女子フェンシングの元日本代表、杉山文野氏(39)は多様性が進んだ今回の五輪を高く評価する。心と体の性が一致しないトランスジェンダーの活動家でもある杉山氏は若いころを振り返り、かつて差別的な言葉が飛び交うことが当たり前だったスポーツの世界は大きく変わったと指摘する。
杉山氏がフェンシングを始めたのは10歳のとき。めきめきと頭角を表し、女子の日本代表に選ばれるまでになった。しかし、女子の試合に出場することに葛藤を覚え、25歳で引退した。
フェンシングという競技は大好きだったが、自分の居場所を見つけられなかったと杉山氏は言う。
日本は優れた市民社会と民主国家として知られるが、同性愛者やバイセクシャル、トランスジェンダーといったLGBTQ問題については遅れていると活動家などは指摘する。
五輪憲章は性的少数者への差別を禁じている。東京都も2018年に差別を禁止する条例を制定したが、同水準の条例を導入している自治体は日本国内にほとんどない。
人権団体などの活動家は、東京五輪がLGBTQ問題に対する世論の認識と支持を高めるきっかけになることを望んでいる。
日本は人権を尊重する国だと世界の人たちは考えているだろうが、実際は逆だと、LGBTQの権利擁護団体「プライドハウス東京」の松中権氏は言う。性的指向の差別を禁じる法律がないと指摘する。
女子ホッケーのドイツ代表で主将を務めるニカ・ローレンツ選手は今大会、LGBTQ社会との団結を示すレインボーカラーの腕章をつけて全ての試合に出場する。ドイツのオリンピック・スポーツ連盟によると、国際オリンピック委員会(IOC)が連盟側の訴えを認めた。
LGBTQの権利を訴えるプライドパレードを主催する元フェンシング日本代表の杉山氏は6月、日本オリンピック委員会(JOC)の理事に就任した。杉山氏は、東京五輪が前向きな議論につながることを期待している。