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アマゾンもFBも、ハイテク企業にオフィス回帰の兆し コロナ後の働き方、悩むアメリカ

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米ペンシルベニア州で2021年6月、職場に戻ってパソコンで作業する男性=ロイター

オフィスに再び人が戻っていく中、すべてのハイテク企業がリモートワークの将来に納得しているわけではない
As offices open back up, not all tech companies are sold on a remote future
6月4日付 ワシントン・ポスト紙


アメリカでは新型コロナウイルスのワクチン接種が順調に進んだ結果、多くの場所で感染拡大の防止策が解除され、「普通」の生活に戻れるようになった。その一つとして、従業員がオフィスに戻ることが可能となっている。しかし、リモートワークに慣れてきた従業員に対して、突然明日から「オフィスに戻れ」とは言いづらく、多くの企業はいま、完全にoffice-centric(出社中心)の働き方に戻すべきかどうかについて選択を迫られている。

例えば、フェイスブックの広報担当者は、「at scale(大規模な)オフィスの再開を控え、オフィスにいる時間をどのようにするか検討していて、それに関する当社の考え方は進化するだろうと期待しています」と、企業らしく控えめな言い方で考えを述べている。新しい方針はまだ決まっていないという。

皮肉なことに、コロナ禍の中でリモートワークを可能にしたツールを作っているハイテク企業の多くは、完全なリモートワークという働き方にsold on(納得して)いない。Zoomの社長でさえもZoom fatigue(Zoom疲れ)を経験しているそうだ。アマゾンはこの春のブロク記事で、オフィス中心の働き方を同社のbaseline(当たり前)に戻すことを計画しているとし、皆がオフィスで一緒に働くと「想像力や協力が加速すると共に、お互いの学びにつながると信じている」と述べた。

ニューヨークの金融機関も従業員がオフィスに戻って欲しいという姿勢を示している。JPMorganのジェイミー・ダイモンCEOは、リモートワークは新しいアイデアの創出、企業文化の維持、顧客獲得や「hustle(精を出した頑張り)をしたい人」には適していないと思っており、数カ月前からオフィスで働いているそうだ。米金融大手ゴールドマン・サックスのCEOは、コロナ中のリモートワークは aberration(例外的な状況)に過ぎず、程なく「普通」に戻ると思っているという。

しかし、そのように考えている経営者がいても、従業員は異なる。マイクロソフトで現在、職場のテクノロジーを担当する幹部ジャレッド・スパタロは次のように言う。「上司が理解しなければならないのは、私たちがしてきたこの経験が、歴史上の他の世界的な出来事と同様に、人生に対する考え方に大きな影響を与えているということです」。そのため、もし2019年と同じように会社を運営しようとすれば、従業員は、「自分の考えは変わったが、会社は変わっていない」と思ってしまい、それが離職の原因になるかも知れない、と指摘する。

メッセージソフトウェアを提供するスラックの人事管理担当者ナディア・ローリンソンは、リモートワークを選択肢として提供するのはstay at the top of our game(常に最高の状態で活躍する)ために必要だという。働き方におけるフレキシビリティーはいまやa must(必須のもの)になったそうだ。

世論調査によると、多くの従業員はbest of both worlds(両者のいいとこ取りをすること)を希望している。つまり、大半はポストコロナにリモートワークが続くことを望みながら、オフィスにも戻りたがっている。多くの会社がたどり着いた妥協点は、従業員には週数日(通常は3日)オフィスに戻ってもらって、その後はリモートで働くというやり方だ。グーグルやアップルなどの会社は数週間、違った場所を楽しみながら働くワーケーションができる仕組みも作っている。

こういった「ハイブリッド」と呼ばれている働き方は主流になりそうだが、複雑な面も伴う。まず、従業員の一部がオフィスに戻ったら、まだリモートワークを続けている他の同僚はFOMO(fear of missing out、良い機会を逃すのではないかという不安)を感じて、自分が蚊帳の外に置かれていると感じてしまうという懸念がある。確かに、オフィスで会議をしている人をリモートで見るのは居心地が悪く、会話から疎外されがちである。

対策としてスラックでは、ある会議にリモートで参加しなければならない人が一人でもいるのであれば、全員がそうしなければならないと決めているという。たとえオフィスにいる人たちも、みんな自分の机から参加することになるわけだ。マイクロソフトでは、会議室で会議に参加する人も、自分の端末から会議に参加してもらうという。グーグルはこの問題への対策として、カメラを真ん中に置いた円形の会議室を設計したそうだ。

ツイッターの場合、かつて本社のホールで行われていた全員参加の会議を、これからはテレビ会議で再開するという。なお、幹部を含む一定レベルの役職を持っている従業員には、一部在宅勤務を義務付ける。そうすることによって、オフィスに来ない従業員がleft behind(取り残される)という不安を感じることがないように工夫している。

しかし、きれいなオフィスをせっかく用意した会社はどうするのだろうか? ハイテク企業のぜいたくな本社の問題もある。2020年3月以前に、シリコンバレーの大企業の多くは、サンフランシスコ市内の立派な高層ビルから、公園を含むsprawling(広々とした)郊外にある「キャンパス」まで、elaborate(精巧な)な新しい本社ビルに多くの資金を投じていた。そのようなオフィスで、無料でグルメ料理を出したり昼寝する場所などのperks(特典)をたくさん提供したりすることによって、優秀な従業員を集めるとともに、定着を図っていた。従業員があまりオフィスに来たくないのであれば、そうした施設の意味が問われてしまうことになる。この問題も、「オフィスに戻りましょう」と呼びかける裏にあるとも考えられる。


オフィスに再び人が戻っていく中、すべてのハイテク企業がリモートワークの将来に納得しているわけではない
As offices open back up, not all tech companies are sold on a remote future
6月4日付 ワシントン・ポスト紙


ZoomのCEOも「Zoom疲れ」と言っています
Even the CEO of Zoom Says He Has Zoom Fatigue
5月4日付 ウォール・ストリート・ジャーナル紙


「ハイブリッド・オフィス」は素晴らしいものになるかもしれない。地獄になるかもしれない。
The ‘Hybrid Office’ Could Be Great. It Could Also Be Hell.
5月6日付 ニューヨーク・タイムズ紙