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コロナ禍の冬には負けない 老舗ダイブバーが意地を見せるアメリカ

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Plastic igloos that My Brother's Bar set up outside the establishment to help limit spread of the coronavirus, in Denver, Nov. 6, 2020. Before the pandemic, dive bars were an endangered species in many cities, and some assumed that the coronavirus would make all the great dives descend into dirt. Yet if you think you know that, you don't know dives. (Matthew Staver/The New York Times)
米コロラド州デンバーの「マイ・ブラザーズ・バー」では、駐車場にイグルー型のテントが並ぶ=2020年11月6日、Matthew Staver/©2020 The New York Times。中の居心地がよく、延々と居座る大酒飲みも出てきた。このため、90分の使用制限が設けられた

手袋2枚。ちりとり一つ。使い捨てのほうき1本。それに、多少の洗浄液。

これが、米国3番目の大都市シカゴの保健衛生当局が、「嘔吐(おうと)・下痢用の清掃セット」と呼ぶ品々だ。

その当局の機嫌をとるために、このセットを手にしてみる? とんでもない! そうスコット・マーティン(60)は、思っていた。

「風の町」の異名を持つシカゴ。その北部にある北欧風のダイブバー(dive bar〈訳注=地下にあることが多く、「潜るバー」といわれるようになった大衆酒場〉)「サイモンズ(Simon's)」のオーナーだ。

ところが、新型コロナといういまわしい常連がこの人気バ―にすり寄るようになって、そんな考えを変えねばならなかった。

今日では「ダイブバー」といえば、ほとんどは親しみをこめた言葉になる。それでも、かなり上等とされる店でさえ、テーブルの上が輝いて見えることは決してない。薄暗く、どこか湿っぽい空気が漂う雰囲気とは切り離せない存在だからだ(訳注=安さが売り。手間を省き、トイレは汚いことが多い)。

そもそも、ダイブバーとは何か。 そこに住みついたかのように延々と飲み、くたばるまで飲み、勢いで飲み、湿っぽさをかなぐり捨てて飲み、笑って泣いて飲み、見知らぬやつの腕の中で飲み、一瞬我に返ったと思えば、すぐにまた名なしの権兵衛となって飲むところだ。大衆の飲み屋。うそが飛び交い、誰かを好きになり、ため息をつく。ジュークボックスでキース・スウェット(訳注=米R&B歌手。1987年にアルバムデビュー)の曲をかけても、「なんで」なんて誰も聞きやしない。

コロナ禍の前は、ダイブバーは多くの街で絶滅危惧種も同然だった。家賃が、はね上がっていた。接客スタッフも、定着しなかった。だから、コロナ禍のもとでは、有名店もすべてほこりに埋もれて消えてしまうとの予測も出るほどだった。

そんなことは知ってるって? それは、ダイブバーを知らない証拠。全米で今、生き残りをかけた試みがなされている。店内をもっと明るくするところだってある。

シカゴ北部のサイモンズでは、まずカウンターのイスとバーテーブルをいくつか駐車場に出してみた。夏だから、それでもよかった。これからは、寒くなる。

だからマーティンは、常連客に引き続き来てもらえるよう、赤外線を放射するプロパンガスストーブで大きなテントを暖房し、フリースの毛布も用意することにした。

でも、本当の寒さ対策の目玉は「グロッグ」だ。スウェーデンで、クリスマスの時期を中心によく飲まれるスパイス入りのホットワイン。赤ワインにシナモンや砂糖、ハーブの一種のクローブ、オレンジ、ジンジャー、レーズンを混ぜ、バーボンかウォッカを加える(好みに応じて)。

「屋外にいてこいつを飲めば、かなりいい気持ちでいられる。飲み過ぎるまではね。そうなると、今度は寒くて凍えるようになってくる」とマーティンはいたずらっぽく説明する。

いずれにしても、規則はきちんと守ってもらうことにしている。先に60歳の誕生日を迎えたときは、何度注意してもマスクをしようとしない常連客と取っ組み合いになったほどだ。

サイモンズは最近までは、屋外へのスペース拡張に加えて、店内でも限られた数の客席を提供できた。ところが、どこでもそうできるわけではない。

コロラド州の州都デンバーにある「マイ・ブラザーズ・バー(My Brother's Bar)」。創業167年の歴史を誇り、この街で営業をずっと続けている店としては最も古い酒場だ。

Inside My Brother
本来のバーの店内は、建物が古く、換気設備もないため、閉まったままだ=2020年11月6日、Matthew Staver/©2020 The New York Times。創業167年にもなるマイ・ブラザーズ・バーの歴史が、コロナ禍では裏目に出た

「ビルがともかく古い。換気設備もない」とオーナーのダニー・ニューマン。夏場は、駐車場にピクニック用のテーブルを並べてしのいだ。「これは、とてもうまくいった」

では、寒さ対策は……なんと、ビニール製のイグルー(訳注=カナダ先住民のイヌイット族が氷のブロックを重ねて作るドーム状の家)だった。暖房、換気扇を備えた半透明な半球状のテントに、1組6人までの客が入れるようにした。

A waitress talks to patrons in one of the plastic igloos that My Brother
テントの客と話すウェートレス=2020年11月6日、デンバー、Matthew Staver/©2020 The New York Times

ところが、思わぬ落とし穴があった。6時間も居座る客が出始め、まるで自分の別荘のように考える大酒飲みを退治しなければならなくなった。そこで、使用時間を90分に限ることにした。

でも、なぜ、こんなテントを作れるのか。こちらは、思わぬ副産物だ。

ニューマンによると、近くのレストランがいくつかの小さな温室を二つに分け、屋外で食べられるようにした。これなら、外の厳しい寒さをそれなりに防げる。

コロラド州では、植物栽培用の温室器財が簡単に手に入るようになった。(訳注=2014年に娯楽用の)大麻が合法化され、定着したからだ。その恩恵にあずかったことを、ニューマンは素直に認める。

ワシントン州の最大都市シアトルにある最も古いバーの一つ、「ファイブ・ポイント(5 Point)」。うたい文句には、こうある。「1929年創業。依存症の店主が、依存症の客にアルコールを出す店」

ここでも、屋外に暖房が利いた居心地のよい場所を設けた。しかし、風雨が打ちつけるようになり、長続きはしそうにないとオーナーのデービッド・マイナートは感じた。

そこで、店内の改造に乗り出した。高性能のエアフィルターを設置し、暖房、換気、空調の機能をさらに高めて空気の循環をよくした。

Diners inside 5 Point Cafe in Seattle, Nov. 7, 2020. Before the pandemic, dive bars were an endangered species in many cities, and some assumed that the coronavirus would make all the great dives descend into dirt. Yet if you think you know that, you don
ワシントン州シアトルの老舗バー「ファイブ・ポイント」の内部=2020年11月7日、Stuart Iset/©2020 The New York Times。換気を大幅に改善し、天井には殺菌効果がある紫外線Cの照明具を取り付けた

助けてくれたのは、肺疾患の専門医で全米結核対策協会の前会長ブルース・デビッドソン。換気扇や(訳注=波長14~280mmの)紫外線C(網膜を痛める紫外線のAやBとは異なる)を出す照明具をバーの天井に取り付ける方法を考案してくれた。

デビッドソンが紫外線Cにほれ込んだのは、かつてペンシルベニア州フィラデルフィアの結核病棟でその効用を経験したからだ。それを活用し、客が吐き出す息を換気扇で天井に吸い上げ、紫外線で殺菌する仕組みにした。

もし、誰かが無自覚のまま新型コロナに感染していても、紫外線Cが他の常連客や店のスタッフを守ってくれる(この種の照明は、病院や学校、レストランに加えてニューヨークなどの地下鉄でも使われている)。

デビッドソンは、その効用には自信がある。それでも、感染源への対策としてマスクをするよう強く勧める。

David Meinert, center, owner of 5 Point Cafe, one of the city
カウンターでなじみの客と話すファイブ・ポイントのオーナー、デービッド・マイナート(中央)=2020年11月7日、Stuart Iset/©2020 The New York Times。「マスク着用をきちんと守らない客は放り出す」と厳しい

もともとシアトルでは、屋内でのマスク着用が義務づけられるようになっていた。その順守を客に求めるのを、マイナートの店がためらうことはない。

「いうことを聞かない客は、放り出される。それが、ファイブ・ポイントのよさの一つさ。『お客様は神様だ』なんていうところとは、ここは違うんだから」(抄訳)

(Mike Seely)©2020 The New York Times

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