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「ゲイの選手」でなく「いい選手だ、そしてゲイだ」と言われたい 東京五輪競歩へ

People 更新日: 公開日:
2016年リオ五輪に出場したトム・ボスワースさん=英国オリンピック委員会提供

トム・ボスワースさんインタビュー LGBTなど性的少数者に対する差別をなくそう――。五輪憲章があらゆる差別を禁じていることから、東京五輪前に成立への機運が高まっていた「LGBT法案」は、自民党が国会提出見送りを決めた。ゲイであることを公表している陸上選手のトム・ボスワースさん(英国)が東京五輪開幕前にオンライン取材に応じ、「多様性と調和」の重要性を訴えた。(聞き手・星野眞三雄)

――2015年に英BBCのインタビューでゲイだと公表し、16年のリオデジャネイロ五輪の間にパートナーに結婚を申し込み、注目を集めました。

私は家族やチーム、支援者らといい関係性を築いていたので、私生活もオープンにしていました。ただ、公の場でパートナーについて話すことはできませんでした。英国で、特にスポーツ界で、どう受け取られるか怖かったからです。間違っていると思いますが、スポーツ界では一般社会とは異なる扱われ方をします。15年にカミングアウトしたとき、私は有名人ではなかったのに、なぜBBCで大きく取り上げられるのか理解できませんでした。どんな人間も受けいれる「正常な社会」から、スポーツ界がいかに遅れているか分かりました。

私自身と家族を守りたかったので、カミングアウトしたのです。リオ五輪の1年前だったので、選手たちのふだんの生活にもメディアやソーシャルメディアからの注目が高まっていました。私はパートナーと一緒にいる写真を新聞で見たくなかったし、ストーリーをつくられたくなかった。自分のストーリーを自分で話したい、コントロールしたいと考えました。私自身に正直でいたい。そうした行動を私は誇りに思っています。多くの人が「あなたはとても勇敢で模範となる」などとメッセージを送ってくれました。

――あなたのカミングアウトから何が変わりましたか。

個人的なレベルでは、大きく変わりました。とても積極的になり、社会の受容や平等、調和について話すようにし、スポーツ界がより良くなるように心がけました。同時に、トップアスリートは競技に集中することが重要です。「同性愛者と見られているかもしれない」と不安に陥ることなく、練習に取り組み、競技に集中できなければトップアスリートにはなれません。カミングアウトの後、私はリオ五輪で6位になり、六つの英国記録をつくりました。自分がどういう人間なのか隠すことを心配せず、レースに勝つことに集中できるようになったことが、成功をもたらしたと思います。

私が公表してから6年になりますが、まだカミングアウトする人はわずかです。東京五輪に出場する約1万1000人の選手の中で、LGBTであることを公にしている選手は百数十人ぐらいでしょうか。

2016年リオ五輪に出場したトム・ボスワースさん=英国オリンピック委員会提供

――多くの人にとってカミングアウトするのはまだ難しいと。

カミングアウトする人が非常に少ないのは明らかだし、最近でも有名人が公表すると大きなニュースになり、速報にもなる。多くの人がカミングアウトすれば、だんだんニュースにもならなくなるでしょう。ゆっくりでもいいので、オープンに生活できることが当たり前になってほしいです。

――「LGBTの選手」と見られることについてどう感じていますか。

いつも「ゲイのアスリート」として知られるのは望んでいません。まずアスリートとして知られたいが、ゲイでもある。自らを型にはめられたくないのです。だから多くの人がカミングアウトするのを恐れるのだと思います。「あの人はゲイのサッカー選手だ」「ゲイのハンドボール選手だ」と言われるからです。「彼はいい選手だ、そしてゲイでもある」と言われたい。私の二つの面であって、異なることだということがとても重要です。どちらかだけが私を定義づけるわけではないのです。

オンラインでインタビューに答えるトム・ボスワースさん

――多様性や調和を高める活動に取り組んでいますね。

だれもが歓迎され、幸せに感じることができるような社会になってほしいと思っています。カミングアウトしたときには想像できなかった多くのことに取り組むことができましたが、いかに遅れているかも知りました。英国代表選手として、スポーツ界の調和について英国議会で演説したり、イングランドサッカー協会の前会長と話したりしました。イングランドでは、サッカーはとても注目度が高いスポーツですが、カミングアウトしている選手はいません。

――東京五輪の前に期待された「LGBT法案」は日本にまだできていません。

日本でLGBTの人たちがそれ以外の人たちと比べ法的に平等な扱いから遠いところにいることに驚きました。五輪はそうした法律ができるように変化を促す存在になり得ます。私は訪問する国のLGBT関連のニュースをネットやSNSで調べるようにしています。日本からの情報を見るかぎり、日本人はLGBTの人々が平等に扱われることを良いと感じ、受けいれています。LGBTの人たちにとって危険な国が世界には多くありますが、日本はそうした国の一つではありません。法律が成立すれば、これ以上「すべての人に平等を」と主張する必要がなくなります。五輪やパラリンピックは人々の視野を広げる力を持ち、12年のロンドン五輪も「多様性と調和」を主要テーマにすえていました。東京五輪がそうしたことを促すことができれば、とても良いことだし、そうなることを望みます。すべての人が平等に扱われる国を訪れたいと思うからです。

――東京五輪・パラリンピックに期待することは何でしょうか。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため日本では競技以外のことはできませんが、すべての人が東京五輪を歓迎してほしいし、LGBTのコミュニティーや選手も歓迎してほしい。コロナ禍が始まってからの世界最大の祭典になるのですから、すべてのアスリートが安全に楽しむことができる大会になることを望むとともに、日本の人たちが五輪を素晴らしいものとしてとらえ、多くのことが得られるように望んでいます。そして世界がコロナ後の「新たな章」のスタートを切るきっかけになってほしいと思います。
       
Tom Bosworth 1990年生まれ。英国代表の競歩選手。2016年のリオデジャネイロ五輪では陸上男子20キロ競歩で6位に入賞した。英国では同性婚が認められており、リオのビーチでパートナーの前にひざまずきプロポーズしている写真をツイートし、話題を呼んだ。