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15歳で買った「マイ気球」 熱気球にハマる、アメリカの若者たち 

ニューヨークタイムズ 世界の話題
A sunrise flight over Enumclaw, Wash. on July 22, 2021. Ballooning had its heyday in the 70s but a new program in Washington State aims to introduce the aging sport to a new 窶
朝早くワシントン州イーナムクローの上空に浮かぶ熱気球=2021年7月22日、RUTH FREMSON/©2021 The New York Times。(訳注=後方はレーニア山)

夜が明けてすぐの上空約3千フィート(約914メートル)。熱気球のゴンドラに乗ったマッケナ・セクリスト(21)は、一握りのポップコーンを空に放った。

すると、落ちてはいかず、上へ上へと昇って白い粒は遠ざかった。これで、気流をつかめた。着陸の際の下降速度も予測できた。

「1回飛ぶごとに、冒険がある」と女性パイロットのセクリストは飛行の魅力を語る。「まず、風を使わねばならない。それが、毎回違う」

さらに、景色も変わる。「気球は、ゆっくりと進む。しかも、常に360度をぐるりと見渡せる。だから、視界が大きく広がる面白さがある」

セクリストは、全米で最も若い熱気球の職業パイロットの一人だ。いつごろから「気球の虫」になったのか、思い出せないぐらい早かった。9歳で、補助要員のボランティアになった。15歳で、自分の気球を買った。貯金をはたき、親にも助けてもらった。18歳で職業パイロットの免許を取った。

ベテランの気球愛好家たちは、彼女が新たな世代を掘り起こす先駆けになることを期待する。熱気球がスポーツとして最後に盛んになったのは、1960年代から70年代にかけてのことだった。このままでは、今のシルバー世代がやめていくと、衰退してしまうのが目に見えている。

McKenna Secrist, center, a commercial hot air balloon pilot, watches as a helium balloon, called a pibal, floats in the sky near Enumclaw, Wash. on July 22, 2021. Ballooning had its heyday in the 70s but a new program in Washington State aims to introduce the aging sport to a new 窶
気流を観測するために上げたヘリウム風船を見守る熱気球パイロットのマッケナ・セクリスト(中央)=2021年7月22日、イーナムクロー、RUTH FREMSON/©2021 The New York Times。飛行前の重要な準備作業の一つだ

そこで、次世代を育てる新たな試みが、セクリストのいる米北西部のワシントン州で始まった。

重点の一つは、層を広げることだ。女性や白人以外の人たちが主な対象となる。

幸いなことに、今は熱気球への情熱をもたらす格好の気流が、社会の奥深くからわいているようだ。コロナ禍で米国人の生活様式が大幅に変わったことが、さまざまに作用してこの上昇気流を生んでいると愛好家たちは見ている。

「飛行するたびに、自分の気球が欲しくなる」と高校の最上級生クーパー・ディル(17)は目を輝かせる。

最近も、セクリストと訓練飛行に出たばかりだ。そのときは、操縦のカギとなるプロパンガス・バーナーの出力調整にトライした。2度目の経験だった。

すでにディルは、友人のエイダン・ヒューズ(17)とともに購入資金の貯蓄を始めている。そのためには、愛車のピックアップトラックも売り払った(訳注=米国では多くの州で16歳から運転免許を取得できる)。

現在は、熱気球を買う好機でもある。多くの愛好家が、引退して売りに出しているからだ。手入れのよい気球一式が、うんと安ければ、1万ドルから2万ドルで手に入る(安くなったとはいえ、高額商品であることに変わりはないが)。これが新品なら、パイロット1人と乗客2、3人乗りのタイプで4万ドル以上もする。

そんな状況が、現実にも反映されるようになった。

Devan Pearson, right, a student pilot, helped McKenna Secrist pack up after a flight near Enumclaw, Wash. on July 21, 2021. Ballooning had its heyday in the 70s but a new program in Washington State aims to introduce the aging sport to a new — and more diverse — class of aeronauts. (Ruth Fremson/The New York Times)
飛行を終えて後片付けをするマッケナ・セクリスト(左)と操縦練習生のスタッフ=2021年7月21日、イーナムクロー、RUTH FREMSON/©2021 The New York Times

ワシントン州で長らく熱気球の操縦士兼指導員をしてきたマンディ・ジョンソンの夏季講習。新規受講生の数は、この25年で最多になった。うち3分の2は、20歳から35歳の若い人たちだ。「そのほぼ半分が女性。本当に素晴らしいことで、とてもうれしい」

熱気球が浮く仕組みそのものは、極めて単純だ。専門用語で「球皮」と呼ばれる気球の風船部分の内部温度が、外気よりカ氏100度(セ氏56度弱)以上暖かくなると、浮き上がる。この温度差が、100度を割ると下降する。ただし、外気温や気球の総重量、球皮の大きさ、乗っている人数によっても違ってくる。

空気は、ゴンドラに乗せたボンベから出るプロパンガスを燃やして暖める。球皮の天頂部のバルブと結ばれているロープを操作し、中の暖かい空気を逃がせば、気球は下降するようになる。

球皮の大きさはさまざまだが、膨らますとビルの10階相当の高さになる巨大なものもある。それだと、球皮のナイロン布の面積は全体で3千平方ヤード(2500平方メートル超)にもなり、何百枚もの布を縫い合わせるのに9マイル(約14.4キロ)もの糸が必要となる。

A crew tests the burners of the hot air ballon before taking to the skies in Enumclaw, Wash. on July 22, 2021. Ballooning had its heyday in the 70s but a new program in Washington State aims to introduce the aging sport to a new 窶
飛行を前にバーナーの調子を確認するスタッフ=2021年7月22日、イーナムクロー、RUTH FREMSON/©2021 The New York Times。その出力調整は、熱気球操縦のカギとなる

セクリストが勤めるのは、ワシントン州最大の都市シアトルの近郊にある熱気球の運航・遊覧会社「Seattle Ballooning(シアトル気球飛行)」。そのチーフパイロット、エリアブ・コーエンは、ハイテク企業の経営者でありながら、スポーツとしての熱気球の普及に米国で最も熱心に取り組む一人として評価されている。

コーエンが、21年に熱気球の操縦を習う若者を募集したところ、これが米映画会社アマゾン・スタジオズの目にとまった。19年に19世紀の実話を題材にした米英合作の冒険映画「イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり(原題:The Aeronauts)」を製作しており、コーエンの企画が自社のプロモーション機会になると見たからだった。ほどなくして、この映画に登場した気球「マンモス」のレプリカが、コーエンと応募者向けに送られてきた。

そのコーエンは今、ワシントン州に居留地を持つ先住民族マックルシュートやシアトルを郡庁所在地とするキング郡の関係者と協議しながら、経済的にも、人種的にも多様な層の若者を集めようとしている。

Passengers, from left, Cata Stewart, Phil Brown and Jacob Murillo, 16, brace for landing in Enumclaw, Wash. on July 22, 2021. Ballooning had its heyday in the 70s but a new program in Washington State aims to introduce the aging sport to a new ム and more diverse ム class of aeronauts. (Ruth Fremson/The New York Times)
着陸に備える熱気球の乗客たち=2021年7月22日、イーナムクロー、RUTH FREMSON/©2021 The New York Times。人種的に多様な若い世代を熱気球に引きつけられるかが問われている

ワシントン州など太平洋に面した米北西部での気球の歴史を振り返ると、注目すべき女性の系譜が連なっていることに気づくだろう。草分け的な存在の中には、ルアナ・シーバーの名前がある。布の扱いに秀で、気球を修理する最も初期の会社の一つを立ち上げている。

さらには、グラディス・ドーソンブローカーがいる。曲芸飛行士であり、空中で飛行機の翼の上にも立った。オートバイの操縦や落下傘の降下も得意とした。彼女たちが、あとに続く女性の気球愛好家たちに刺激を与えたことは間違いない。

その一人が、ジンジャー・ケリー(88)。髪形が乱れぬようにドーソンブローカーが使ったヘアネットを指しながら、恩師をこう振り返る。

「これをかぶった彼女は、何かできるようにはとても見えなかった。でも、とんでもない。何から何までやってみせた」

シアトル一帯の地域で、気流を決めるのは地平線を圧するレーニア山だ(訳注=標高4392メートル。ワシントン州を南北に貫くカスケード山脈の最高峰)。

A convoy of vehicles roll away after a sunset flight in Enumclaw, Wash. on July 22, 2021. Ballooning had its heyday in the 70s but a new program in Washington State aims to introduce the aging sport to a new 窶
夕方の飛行を終え、後片付けを済ませて撤収する車両=2021年7月22日、イーナムクロー、RUTH FREMSON/©2021 The New York Times

夕方は、低空の空気が何マイル(1マイル=約1.6キロ)も手前からこの山に向かう。これに乗った気球は、だいたいは1本の川に沿って山に引き寄せられる。太陽がカスケード山脈を暖める午前中は、逆に冷たい空気が山を下り、すそ野へと広がる。

似たような気流現象は、米南部ニューメキシコ州にもある。「アルバカーキ・ボックス」の名でよく知られている。いずれの場合も、日々大きく異なって当たり前の気流に、例外的な規則性があることを示している。

こんなことも踏まえながら、気球をどう操縦するか。その要点は、どこにあっても、目には見えない気流の地図をいかに読み取るかにかかっている。そのときの気流の本流にうまく乗るには、高度を上げるべきか、下げるべきか。それが分かりさえすれば、だいたいは自分が進むコースを予測できるようになる。

とはいえ、気球の最大の魅力は、いつも思い通りにいくとは限らないことにあるのではないだろうか。空気とその動きは、日々刻々と変わる。だから、どこに着陸することになるのか、前もって確実に知ることはできない。

玄関のドアノック。これが、先のチーフパイロット、コーエンが飛び立つ前の日課となる。飛行拠点は、シアトルから車で南に1時間ほどのところにあるイーナムクロー。着陸することになりそうな一帯の各戸に声をかけて回る。

「どうしても避けられないときは、色鮮やかな気球がお宅の畑の地面をちょっぴりならすかもしれないけれど、びっくりしないでほしい」。こうあいさつすると、だいたいは笑って同意してくれるとコーエンはいう。

気球の飛行には、地上の仲間の存在も欠かせない。離陸を助け、飛行中は車でトレーラーを牽引(けんいん)して気球を追う。山場になるのは着陸地点。いつも、ちょっとした冒険になる。

Balloonists on a sunrise flight prepare to land in Enumclaw, Wash. on July 21, 2021. Ballooning had its heyday in the 70s but a new program in Washington State aims to introduce the aging sport to a new ム and more diverse ム class of aeronauts. (Ruth Fremson/The New York Times)
早朝の飛行を終えて着陸しようとする熱気球=2021年7月21日、イーナムクロー、RUTH FREMSON/©2021 The New York Times。着陸する土地の所有者には、できるだけ同意を取り付けるようにしている

エイダン・ヒューズも、セクリストの気球を追いかけながら、その冒険をじかに味わうことになった。

その日は風が弱く、着陸が予定より早まった。このため、ヒューズは各戸につながる私道を何本も走り、着陸の同意を取り付けることになった。

「今いるところよりもう一つ右側」。上空のセクリストから無線が入る。「家の人と会えて、OKをもらえれば、もう最高」という声にギリギリのところで応えることができた。同意をもらい、気球は無事に着陸した。

「それでも、この世界には、たまに機嫌の悪い人もいる。気球に腹を立てたって、何の得もないのに」とセクリストは肩をすくめた。(抄訳)

(Kirk Johnson)©2021 The New York Times

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