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ポストコロナ時代に求められるグローバル人材を探る

Learning Sponsored by 国際交流基金アジアセンター 公開日:
ウェビナー「グローバル人材がなぜ組織を強くするのか~ポストコロナの学びを考える」(3月4~6日配信)に出演した松川隆さん(左上)、辻愛沙子さん(右上)、池内綺香さん(左下)、魚躬圭裕さん(右下)

第一部 人材育成や企業成長につながる社外での学び

社員の価値観ややりがいを大切にしたい

堀内:松川さんはサイボウズの人事担当者として、才能ある人たちにどうやって仲間に加わってもらえるか日々考えておられますよね。松川さんの考える人事哲学について教えていただけますか。

松川:サイボウズは少し変わった会社というイメージがあるかもしれませんが、社員が100人いれば100通りの人事制度があっていいと考えています。社員の価値観ややりたいことを大切にし、それを実現できるようにしています。

堀内:「育自分休暇制度」などユニークな制度もあるそうですね。

松川:もともとあった「育児休暇」は男女問わず6年取ることができます。「育自分休暇制度」は、自分を育てるために一時的に離職しても、基本的に復職できるようにした制度です。

堀内:この制度を利用する人は多いですか?

松川:離職する社員の中には、戻ってくることを宣言していく社員のほうが多いように思います。この制度ができるきっかけになった女性社員は、アフリカのボツワナに行って社会貢献活動をして戻ってきました。「海外に行くために辞めたいんだけど、サイボウズを嫌いになったわけじゃありません。また戻ってきたいのです」という相談を受け、制度がスタートしました。

堀内:その社員を見ていて、海外に行く前と後で変化は感じられましたか?

松川:復職の際、どれだけ自分が成長したのかを社長の前でプレゼンテーションしてもらうのですが、私も同席しました。現地の人たちと信頼関係を作りながら活動を進めていったというストーリーを聞き、ボツワナに行く前には気づかなかったたくましさを感じました。

堀内:外でタフさを身につけ、再び自分たちの仲間になってもらえると、企業にとっても心強いですね。

松川:そういう仲間を歓迎して受け入れる会社のあり方も素敵だと思います。自分の会社に対する誇りが醸成されていきます。

ウェビナーでサイボウズの事例を語る松川隆さん

長く同じ組織にいると目線や価値観の変化は起きにくい

堀内:日本語パートナーズとしてベトナムで活躍された池内さんにお話を伺いたいと思います。応募したきっかけは?

池内:元々海外に興味がありました。青森のフェリー会社で働いていましたが、実際に海外に行って経験を積みたいという気持ちが強くなってきました。社会人の場合、何ができるのか調べているときに日本語パートナーズの存在を知って応募しました。

堀内:会社との関係はどうしようと考えましたか?

池内:仕事を辞めるしか選択肢がないと思っていましたが、上司に相談したところ、「休職して行くのはどうか」と提案してくれました。

堀内:会社としても、海外で経験を積んで池内さんに戻ってきて欲しいという思いがあったのでしょうね。ベトナムでの活動の様子を写した写真を見ていきましょう。

日本語パートナーズとしてベトナム・フエで活動した池内綺香さんの記録=池内さん提供

池内:1枚目(写真①)は日本語パートナーズとして現地の学校の日本語教師のアシスタントとして初めて学校に行った日に撮った生徒たちとの写真です。受け入れてもらえるか不安でしたが、みんな人懐っこく駆け寄ってきてくれました。2枚目(写真②)は教室の様子です。日本文化紹介の一環で折り紙で人形を作ったときの写真です。もう一枚(写真③)は、私が長期滞在していたホテルの近くに住む人たちです。いつも「どこ行くの?」「ご飯食べた?」と声をかけてくれました。私のベトナム語の練習相手にもなってくれました。今でもSNSで交流があります。

堀内:写真を見ると、旅行で訪れるのとは違い、土地に根ざした経験をされたことがわかります。松川さんにお伺いしたいのですが、仕事から離れてまったく違う世界に身を置くことにはどういう価値があるのでしょうか?

松川:長く同じ組織にいると、目線や価値観、内面の変化は起きにくいものです。池内さんのように生活の場を国レベルで変えてみたり、違った文化に触れてみたりすることは、内面に与える刺激がかなり大きいのではないかと思います。

相手に意思を伝えようとする力が身についた

堀内:池内さんは復職されてからはどんな業務を?

池内:希望していた海外と関わりのある部署に配属となり、海外からの問い合わせに対応しています。

堀内:経験は役立っていますか?

池内:ベトナムでの生活を通じて、言葉がわからない中でもなんとかして相手に意思を伝えようとする力が身につきました。自分から発信しないと相手には伝わりません。現在の仕事でも自分で考えて意見を出すようになりました。

堀内:企業の外で経験を積んでまた復職して活躍できるチャンスを提供する企業は、採用の面でも就活生に対してアピールになるのではないですか?

松川:コロナ禍で、変化を許容できない会社はリスクであると見られるようになってきたと思います。外に出た社員を再び受け入れる柔軟性は、企業選びをする上で重要なファクターだと思います。

堀内:今は海外への渡航が難しいですが、日本語パートナーズ派遣事業のようなプログラムに参加する意義についてどう思いますか?

松川:現地に行くことは、異文化の中に自分を置くという意味で意義深いことです。日本にいて日本文化の中に外国人に来てもらうのでなく、現地に滞在して向こうの文化の中で日本語を教えるということは、人間力も使うでしょうし、その後に活(い)きる様々な経験が得られると思います。

堀内:企業活動のあり方も変わっていく中で、どのような人材像が求められているのでしょうか?

松川:コロナ禍で私たちが体験していることは、過去の成功事例の中からは正解が導き出せないということです。正解がないところを歩いていかないといけない時代に入ったのです。実行力、企画力もそうですが、対話して自分の考えを相手に伝える能力がより必要になってきていると思います。こうしたことから、これまでの日常から離れてみる経験は、その後の力になるでしょうね。

ウェビナーで語り合う松川さん(右)、池内さん(中)、堀内編集長

グローバル人材=多様な価値観の人とコミュニケーションができること

堀内:視聴者から「ニューノーマル時代のグローバル人材とはどのようなものですか?」という質問が寄せられています。

松川:グローバルというとこれまでは、外国語を使ってコミュニケーションする人材を思い描いていたかもしれません。しかし、ITツールの普及でボーダレス化がどんどん進んでいます。いつでもつながることができて、自動翻訳でスムーズに会話できる時代がもうすぐ来るかもしれません。外国語が話せること以上に、多様な価値観の人たちと認識を合わせながらコミュニケーションができることが真のグローバル人材なのかなと考えています。

堀内:働き方についても自分の価値感に基づいて主体的に考える姿勢が必要になりますね。

松川:自分が好きでいられるものに主体的に取り組む方が生産性も上がります。

堀内:池内さんは世界とともに生きていく力についてご自身の経験からどう考えますか?

池内:ベトナムで生活する中でいろんな人に助けてもらいました。仕事で接する海外からのお客様にはそれぞれの背景があります。より快適に過ごしてもらえるように、相手の立場で考えることが必要だと感じています。

堀内:ぜひこれまでの経験を活かし、ますます活躍してください。

関連記事「松川隆氏(サイボウズ)×野田稔氏(明治大学) 人や組織をパワーアップさせる異国の学び」はここから

第二部 予定調和から離れた挑戦が個人と組織を強くする

半径3メートルしか見えていない焦燥感から外へ飛び出す

堀内:辻さんは大学在学中に今のキャリアにつながる活動を始められたそうですが、きっかけは?

辻:中学、高校を海外で暮らして、大学入学で日本に戻りました。ちょっと刺激が足りないなと思いながら大学に通っていました。インターンを始めると、そこでの仕事がすごく楽しくて、2週間で入社することを決めました。在学中だったので初めは契約社員として働き、その後正社員を経て自分の会社を作っていまに至るという流れです。

堀内:日本でも「ギャップイヤー」という言葉を聞くようになりました。海外だと高校卒業から大学入学までの間にボランティア、留学、海外旅行といった日常とは異なる経験をする期間として知られています。在学中でも、それまでの生活から一時的に離れ、異なる経験を積む学生が増えているみたいですね。

辻:素晴らしいことですよね。当時はとにかくもっといろんなことを学びたい、自分が知らない外の世界がきっとあるんじゃないか、と思っていました。半径3メートルのものしか見えていないような焦燥感があって、狭い価値基準の中で自分が勝手に当たり前の枠を作っている気がしたんです。見たことのない美しいものを見たり、苦しんでいる人がいることに気づいたりするには外に出ないといけないと思ったからです。

ウェビナーで経験を語る辻愛沙子さん

日本語や日本文化を学ぶ熱意に圧倒されたインドネシア

堀内:日本語パートナーズとして自分の世界を広げていった魚躬圭裕さんにも伺いたいと思います。大学3年生で応募し、4年生のときに休学されてインドネシアに行かれたそうですね。就職活動を一時中断して日本語パートナーズへ参加したのはなぜですか?

魚躬:当時は、時間も体力もある学生時代じゃないとこういう経験ができないんじゃないかと思い、参加を決めました。

堀内:現地での活動や経験のご紹介をお願いします。

日本語パートナーズとしてインドネシア・東ジャワ州で活動した魚躬圭裕さんの記録=魚躬さん提供

魚躬:1枚目の写真(写真④)は派遣先の学校で習字を通して日本の文化を紹介したときの写真です。現地の日本語教師が「愛」という字を選んだのですが、難しい字にもかかわらずみんな楽しんでいました。2枚目(写真⑤)の浴衣の写真は、派遣先の学校で浴衣を通して日本文化を紹介したときのものです。ムスリマ(イスラム教徒の女性)はジルバブという布を頭にかぶるので、浴衣と相性が良くて、華やかで写真映えがすると大人気でした。もう一枚(写真⑥)は、祝日の日に、現地の生徒たちとイスラム教の礼拝堂(モスク)を訪れたときの写真です。

堀内:日本とは違う宗教や文化体験できるのは貴重ですね。日本語教師のアシスタントをする中で、生徒たちの日本語を学ぶ意欲はどう感じましたか?

魚躬:生徒たちはインターネットのおかげで、日本のアニメーションや有名な観光地についての情報を持っています。「いつか訪れてみたい」「日本語で言いたいことを言えるようになりたい」というモチベーションや熱意に圧倒されました。

堀内:7か月のインドネシア生活で印象に残っていることは?

魚躬:人と人との距離が近いことです。コロナ禍でこういう話をすると誤解されそうですが、「相手に関心を持つ」という意味です。急きょ、お葬式に呼ばれたこともありました。悲しいことも楽しいこともみんなで共有する、その距離感が思い出深いです。

海外生活で知った「『普通』という概念が存在しない」こと

堀内:辻さんも中高生の時代を海外の学校で過ごした経験をお持ちですが、価値観や物事の考え方が全く違う世界で暮らした意味についてどう感じますか?

辻:中高生時代は、人種も肌の色も宗教も言語も違う人たちが集まっている寮で暮らしていました。「普通」という概念が存在しないんです。髪の色一つとってもみんな違います。海外に出たら、無意識のうちに自分が当たり前に思っていた概念に縛られることはないんだ、と気づきました。「日本ってどんなところ」と聞かれたり、「漢字を教えて」と言われたりすることも多く、外のことを知るだけでなくて日本のことを考えるきっかけにもなりました。

堀内:物事を相対化して見る、自分の頭の中にいろんな視点が生まれるような経験だったのかもしれませんね。魚躬さんは日本語パートナーズに参加して、旅行と生活することの違いをどのように感じましたか?

魚躬:旅行は行きたいところにだけ行って、見ようとするものしか目に入ってきませんが、現地で生活するといや応なしに様々な情報が入ってきます。文字情報も、音も、匂いといった無作為に入ってくるものに対して、五感をフルに使って感じていきます。それは生活したからこそのことだと思います。

ウェビナーで語り合う辻さん(右)、魚躬さん(中)、堀内編集長

その土地のリアルを知るには日本語パートナーズも一つの選択肢

堀内:インドネシアで得られた経験を就職活動ではどう活かしましたか?

魚躬:採用面接では、「どうしてインドネシアなの?」とか、「どうして留学じゃないの?」といった、いわゆる「普通」から外れた部分に興味を持たれることが多かったです。

辻:自分からアクションを起こす行動力や決断力、挑戦するアグレッシブさがある人だなと思わせますよね。「まだ自分には早いかも」「もう少し経験を積んでから」「英語ができるようになってから」と考えていると永遠にアクションが起こせません。動いてみると返ってくるものが大きいと思います。私が仕事を始めた当時、逆算して「このスキルを得るためにここに行こう」ではなくて、そのときのパッションで動いていました。自分が起業するとは思っていませんでしたが、目の前にあるものを全力でやり続けてきた結果、新しい道が開けてきました。

堀内:踏み出して行くということは、いまいる場所と比べて心安らかな場所とは限らないし、大変なこともあると思いますが、居心地のいい場所から踏み出すことに辻さんは魅力を感じたんですね。

辻:常に違うことをやり続けていると、視座も人のつながりも広がって、できることが広がっていきます。人生が好転していくきっかけは迷ったときにやってみた結果だなと思います。周りの声に左右されすぎなくていいと思うんです。

堀内:魚躬さんが日本語パートナーズに参加するときのご家族、ご友人の反応は?

魚躬:周りが就職活動を始めていた時期なので、私一人のんびりしていて、浮世離れしたような存在と見られていたかもしれません。でも辻さんがおっしゃったように、すべてが今につながっているなと思います。

堀内:辻さんは、若い人たちが海外でその土地に根ざした生活をしながら様々な経験をしていくことの意義をどのように感じられますか。

辻:きれいに演出された海外じゃない、その土地のリアルを知るには、そこに入り込んでいかないと難しいです。それを単身で行って開拓するには(既存の価値観や考え方に縛られない)パンクな精神力が必要です。日本語パートナーズならサポートもあって同期の仲間もいて、でも新しい挑戦や刺激もある。その両方あるのは稀有(けう)なことで、なかなかないチャレンジの場だと思います。参加できる年齢の幅も広いようなので、私もいつか行ってみたいなと思いながらお話を聞いていました。