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ベッドでリモートワークはNGじゃない このすばらしきワークスタイル

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Since the pandemic began in March, millions of Americans have begun working where they sleep. (Photo Illustration by Justin J Wee/The New York Times)
パンデミックの発生以来、何百万人ものアメリカ人が寝る場所でリモートワークをし始めた=Photo Illustration by Justin J Wee/©2021 The New York Times

睡眠の専門家たちは長い間、何よりも、ある一般通念にこだわってきた。デバイス(機器の端末)はベッドに持ち込まない、という通念だ。

ところが昨年3月にパンデミック(感染症の大流行)が始まって以来、何百万人ものアメリカ人がそのガイダンスにそむき、まさに寝床で仕事をするようになった。法的文書を起草したり、イベントの企画や顧客との電話、コーディング(符号化)、電子メール、勉強、執筆その他、ベッドカバーの下であらゆることをするのだ。

初めからそのつもりだったわけではない。当初、彼らの多くは自宅をできるだけ人間工学的に快適で、かつオフィスのようにしようとデスクなどの機器にお金を使った。

ニューヨーク市が3月に封鎖された時、バネッサ・アンダーソン(24)は自宅の居間に小さな机を備えた。プライベートシェフ(個人宅のお抱え料理人)を派遣する代理店で働いていた彼女は、仕事と睡眠が別々になるよう一定の体裁を整えておきたかったのだ。「しばらくの間は、ベッドで仕事をしないよう一生懸命に取り組んでいた」と彼女は言う。

5月、アンダーソンはもっと照明がほしいので机を寝室に持ち込んだ。「(すると)ベッドがちょうどそこにあり、私を挑発してきた」。そこで、彼女は基本原則を設けた。ベッドに入るのは午後2時以降だけという原則だったが、寝床入りの時間はどんどん早まっていった。7月になると、彼女のベッドはフルタイムの仕事場になった。

その後、アンダーソンは転職――現在はスパイス(香辛料)店の電子商取引部門で働いている――週のうち一部をリモートの仕事に充てているだけだが、あいかわらずベッドでそれをしている。彼女は、他の人たちと話していて、ベッドで仕事をすることがいかに普通のことかに気づいた。「お互いがベッドにいて、電話で話している」と彼女。電話を切る前は、こんな具合だ。「パンデミックはどうなっている? あら、あなたも今、ベッド? 私もそう!」

Since the pandemic began in March, millions of Americans have begun working where they sleep. (Photo Illustration by Justin J Wee/The New York Times)
ベッドに寝そべってのリモートワーク=Photo Illustration by Justin J Wee/©2021 The New York Times

ベッドで仕事をすること。それは、歴史上最も優れた人たちの一部が支持してきた由緒ある伝統なのだ。フリーダ・カーロは、彼女の天蓋(てんがい)付きベッドで傑作を描いた。ウィンストン・チャーチルは第2次大戦中でさえ朝遅くまで寝ていたことで悪名高いが、ベッドで朝食をとりながらタイピストに口述筆記させた。イーディス・ウォートン、ウィリアム・ワーズワース、マルセル・プルーストは、ベッドで散文や詩の下書きを練り上げた。「私はまったくの寝そべり作家である」とトルーマン・カポーティは1957年、文学雑誌「The Paris Review(ザ・パリスレビュー)」に語っている。「横になっていないと、考えがわいてこないのだ」

寝室は、創造的な思考を刺激するとともに、家庭生活の混沌(こんとん)からの逃げ場になる。両親は、家にこもる子どもたちから隠れるために寝室に引っ込む。ルームメートから逃れるために寝室に退去する人もいる。

「私たちが学んでいることの一つは、私たちみんなが狭い場所に閉じ込められているということ。比喩的な意味でも文字通りの意味でも。とりわけ、ルームメートか配偶者がいれば、家の中には仕事をするための私的空間が十分にない」。そうサム・ステフィーブンズ(35)は言っている。テネシー州ナッシュビルのシンガー・ソングライターだ。

ベッドで仕事をすることは、集団的倦怠感の兆候かもしれない。「コンピューターや事務用の椅子と机を持っているけど、ベッドで作業をしている時間の方がずって長い」と、ロサンゼルスのユーチューバー、アベリーナ・リオス(26)は言う。「誰もがパンデミックにめいっているのだと思う。めいっている時の、難しいことの一つが、ベッドから抜け出すことなのだ」

リズ・フォスリーン(33)は、感情が仕事にどう影響をおよぼすかについての本「No Hard Feelings」の著者だが、彼女は毎朝、ワイヤレスのマウスなどと一緒にコンピューターをベッドに持ち込む。「(ベッドの)マットレスをマウスパッド代わりに使う」と彼女は言う。このところ、同じようなことをしているという人への、彼女のアドバイスはこうだ。「そのことで自分を責めないで。『ワァ、パジャマのままだし、髪を洗っていなかったなんて、私は何をしているんだろう』っていうのは簡単。でも、本当に大切なのは仕事の質なのだ」

ベッドでデバイスを使うことに反対する主な論拠は、仕事と家庭生活との境がさらに侵食され、睡眠のサイクルが乱されるというもの。メディア界の幹部で睡眠の(重要性を説く)伝道者になったアリアナ・ハフィントンは、パンデミックに見舞われて以来、彼女自身がベッドで仕事をするようになった。

「うまくいっている人もいると思うけど、一定の境界を保つことは重要だ」と彼女は言い、こう提案している。夜間の照明用スタンドを乱雑にしておかないこと、ベッドから出て仕事を打ち切る時間を厳守すること、電子機器を他の部屋に保管すること。

「しっかりした切り替えを強くお勧めしたい」とハフィントンは言う。「私の場合は、その1日を、熱いシャワーとお風呂で洗い流す。服を着替えてみる、就寝用の別のTシャツを持つ、私のお気に入りは、きれいなランジェリー。それをつけると、『あなたは、これから眠りに就くのね』という気持ちにさせてくれる」

仕事は机でという文化の信奉者たちは、ベッドで生産的な仕事ができるわけがないと主張してきた。作家のスーザン・オーリアンは2013年に雑誌「The New Republic」に、こう語っている。「私は実際にうつぶせで仕事をする人を誰も知らないけど、ベッドで仕事をする人はたくさん知っている。たとえば、私の夫。そういう人たちはみな怠け者で、床ずれを起こしやすいし、すぐにダメになる無精者だと思う」

しかし、パンデミックの間に多くの在宅勤務者たちが気づいたことは、ベッドで仕事をするのは怠惰だったり、落ち込んでいたりしているからではないということ。これは、慢性的な病気や障害を抱えている人にはずっと前からわかっていたことだ。実際のところ、雇用主がリモートワークに柔軟な対応をしてくれるのなら、ベッドからでも仕事はきちんとこなせる。

「時間をうまくやりくりすることが幸せにつながるという事実を示すデータがある。どこからでも仕事ができるなら、ベッドで仕事をするという選択は、時間をうまくやりくりする一例だ」とハーバードビジネススクール(HBS)の准教授アシュリー・ウィランズは指摘する。「どこで働き、どのように仕事をするかを選ぶことは、従業員の満足度を高めることにつながる」と言うのだ。

テッサ・ミラー(32)は、慢性疾患との闘いについてつづった本「What Doesn't Kill You」の著者だが、彼女は23歳の時にクローン病と診断され、それ以来ベッドで仕事を続けてきた。「今回のパンデミックは、慢性的な病気や障害のある人たちが長い間やってきたことのすべてを浮き彫りにしたのだと思う。今は誰もが同じことをしており、ベッドで仕事をするのは、そうしたことの一つだ」と彼女は言う。「とても生産性が高く、知的で、才能があるけれど、必要に迫られてベッドで仕事をしなければならない人を、私はたくさん知っている」

慢性疾患や障害のある人たちは、パンデミックで企業がこれまでよりリモートワークを受け入れるようになったのと同じように、ベッドから仕事をすることのスティグマ(社会的な汚名)も解消されるのを期待したいと言っている。「そこから得られることの一つは、ベッドにいても、バスタブからでも、あるいは温熱パッドがある居間のソファからでも、きちんとした仕事ができるという事実が明らかになること。それによって、慢性疾患や障害を抱え、これまでは世間から歓迎されていないと感じていたかもしれない人たちにとって、有利な環境がつくられることを願っている」。そうミラーは話していた。(抄訳)

(Taylor Lorenz)©2021 The New York Times

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