――クランチロールの2021年の「アニメ・オブ・ザ・イヤー」(大賞)に『呪術廻戦』が選ばれました。日本でとても人気がある作品ですが、世界各地でも同時進行で人気が広がっていることに驚きます。
TVアニメ『呪術廻戦』は、アクション満載のダークファンタジー作品です。クランチロールでも人気の高い作品の一つで、2020年10月に始まった第1期前半クール、21年1月に始まった同期後半クールにわたり、トップ作品の一つとなっています。
配信開始時には4カ国のツイッターでトレンド入りを果たし、12月にはフランスで150万回以上視聴されました。クランチロールでは現在、英語とスペイン語、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語で、字幕および吹き替えで配信しています。英語の吹き替えは、米ワーナーメディアによるストリーミングサービスである「HBO Max」の「Crunchyroll Collection」でも配信されています。
アニメアワードで呪術廻戦は厳しい競争に直面しましたが、全体で1500万以上のアニメファンが投票に参加し、多数が本作品を応援しました。
――呪術廻戦に続く2位にはどの作品が選ばれたのですか。また、1位と2位はどれくらいの得票差があったのでしょうか。
残念ながら、投票に関する内訳の詳細をご案内することはできません。私たちは、アニメアワードの受賞者それぞれを祝福しているからです。今年は、例年以上に多くの投票を世界中のファンからいただきました。その受賞作品を発表したストリーミングも、信じられないほどたくさんの視聴があり、世界中から何百万という数のファンにご覧いただいたんです。
――20年の大賞作『鬼滅の刃』ですが、その続編が今年中に日本でTVアニメ化されることが発表されました。また、呪術廻戦と同様にダークファンタジージャンルの漫画『チェンソーマン』のアニメ化も決まっています。22年のアニメアワードも激戦となりそうですね。
来年のアニメアワードのノミネート作品を推測するのは時期尚早ですが、毎年その競争は熾烈だということは言えます。それゆえ、私たちは毎年ノミネート作品の選出を助けてくださる審査員の皆さんに本当に感謝しています。今年は日本、ブラジル、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシアなどから50人以上の審査員にご協力をいただきました。
――昨年、出張で訪れた米国に滞在中、クランチロールで呪術廻戦の第8話を見ました。まさに日本のTV放送とほぼ同時の配信だったのに、ちゃんと英語字幕がついている。さらにオリジナル作品の雰囲気を全く壊さない、極めて考え抜かれた訳し方に感心したのを覚えています。日本語のアニメ作品をそのまま配信しつつ、世界各地の視聴者が理解できるように工夫する「ローカライゼーション」技術の高さが、日本アニメの世界流行を支える重要な要素だと感じました。
そこに気づいていただき、また認識していただいて感謝します。多くのファンは、私たちのローカライゼーションが「機能している」ことを至極当然のことだと思っています。世界中でコンテンツを広く流通できるように支援する舞台裏には多大な努力があります。ローカライズを専門に行うグローバルチームは複数のタイムゾーンにまたがって存在しています。日本での放送後、完全にローカライズされたバージョンを最大8言語で提供するためのサポートを日々行っています。
各作品には、プロジェクトごとに特定の専任チームが割り当てられます。ローカライゼーションを担当するには、その作品に精通しているか、もしそうでない場合でも、日本での放送前にリサーチが必要になります。作品によって提供される素材は大きく異なります。クランチロールは、日本での放送時刻とほぼ同時刻にサイマル(同時)配信できるように、パートナーと協力し、円滑に素材の受け渡しをするためのサポートをしています。
素材を受け取るタイミングは様々です。数日前の場合もありますし、日本での放送の数時間前や、放送直後のこともあります。
――海外の視聴者にとって、オリジナル作品を字幕で見ることと、完全吹き替えで見ることに違いはあるのでしょうか。オリジナルのまま見ることを重視しているファンが多いのでしょうか。
グローバルに拡大する視聴者は、作品がよりオリジナルに近い形であること、この魅力的なコンテンツを素早く体験できることの両方の面で、日本語のオリジナル版を好みます。その一方で、より広範で、よりカジュアルな視聴者からは、吹き替え版への要望や関心があります。
関心の度合いは作品のジャンル、居住地域によって異なるため、私たちは、吹き替え版へのグローバルな取り組みに優先度をつけるべく、そのような要望を絶えずモニタリングしています。
世界的なパンデミックにもかかわらず、私たちのグローバルな制作チームは、これらの課題にうまく対応し、業務の流れを調整することで4月以降、5言語で14作品の吹き替え版をリリースできました。現在さらに5作品に取り組んでいます。
――海外ではアニメを見てから漫画などの原作を読む傾向が強いです。ところが最近は、漫画の多言語化も進み、日本のファン同様に漫画を読んでからアニメを見るファンも各国で増えてきたように感じます。まだアニメ化されていないチェンソーマンがすでに世界で人気があることも説明できます。
これについては欧州・中東・アフリカ部門トップのジョン・イーサムがお答えします。MANGA(マンガ)は、90年代後半に北米と欧州で成長を始めました。当時のマンガの成功は、『ドラゴンボール』、『機動戦士ガンダム』、『ポケットモンスター』といったテレビアニメ作品の存在感の高まりや成功が大きな要因となりました。
市場はその後も大きく成長し、今では書店とデジタルの両方で、少年、少女、青年、異世界といったカテゴリーから多種多様なマンガを見つけることができます。
多くの場合、マンガは日本と同様にアニメのリリースに先立って(あるいは全くアニメがない状態で)発売されます。『チェンソーマン』はフランスではアニメ以前にマンガが発売されています。『呪術廻戦』、『ブラッククローバー』、『SPY×FAMILY』、その他多くの主要作品もそうでした。この傾向は、次に挙げる理由で強まり続けると思います。
第一に、世界は小さくなっています。世界中のマンガファンは、十分な情報を得ており、新作情報や新しいヒット作、そして日本の最新の話題にすぐにアクセスできます。アメリカ、フランス、ドイツなど国際的なマンガの出版社もこのような情報にアクセスし、これらのマンガ作品をローカライズされた形で市場に投入するために激しい競争を繰り広げています。
デジタル出版の成長も大きく影響しています。世界の多くの地域では、物流上の理由や経済的な理由からマンガを印刷すること自体が困難です。デジタルフォーマットの拡大により、世界中のファンが様々なマンガにアクセスしやすくなっています。
クランチロールなどのアニメプラットフォームは、アニメ視聴者を世界で増やすうえで重要な役割を果たしました。アニメへの関心は、日本でマンガが発売された直後にストーリーを楽しみたいというマンガファンの拡大にも影響を与えています。日本のコンテンツに対する世界的な認識と感動が高まり、コンテンツへのアクセス(デジタルも紙も)も速まるなか、ファンがマンガから入る傾向は今後も拡大していくと考えています。
――漫画こそローカライゼーションが必要なジャンルだと思いますが、アニメとは異なる技術が必要になりそうですね。
ここからは再びブレイディー・マッカラムがお答えします。マンガのローカライゼーションは、アニメとは異なるオーダーメイドのプロセスで実施され、クランチロール内の別のチームが担当しています。マンガの翻訳には、独自の承認プロセスやグラフィック作業といった特有の課題があります。しかし、マンガの同時パブリッシングが成長することで、世界中のファンの待ち時間が削減されます。今や多くの作品は、日本の発売日とほぼ同日に入手できます。
――アニメが世界で人気と言われて久しいですが、傾向としてはコアファンによる熱狂的な支援が大きいと感じます。リーチできる一般層はまだまだ広く、そういう意味では世界のアニメ人気は発展途上とも言えます。その辺りの現状認識をお聞かせください。
長年にわたってアニメ人気が高まっているのは事実です。クランチロールが10年以上前に設立されてから、アニメは本当にポップカルチャーとして認知されるようになりました。新規層に届くためにも私たちは既存のファンを喜ばせ、グローバルなアニメコミュニティーに新しい視聴者をもたらすために、2020年に「クランチロール・オリジナル」を立ち上げています。
最近発表された『Dantai(仮題)』の開発契約がこのよい例としてご紹介できます。クランチロールは、ハリウッドのAリストスターであるイドリス・エルバさん、サブリナ・エルバさんと協力して、アニメを通じて新しいオリジナルストーリーを伝えていきます。これらの作品を通じて、アニメコミュニティーのコアなファンに加えて、より広い視聴者にリーチできると考えています。近いうちにさらにいくつかのプロジェクトについてお話しできると思いますので、楽しみにお待ちください。
――いまやアニメと言えば日本アニメを指すまでに国際的な存在感を確立しました。だからこそ、国際的なあつれきも生んでいるように感じます。アニメは「子ども向け」という認識が世界では一般的ですが、日本のアニメは「大人アニメ」。表現描写が子どもには過激すぎるという問題提起をよく聞きます。
クランチロールを利用しているアニメファンは、正規にライセンスされた作品を望んでおり、オリジナルに近い形でコンテンツを視聴したいと考えています。 先の話に重複しますが、私たちはパートナーと密に連携して、コンテンツをグローバルに立ち上げる際にグローバルマーケティングで必要なニュアンスを助言できることをうれしく思います。
もう一つお伝えしたいのは、大人向けのドラマチックなアニメーションが主流になりつつあるということです。私たちは、これはほんの始まりに過ぎないと考えており、世界中で「アニメへの愛」を育てる一助となれるのを楽しみにしています。