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犬が老いるプロセスに、ヒトの老化研究のヒントがある

ニューヨークタイムズ 世界の話題
FILE -- A border collie observes competitors taking part in the agility round of the 144th Westminster Kennel Club Dog Show in New York on Feb. 8, 2020. Researchers in Vienna have found that dogs' personalities change over time and seem to mellow in the same way that most humans do. (Brittainy Newman/The New York Times)
ニューヨークで2020年2月に開催された第144回「ウェストミンスター・ケンネルクラブ・ドッグショー」参加した牧羊犬ボーダー・コリー=Brittainy Newman/©2021 The New York Times

犬は人間と同じように、その生涯は段階を踏むように老いていく。足が硬直し、鼻口部が白髪になった犬が、自らを奮い立たせてもう一歩を踏み出そうとするのを見れば明白である。

(古代ギリシャの)ホメロスから、(現代チリの)パブロ・ネルーダまで、詩人はそのことに注目した。フォークシンガーもストーリーテラーも、そうだ。今度は、科学の番である。犬はどのように成長し、いかに老化していくのか。そうした科学研究が、人間の老化の理解に役立つと期待されている。そして、詩人たちのように科学者も、犬と人間との類似点を見つけ出している。

科学者によるこれまでの研究だと、犬は、青年期や老年期にどういう行動をとり、老化するにつれてDNAに何が起きるのかといった重要な点で、私たち人間と似ている。それらは、科学者が人間の老化の「モデル」と呼び、私たちの老化について、そしておそらくいかにより良く年齢を重ねるかについて、さらに理解するための研究材料になるかもしれない。

つい最近のことだが、ウィーンの研究者たちは犬の性格が時間の経過とともに変わることを突きとめた。大半の人間と同じように、穏やかになるようである。この研究で最も興味をそそるのは、人間と同様、生まれつき老成している犬もいるという点だ。

念のためだが、ウィーンでの研究に使われた犬はいずれもボーダー・コリー(訳注=英原産の牧羊犬種で、活発な性格で知られる)で、その中に円熟した感じの犬がいたことにちょっと驚かされた。円熟とは、ある種の落ち着きや首をかしげて物思いにふけっていたいといった風情を感じさせるという意味だ。羊やガチョウ、子どもたち、あるいはフライングディスクを、絶えず追い掛け回していたいという切実な願いを持った犬種にはそぐわない類いの風情である。

別の最近の論文は、犬にとっては人間の1年が7年に相当するとの計算は正確ではないという気がかりな結論を導き出している。犬が人間の何歳くらいに相当するか、を計算するには、人間の年数における犬の自然対数を16倍し、それに31を足す必要がある。わかりますか?

電卓を使うかインターネットにアクセスできる限り、実際にはそれほど難しくはない。たとえば、6の自然対数は1.8で、16を掛けると約29になり、それに31を加えれば60だ。

こうした結論に達するために、研究者たちはDNAの化学変化のパターンを探った。それはメチル化と称されるプロセスで、遺伝子の内容は変更しないが、遺伝子の活性度を変えるものである。

実験室でのテストで、メチル化のパターンから人間の年齢を知ることができる。この研究のおかげで、同じことを犬にも適用できる。その結果は、犬の老化を調べている研究者が成果を人間に置き換えることの役にも立つだろう。

科学者たちは、犬や人間、そして実際にはすべての哺乳動物にみられる肉体的な衰退がそれぞれ初期の成長プロセスと関係があるのか、それとも衰退は別のプロセスなのか、確信が持てていない。彼らは、メチル化のパターンは同じ遺伝子が両方のプロセスにかかわっている可能性を突きとめた。

犬は人間の老化にとって役に立つモデルだと、ますますみなされるようになってきている。犬も多くの点で人間と同じような老化に苦しんでいるからだ。膨大な数の飼い犬の遺伝子その他の情報を取集している「Dog Aging Project(犬の老化プロジェクト)」がウェブサイトにそれを掲載しているように、この研究は「すべての犬たちにとって、そして飼い主である人間にとって、より長寿で、より健康的な生活」が目的である。米ブロード研究所(BI)のエリノア・カールソンは、ゲノミクスと犬に関する彼女の研究について、こう言っている。「私たちの関心の一つは、何よりもまず、一部の犬がなぜとても長生きするのかを説明できる物質が犬のDNAのなかにあるのかどうかをみつけることだ」。それがわかれば、人間が健康的に年齢を重ねる期間を延ばすことに役立つはずである。

犬の性格に関する経年変化の研究では、ウィーン大学の「Clever Dog Project(賢い犬プロジェクト)」のなかでボーダー・コリーが使われた。いずれも飼い犬で、飼い主が自ら提供してくれた。

犬の性格は、どのようにして調べるのか。ボーダー・コリーはさまざまなテストを受けた。一つは、(犬にとって)見知らぬ人が部屋に入ってきて、その犬をなでる。もう一つは、飼い主が自分の犬に人のTシャツを着せる。飼い主の5人に1人は以前、研究目的ではなく、自分の犬にTシャツを着せたことがあるという。別のテストでは、飼い主が犬の前の、犬から届かないところにソーセージを1分間ほどぶらさげる。このテストは倫理委員会の承認を得ており、テスト後、ソーセージは犬に与えられる。(虐待ではないので)ご安心を。

研究者たちは、犬は人間と同じように年をとるにつれて変化することを突きとめた。犬は活動的ではなくなり、不安も減っていく。しかし、この研究論文の筆者の一人で、ハンガリーの首都ブダペストにあるエトべシュ・ロラーンド大学のボルバル・トゥールチャンは、中には時間を経てもさほど変化しない犬もいると指摘している。「より成熟した性格を持つ人は加齢につれての変化が少ない」と彼女は言う。「そして、私たちはまさに犬も同じであることを見つけたのだ」

老化の行きつく先はもちろん、犬も人間もおなじである。犬の方が早く、そこへ行きつくだけのことだ。

「犬は人間よりもはるかに早いペースで老化する」とBIのカールソンは言う。「だから、私たちが寿命のあるうちに人の役に立ちたいという考えで老化を研究したいのなら、人間よりもはるかに早く老化する生き物を対象にして研究すべきだ。人が死ぬまで80年間待つより、ずっと早く老化について学ぶことができる」(抄訳)

(James Gorman)©2021 The New York Times

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