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松川隆氏(サイボウズ)×野田稔氏(明治大学) 人や組織をパワーアップさせる異国の学び

Sponsored by 国際交流基金アジアセンター 公開日:
東南アジアで活躍する「日本語パートナーズ」=国際交流基金アジアセンター提供

これからは「正解のない課題」に立ち向かう時代  新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、これからの時代に順応できる人材育成や企業風土づくりが大きな課題となってきました。そこで注目されているのが大学や企業における「学び」の多様化です。「正解のない課題」に立ち向かうためのヒントは、一度立ち止まり、日常の延長線上にない「異文化体験」「学び直し」を通じて引き出しを増やすことです。こうした時代の潮目をどうみるのか、サイボウズ株式会社で人事を担当する松川隆さんと明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授の野田稔さんにGLOBE+編集長の堀内隆がお話を聞きました。(以下、敬称略)

「あの通勤時間は何だったんだろうか?」 押し寄せるチャンスの波

堀内隆(以下、堀内):コロナ禍で、世の中の様々な「当たり前」が当たり前でなくなりました。働き方やキャリアもその一つ。どのように感じていますか?

松川隆(以下、松川):社会全体でリモートワークという働き方の変化に伴い、価値観の変化が起こりました。考える時間ができ、「あの通勤時間は何だったんだろうか?」と振り返った人も多いでしょう。これからは、「自分の選択で色々なことができるようになったという世界観」と「コロナ禍が収まったらまた会社にいくぞという世界観」の人に分かれていくでしょう。

堀内:時代の潮目を何かのチャンスと捉えるか、そうでないかということですね。

野田稔(以下、野田):私は、大チャンスだと思います。この波でサーフィンする会社や大学はイノベーションを起こしていく可能性が高まるでしょうし、波に乗らない会社や大学との間で大きな差が出てくると思います。個人でも同じことがいえます。

堀内:チャンスはどんな会社や大学にもありますね。

野田:「ワーク・ライフ・バランス」をもう少し進めた概念として「ワーク・ライフ・ソーシャル・インテグレーション」というものがあります。子育てや家事など家庭生活、仕事、これに加えて社会的な活動を加えた三つを統合したハイブリッドなライフスタイルです。そのためには、学生時代だけでなく、30代、40代でも小休止して「学び直し」が必要になってきます。会社や暮らし、国を離れて、非日常的な世界に身を置いて自分を客体化することです。こうした「リチャージ」が将来の役に立つと思います。

リモートでは身につかない「地球感覚」を肌で知ることが大事

堀内:変化を可能にするには会社のサポートも必要です。サイボウズには多様な人事制度があるそうですね。

松川:「100人100通りの人事制度があっていい」という考え方がベースにあります。会社が「こういうキャリアパスを歩むべき」とか「こういう人が優秀」と決めるのではなく、人それぞれ成長のスピードや方向が違っていいと考えています。キーワードは社員でいても「自立」です。

堀内:効果はありましたか?

松川:すごくありましたね。2005年には28%だった離職率が、2012年以降は5%以下に減っています。いろんなことを全部自分で選択するから、やらされている感覚がなく、意欲的になるので社内の雰囲気もよくなりました。

堀内:サイボウズには一度会社を離れ、アフリカで仕事と直接関係ない分野での社会貢献活動を2年間して、再び戻ってきた社員がいるそうですね。

松川:一度会社を離れて外の世界を体験し、また会社に復帰できる制度があります。再入社時のプレゼンでは、自立心、行動力、たくましさを感じました。社外での体験を定量的、定性的に評価するのは難しいですが、視野を広げ、殻を破る体験をしてきたので、業務上にも良い効果があると思います。

野田:「地球感覚」を肌感覚で知ることが大事ですね。これはリモートで身につくものではないし、日本語で仕事できるような海外赴任でも身につきにくいものですから。

生活に密着した日本語での会話を提供するのも「日本語パートナーズ」の魅力=国際交流基金アジアセンター提供

ギャップイヤー、サバティカル……環境を変えることが学びになる

堀内:例えば、国際交流基金アジアセンターが「日本語パートナーズ派遣事業」を実施しています。東南アジアなどに6カ月~10カ月程度滞在し、現地の中学校や高校などで日本語教師のサポート役として、日本語や日本文化に直接触れる機会を提供するものです。

野田:魅力的ですよね。理想としては30〜40代で、自分を見つめ直すことや「リスキル」に意味があるときに行くのがいいでしょうね。

堀内:「リスキル」とは?

野田:簡単に言うと「学び直し」です。スキルをどんどん変えていかないと生きていけない時代ですので、これからの時代は学び直しが当たり前になります。

松川:このプログラムの良い点は、日本と異なる環境で生活し、現地の人々と対話することで得られる体験です。私もサイボウズに入社したときは営業でした。ITのことがわからない人にITツールを売るのが大変だった思い出があります。異文化、異言語の人たちと信頼関係を作っていくのは素晴らしい体験で、その後につながると思います。

堀内:大学でのギャップイヤーや企業でのサバティカル休暇を使って、それまでの日常を「小休止」し、非日常的な経験を積んできたいと希望する人たちに、送り出す大学や企業が心に留めておくことはありますか?

松川:環境を変えることは個人の学びになると同時に、組織やビジネスを強くするということです。個人でも組織でも、イノベーションは異質なものを受け入れたときに初めて起きます。日本企業には、長く勤めるのが良いという感覚が根強くあります。そういう評価体系も多様化する必要があるかもしれませんね。

野田:コロナ禍で、みんなの考え方が変わってきました。「変わる力」こそ、最大の経営資源になる時代に入ったと思います。「リスク=危機」ではなく、「リスク=あるかないかの不確実性」だと思います。つまり、リスクとチャンスは等価なのです。

日常生活で使う日本語や日本文化を伝える目的で幅広い年代の人が派遣される「日本語パートナーズ」=国際交流基金アジアセンター提供