アジアではおそらく最も長く姿を消していた謎の鳥が、ひょっこりインドネシアの森に現れた。なんと、170年ぶりの再発見だった。
見つかったのは、「クロマユムジチメドリ(英名:black-browed babbler)」(訳注=「チメドリ〈知目鳥〉科」の多様な分類種の一つ)。2021年2月下旬、学者らによって報告された。
つやを抑えた黒と灰色、栗色の体が特徴的だ。「これで、インドネシアの鳥類の最も大きな謎が解けたことになる」と野鳥観察の専門家は評価する。
「この鳥の特定に間違いがないことを確認する知らせを受けたときは、まず短い祈りを捧げ、こうべを垂れて祝った」とパンジ・グスティ・アクバルはいう。その種を判別し、報告論文の主執筆者となった鳥類学者だ。「興奮した。信じられない気がする一方で、とてつもなく幸せな思いに包まれた」
クロマユムジチメドリを鳥類学者が初めて一つの種として識別したのは、1850年ごろのことだった。その際に捕獲された一羽が剥製(はくせい)標本となり、唯一の証しとして残っている。
しかも、当初は、生息地がボルネオ島(訳注=インドネシア語ではカリマンタン島)ではなく、ジャワ島と誤って記録された。このため、もっと観察して追加情報を集める初期活動が妨げられることにもなった。
鳥類学者がこの間違いに気づいて探すようになったが、誰も見つけることはできなかった。もともとボルネオ島のインドネシア領では、野鳥を探すために、あえて森林に分け入る観察者や学者がほとんどいなかったこともある。
それが変わったのが、2016年だった。この地域のバードウォッチング団体「BWガレアトゥス(Galeatus)」(以下BWG)が設立されたからだ。会員たちは、鳥類の多様性についての情報を寄せてほしいと各地の住民たちに頼んで回った。
そんな中に、ボルネオ島のインドネシア領にある(訳注=5州の一つ)南カリマンタン州に住むムハンマド・スラントとムハンマド・リズキー・ファウザンがいた。森に入ると、ときどき飛び回っているのを見かけた鳥の名前を知りたかた。体は黒と茶色が目立っていた。
二人は20年10月、その一羽を捕まえた。写真を撮り、BWGの会員ジョコ・サイード・トリシヤントに電子メールで送った。
「写真を見て、最初はズグロムジチメドリかなと思った。しかし、特徴がピッタリ一致せず、見分けるのが難しかった」とトリシヤントは振り返る。手引書によると、クロマユムジチメドリにより近かった。「絶滅した可能性がある」と記してあった。
キツネにつままれたように思ったトリシヤントは、写真を先のアクバルに送った。
アクバルは、衝撃を受けた。「興奮をなんとか静めようと、家の周りをぐるぐる歩き続けたほどだった」
他の専門家にも写真を送り、意見を求めることにした。その一人にシンガポールのティン・リー・ヨンがいた。国際NGO「バードライフ・インターナショナル」の自然保護活動家で、アジアの野鳥の保護などに取り組む「オリエンタル・バード・クラブ」(両組織とも本拠は英国)の地域担当を務めている。
「だれかがいたずらをしているに違いない。エクアドルのアリドリの写真を編集ソフトで修整したのかも」。ヨンは最初そう思ったと話す。「事実関係を理解し始めるのに、しばらくかかった。本物の写真だと分かったときは、涙が浮かんできた」
「インドネシアの鳥類学にとっては、間違いなくすごいできごとだ」とヨンはいう。「リョコウバトやカロライナインコを見つけたら、色めき立つのと同じ」と(訳注=20世紀に入って)絶滅した北米大陸の二つの鳥の名を挙げて例える。「でも、今回の発見は、自分の生活圏が舞台で、うんと身近に感じる」
鳥の種別が確認されると、トリシヤントはスラントとファウザンに連絡し、森に戻してあげるよう説得した。
さらに、アクバルとともに考えているのは、この再発見をきっかけに、地元住民の自然への関心を高めることだ。観光客を呼び込み、地域経済の活性化にもつなげたい。スラントとファウザンには、野鳥観察のガイドになる訓練も受けてもらうつもりだ。
東ジャワ州の野鳥観察団体「バードパッカー」の会員でもあるアクバルのところには、現地でこの鳥を見ることができないかという問い合わせが、世界中のバードウォッチャーから舞い込んでいる。
コロナ禍対策の移動制限が解けしだい、アクバルと会員たちはクロマユムジチメドリの研究調査に出かける計画を立てている。「基本的には、この鳥に関する知識は皆無なのが実情だ」
しかし、その空白を少しでも埋める学習は始めている。170年前にできた標本は、目が明るい黄色の義眼で、足は薄茶色に変色している。しかし、今回の写真から、実物の目は深い緋色(ひいろ)で、足は灰色をしていることが分かった。
「今になって初めて、自然の輝きに満ちたこの鳥の生きた姿を見ることができるようになった」と先のヨンは喜ぶ。「ボルネオは、秘境の島だ。新たな発見や学ぶべきことが、きっと数多く埋もれているに違いない」(抄訳)
(Rachel Nuwer)©2021 The New York Times
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