マイクロプラスチックが海の生物を変える? 沖縄の海を調べた結果
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プラスチックの小さな破片が海の生態系を変化させ、私たち自身の健康にも影響を及ぼすようになるのは時間の問題、と沖縄科学技術大学院大学(OIST)博士課程を終えたばかりのクリスティーナ・リプケン博士は警告します。
2010年、当時サンフランシスコに住んでいたクリスティーナは、海岸に小さなプラスチックの粒が落ちているのに気がつきました。その年だけで約800万トンのプラスチックが世界中の海に流れ込んだと言われていました。それでも、その時クリスティーナが目にしていたのは、砂浜や海中でよく目にされていたビニール袋やペットボトルではなく、小さなプラスチックの破片でした。それらは大きさが5ミリ以下の小さなものでしたが、クリスティーナの目に留まりました。
「これらの粒子が海洋生物にどのような影響を与えるのか、誰もよく知りませんでした。マイクロプラスチックに関する科学論文を探してみたところ、1972年に書かれたものもありました。40年も前に書かれたものだったのです。海のマイクロプラスチックのことはもうその頃から知られていたのに、それがどうなるのか私たちは知らないのです。私は、それを知りたいと思いました」とクリスティーナが研究のきっかけを教えてくれました。
それから10年後、クリスティーナは、サンフランシスコから遥か太平洋を隔てた沖縄のOISTで博士号を取得しました。彼女の研究は、沖縄近海にマイクロプラスチック片が存在するかどうか、また、それらがプランクトンと呼ばれる海の生態系にとって重要な海洋生物に及ぼす影響を調べました。
マイクロプラスチックとは、大きさが5ミリ以下のプラスチックの破片を指します。クリスティーナが2015年に博士課程の研究を始めた頃には、世界中の科学者がこのようなプラスチックに注目し始めていました。クリスティーナはOISTの最先端機器と技術を活用して、大きさが1マイクロメートル(1メートルの100万分の1)より小さく、他では広く研究されていなかった「ナノプラスチック」を研究対象に加えました。
博士課程研究の前半、彼女は沖縄県と協力して、沖縄本島内の11カ所からサンプルを採取し、マイクロプラスチックやナノプラスチックが存在するかどうかを調べました。これは沖縄で初めて行われた取り組みであり、採取による初期評価で、この地域にプラスチック粒子が多く存在すること、その分布や種類、そして微量金属の存在を理解することができました。
彼女の研究に独自性を与える上で重要だったのが、こうして採ってきたサンプルを分析する時のことでした。クリスティーナは生物学を学んでいましたが、OISTでは、物理学の技術を主に扱う研究室に所属していました。つまり、物理学の技術を生物学の研究に利用することができるという環境にありました。そこで彼女は、レーザーを使って液体中のナノ粒子をつかむ「光ピンセット」という技術を応用して自分の研究を行いました。通常、生物学者はサンプルをろ過して有機物をすべて除去します。しかし、光ピンセットにより、クリスティーナは、有機物を除去せずともそれぞれの粒子が、プラスチック、有機物、木材、鉱物などのどれであるかを正確に見わけることができたのです。
「それは驚きの瞬間でした 」と彼女は言います。「ごく小さな有機物を見ていたのですが、その中にプラスチックが入っていて、それらが何なのかを正確に識別することができました。私たちは、サンプルを採取した11カ所すべてでマイクロプラスチックを発見しました。そして、その中には環境に長期的な影響を及ぼす可能性のある微量金属が含まれていることがわかりました。」
次に、クリスティーナは4種類のプランクトンを使った実験を行いました。彼女は異なる濃度のナノプラスチックを海水に混ぜて、プランクトンがプラスチックを消費したかどうか、それがプランクトンの成長、光合成、必要なタンパク質を作る能力に影響を与えるかどうかを観察しました。
プランクトンは、貝類からクジラに至るまで、食物連鎖の基盤となる重要な生物です。今回の実験では、サンゴやイソギンチャクと共生する渦鞭毛藻類、自由生活性の珪藻2種、シアノバクテリアの普通種などを調べました。
クリスティーナの研究では、低濃度のプラスチックでもこれらの生物に悪影響があることが明らかになりました。彼女の実験では、4つの種において成長率と光合成の低下が見られ、生態学的な影響があることを示しました。しかし、これらの影響がどれだけ大きくなるかは、生物種、プラスチックへの暴露量、プラスチック中の微量金属の含有量によって決まります。
「生態系はこのプラスチック成分を包含するため変化しようとしています。他の研究者たちは今、この変化をより詳細に調べており、可逆的であるかどうかを調べています。私たちは、生態系がどのように変化していくのか、そしてそれが食物網の異なる栄養段階の異なる生物にとってどのような意味を持つのかを知る必要があります」とクリスティーナは言います。
魚や海鳥、海洋哺乳類の食物網に入り込んだプラスチックの小さな破片が、私たちのお皿の上にたどり着いてしまうことも容易に考えられます。
「もし何かを抜本的に変えなければ、私たちは大きな問題に直面することになるでしょう。この問題は、未来の世代だけではなく、現代の私たちの健康をも脅かすものです。私たちは皆、携帯電話のケースや服、カーペットなどを欲しがりますが、それらは全てプラスチックが含まれています。もしプラスチックが海に流れ出てしまったら、私たちの食べ物にも含まれてしまいます。個人的にはこれらの粒子が入っているものを食べたり、自分の脳の中に入れたりしたくありません。皆さんはどうでしょうか。どうすれば地球を危険にさらすことなくプラスチックを日常生活に取り入れられるのかを考える必要があります」とクリスティーナは語り、メッセージを込めます。リデュース(削減)もリユース(再利用)もリサイクルもできないものは、もう作らないと決め、特に、一度しか使われない使い捨てのプラスチック製品の是非を真剣に考えたほうがいいと。
(OIST メディア連携セクション ルシー・ディッキー)