機会が多くなり、誰かを最近失ったという事例も増えている。それが、最愛の人の霊について思いをめぐらすことにつながっているのではないか」
超自然的なものを信じることは、「いやし」の源泉にすらなるようだ。英ビクトリア朝(訳注=ビクトリア女王が統治した1837~1901年の時代)に生きた女性の伝記を書いている作家エミリー・ミドリカワは、歴史的な類似性を引き合いに出す。
米国の南北戦争(訳注=1861~65年)のころに、「霊媒を礼拝することを求め、死者が生者と交信できると信じる降霊術にいやしの場を求めた人たちが急増したことがある」とミドリカワは話す。そして、当時も今も超常現象が人間関係をつなぐ糧になっている側面があることに着目する。
ビクトリア朝では、降霊術の会合は社会的な出身階層をさほど問わない集いの場でもあった。「集まった男女に女性の霊能者が語りかけながら先導することがままあった」とミドリカワ。「いささか非日常的なそんな場に参加する女性にとっても、家庭を出て他の人々と交流するという魅力があった。ささやかな自由を感じることにひかれた女性もいたのだろう」
現代においても、超常現象の一部は違う意味での自由を代表しているのかもしれない。(訳注=超常現象が起きることで)ものごとには一つだけではなく、別の可能性もあることが示されるという見方だ。
日常生活に潜む謎は多い。でも、「現代社会はそんなもの」と単純に受け入れてしまっていることがいかにたくさんあることか。
「超常現象を信じることは、それほど困難なことではないのかもしれない」とミドリカワは思う。
「私たちが絶え間なく関わっていることがらを、それぞれがさまざまに解釈しながら生きているということの方が、ある意味では魔法のようなことなのだから」(抄訳)
(Anna P. Kambhampaty)©2021 The New York Times
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