米宇宙軍(U.S. Space Force)は、2019年に当時のドナルド・トランプ大統領が署名した法令に基づいて創設された。空軍が陸軍から1947年に独立して以来、6番目の米国の軍種となった。
それだけでは済まなかった。この新設軍の存在を目に見える形で分かるようにするにはどうすればよいか、という難問にもつながっていた。それを確立する作業は一から始まったも同然で、今も続いている。
しかも、静かな環境で進めるわけにはいかなかった。
「宇宙軍なんて、くだらない。お金の無駄遣いだ」という批判が出た。動画配信の最大手、米ネットフリックスは、「宇宙での米国の利害を守る機関とその任務」を風刺するテレビコメディー「スペース・フォース(原題:Space Force)」(主演スティーブ・カレル)を流した。
「そんな中で、宇宙軍の特性をいかに速やかに示すか。月に宇宙飛行士を送り込むのが軍務なら、それは容易だろう。ところが、それもままならない。全要員が、地球上で任務に就いているからだ」
米陸軍戦略大学の教授(戦略論)ジャクリーン・ホイットは、宇宙軍が自らの存在を分かりやすく発信する難しさをこう説明する。
それでも、その作業は一歩ずつ進んでいる。
所属兵の正式呼称は、「guardian(ガーディアン=守護者)」に決まった(訳注=陸軍兵の「soldier」、海軍兵の「sailor」、空軍兵の「airman」に相当)。矢尻形のデルタをあしらったロゴが発表され、地球や宇宙にちなんだ階級章もできた。
そして、新しい制服の試作品が、このほど公開された。
宇宙軍のトップである宇宙作戦部長ジョン・W・レイモンド大将自らが、首都ワシントン近郊で(訳注=21年9月に)開かれたNPO「米空軍協会」(訳注=空軍と宇宙軍は実質的に姉妹関係にある)の年次会合「空・宇宙とサイバー空間についての会議」でこの試作品を紹介した。
新しい服を着てステージに立ったのは、女性がアリー・ゴンザレス中佐、男性がディラン・コーディル少佐だった。
濃紺の上着にグレーのズボン。上着の色は、宇宙の広大さを表す。袖口にある銀色の飾りひもは、未来に向けた21世紀の意志を示す。銀は価値ある金属であり、色としては金よりも宇宙によくあっている。
なんといっても最大の特徴は、上着が左右対称ではないことだろう。銀ボタンが、右肩から下に斜めに並ぶ。その数は六つ。6番目の軍種であることを示している。
ネットフリックスの先のコメディーでは、戦闘服には月のクレーターを模した迷彩が施されていた。そんなおちょくりは、今回の制服にはもちろんない。それでも、一部では批判や冷笑の標的となった。
多いのは、宇宙軍のアイデンティティーをハリウッドのSF作品からまねようとしているとの見方だ。だから、制服というよりは、舞台衣装になってしまったと続く。
例えば、(訳注=SFものをよく扱う)文化情報サイト「Giant Freakin Robot(巨大なひどいロボット)」。人気テレビドラマにひっかけて、「米宇宙軍は『Battlestar Galactica(邦題:宇宙空母ギャラクティカ〈オリジナル版〉、もしくはGALACTICA/ギャラクティカ〈リブート版〉)』の制服を着ようとしている」の見出しを躍らせた。
この記事を書いたクリスティ・エッカートは、さらにSFドラマシリーズの古典「スター・トレック」に話を広げる。1982年の「Star Trek Ⅱ:The Wrath of Khan(邦題:スター・トレック2/カーンの逆襲)」で、主人公の宇宙艦船長ジェームズ・T・カークが着ていた制服を思い浮かべるというのだ。
「この作品では、カークの制服は色が深紅でボタンもなかった。でも、上着の形そのものは、とても似ている」
ハリウッドの宇宙兵士との類似点があるとすれば、「それは偶然に過ぎない」とトレーシー・ローンは反論する。空軍の制服制作部門を率い、宇宙軍の制服も担当している。
「私の職場には、スター・トレックのファンはいない」とローン。「左右非対称のコンセプトは、軍服の歴史とともにずっとある」(確かに、「類似性」という点では、逆の見方もできる。初期のテレビドラマ「スター・トレック/宇宙大作戦」で出てきた制服は、米海軍のものと似ていたからだ)。
「昔からある形とはいえ、上着はより未来志向にしたかった」とキャサリン・ラブレディーは強調する。宇宙軍の制服やその所属を表す意匠を考案する作業のマネジャー。今回のデザインについては、ローンとともに仕事をしてきた。「他の軍服と比べてあれこれあしらう必要がなく、はるかに現代的だ」とその特徴を語る。
宇宙軍の制服作りは、オハイオ州デイトンにあるライト・パターソン空軍基地で進められた。制作には、デザイナーや型紙担当、布地の専門家らのスタッフが関わり、150以上もの案を考え出した。これを宇宙軍の中から選ばれたチームが吟味した。
忘れてはならないのは、まず女性兵士を念頭にデザイン化が進められたことだ。今日の軍務では、女性は男性と並んで、戦闘にも、指導的職務にも加わる。それを踏まえての制作過程でもあった。
「上着の第1案は、女性用だった」とラブレディーは話す。「どんな形に仕上がろうと、女性にきちんとフィットすることを最優先に考えた」
少なくとも8案を重ね、仕立ての見通しをつけた。それから、男性用の制作に入った。「私が知る限り、この手順をとったのは、これが初めてだった」
女性が正式に軍務に就くようになってからというもの、制服はほとんどが男性向けをアレンジしたに過ぎなかった。その最初は、1917年の海軍にさかのぼる。
米軍の民間補助要員としての女性だと、制服は伝統的に二つの要素のバランスをとろうとした。
「一つは、実用性。もう一つは、『パフォーマンスの女性らしさ』と私は表現したい」と先の陸軍戦略大学のホイットは解説する。
「その中で、ウエストとヒップを目立たせるスカートは、長いこと制服の定番だった。それは、両親や夫、ボーイフレンドに対して、『女性が軍隊の中に入っても、女性らしさを失うことはない』と説得しているかのようでもあった」
軍服は、すべての要員に例外なく用いられる。逆に、誰にでもピッタリあうことがないともいえる。ネットの掲示板には、志願してきた新兵の不満があふれている。とくにこれまでは女性が着心地に悩まされてきた。
「私の場合も、ズボンがいま一つだった」とアマンダ・ハフマンは振り返る。ポッドキャスト「軍の女性たち」のホスト兼制作者で、2007年から13年まで空軍で勤務していた。「上着のトップスも、望ましいフィット感にはほど遠かった。肩のところはいいけれど、胴体部分がだぶだぶだった」
ただ、ある一式の戦闘服が、体にうまくあったことは覚えている。アフガニスタンに配備されたときに支給された難燃性の軍服だ。「私ともう一人の女性は、10回のうち9回はその服を着ていた」
宇宙軍の制服の試作品も、残念ながらまだかなりの改善が必要なようだ。とくに、ズボンだ。男女用のいずれも、垂れ下がってダブつく感じがあり、とくに女性用がひどかった。このため、ツイッターではファッション評論家の批判を浴び、宇宙軍の構想に疑問を抱く声も(訳注=無駄遣いだと)勢いを得た。
先の元空軍兵のハフマンは、それほど手厳しくはなかった。夫が宇宙軍に所属し、最近も夫婦で軍服を求めにいったばかりだ。
今回の試作品については、「すごく好きではないけれど、すごく嫌いでもない。まだお目見えしたばかりなのだから」と寛容だった。
「何か新しいものを作るって、本当に大変。批判も受けやすい。けれど、作るのと批判するのとは、別々のこと」といって、こう付け加えた。
「女性にフィットするように考案しているって、とてもよいと思う。それは本当に必要なことなのだから。女性が心地よく着られるのなら、見かけは二の次でもいい」(抄訳)
(Steven Kurutz)©2021 The New York Times
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