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とめどなく言葉が飛び交うインド人の食卓 対話力を磨く秘密がそこにあった

World Now
グーグルに入社したロハン・コーリさんと家族=コーリ家提供

■会話から得られる愛情

「ナヒーン」「ノーノー」。インドの家庭の食卓では、とめどなく言葉が飛び交う。招かれた家でよく聞くのが、ヒンディー語や英語の「否定語」だ。

話し終えると間髪をいれずに「それは違う」。その次の人も「いやいや」。安易に相づちを打つことはない。心から言い合いを楽しんでいるようだ。熱狂しすぎて「政治の話はいい加減やめて!」と誰かが止めに入ることも。

今年、インド工科大(IIT)に合格したジョティカ・ロイチョードリさん(18)の家でも、1日に1度は必ず家族全員で食卓を囲み、彼女の勉強や社会の話題などあらゆることを話す。塾に週5日通い、勉強漬けのジョティカさんだが、家族との会話は安らぎの時間だ。

家族で好きな神様が違うことだってあるのだから、意見が違うのは当たり前。家族との会話から、子どもは言葉で表現し、意見が異なる他者も尊重することを学ぶ。絶え間ない会話を生む家族の愛情が基盤にあってこそ、子どもは物事に打ち込める。インドの人々はそう信じる。

「何でもいい。自分が好きなことでトップになりなさい」。ジョティカさんは両親にそう言われて育った。母スジャヤさん(45)やエンジニアの父ジョイジョティさん(49)は、「勉強しなさい」とせっつくことはしなかった。

別の家庭では、娘を英語で学ぶ私立学校に通わせるため、母親が週末まで近所の子どもたちに勉強を教えて学費を稼いでいた。時間やお金のありったけを子の教育に注ぎ込む。そんな親の姿をみて、娘は「自分もがんばらなきゃいけない」と思ったという。

■母親を教育熱心にさせる社会

難関のインド工科大(IIT)に合格した18歳のジョティカ・ロイチョードリさん(中央)と両親=奈良部健撮影

インドの親が子の教育に血眼になるのは、雇用機会が限られ、競争に勝ち抜かないと希望する職にありつけないからだ。人口の4割が20歳未満のインドでは毎月約100万人の若者が労働市場に加わる。

民間調査会社CMIEによると都市部の20~24歳の失業率は38%。ITエンジニアを目指す人が多いのも、職業市場が大きく、給与が高いことが最大の理由だ。

米グーグルにソフトウェアエンジニアとして勤めるロハン・コーリさん(31)は、母ラタさん(60)から正しい英語の発音ができるまで復唱させられたことを思い出す。特訓は2歳から始まった。ラタさんは「いい教育や職は、英語なしには手に入らない」と信じていた。

試験結果については何も言わず、むしろ徹底したのは規則正しい生活と十分な睡眠。高校時代、友人が試験前に1日に14時間勉強しても、ロハンさんは夜8~9時には寝た。

■濃密な親子の関係

米国西海岸とニューデリーに離れていても親子は毎日、電話で話す。ラタさん本人が「クレージー」と言うほど、子どもとの関わりは濃密だ。

ロハンさんが大学生の時、携帯電話に出ないと友人にまで電話をかけ「私に電話するように言って」と頼んだ。「できる限り子どもと一緒に過ごす。それが私の唯一の務めだから」

共働きの家庭が増えてきたものの、インドでは専業主婦のいる家庭が6割以上にのぼる。掃除や洗濯をメイドに任せる家庭が多く、母親は子育てに時間をかける。

ロハンさんも母親の愛情をうっとうしいほど感じて育った。親の期待が重荷になって、つぶれてしまう子もいるが、ロハンさんの場合は、愛情が自信につながった。

濃密な親子関係の元では、親の言うことは絶対だ。今なお、インドでは親や親族が決めた相手との見合い結婚が8~9割を占めるとされる。

親が決めた人と結婚するため、あっけなく恋人と別れる人を何人も見た。幸福も困難もすべて、家族というチームで共有するのだ。