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イタリアの黒人デザイナー、ファッション業界の人種差別に挑む

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ローマで6月、米黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に暴行され死亡した事件を受けて抗議する人たち(2020年 ロイター/Remo Casilli)

[11日 トムソン・ロイター財団] - 両親がハイチ系とイタリア人の著名ファッションデザイナー、ステラ・ジーンさん(41)はこのほど、業界の人種差別に抗議し、今月開かれる「ミラノ・ファッション・ウイーク」への参加を辞退した。トムソン・ロイター財団のインタビューで彼女は、イタリアのファッション業界で人種差別の話題がタブーになっているのを最近目の当たりにしたと語った。

ジーンさんは著名デザイナー、ジョルジオ・アルマーニさんに重用された元モデルで、イタリアの権威あるファッション評議会に黒人として初めて起用された。「ステラジーン」ブランドは明るい色彩のスカートやドレスで知られ、歌手のビヨンセさんやリアーナさんなど著名人が着用している。

イタリアのファッション業界で人種絡みの問題が増えているのを目にして、もう黙ってはいられないとジーンさんは考えた。

「ファッション評議会史上初の、そして唯一の黒人デザイナーとして、私たちマイノリティーが経験している極端な阻害感を、それに気付いていない人々に説明する責任がある」とジーンさんは語った。

イタリアのファッションブランドでは近年、人種差別的とされる商品が批判を浴びる事例が相次いだ。グッチが昨年販売した、赤い唇で縁取られた穴のある黒いタートルネック・セーターや、プラダが2018年に販売した、唇の分厚い猿を模したキーチェーンなどだ。

ジーンさんにとって人種差別は、生まれてこのかた「付いて回る不快な旅の友」のようなものだった。しかしファッション業界で差別に直面したのはごく最近になってからだ。それは人種差別の話題を持ち出した時だった。

「今もなお、イタリアで人種差別の話題を持ち出すのは、さらけだせないようなタブー」であることを悟ったという。

イタリアは他の欧州諸国に比べて白人の割合が大きく、植民地支配の過去や人種差別、人種間の融合を巡る議論が比較的少ない。

同国に住民登録している約6000万人中、外国人は約9%で、うちサブサハラ(サハラ以南)のアフリカ出身者は50万人弱だ。

<進歩の兆し>

ジーンさんによると、イタリアでは人種問題が語られなかったり、否認されたりする年月が続いてきた。

彼女は今年公開した動画で、黒人やアジア系の出自を持つイタリア人女性たちが、日常的に浴びせられる人種差別的コメントを明らかにする様を紹介している。

ジーンさんは先月「イタリアで黒人の命は大事か」をスローガンに、同国ファッション業界の変革を訴える運動を開始した。

「組織図に黒人の子たちも入れて。肌の色はだれかを採用する決め手にはならないけれど、不採用の理由にもなり得ない」

「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ)」運動は、ファッション業界にも圧力をもたらしている。

有力ファッション雑誌ヴォーグの著名編集長は6月、黒人人材の昇進が不十分だったことを謝罪。フランスの化粧品大手ロレアルは同月、すべての白人は人種差別主義者という内容の発言をしたことで2017年に解雇していた、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの黒人のモデルを再雇用した。

ジーンさんによると、イタリアでも進歩の兆しが見られる。

米国で黒人男性ジョージ・フロイドさんが警察の暴行により死亡した事件を受け、「イタリアファッション界の重鎮らが、米国の理念に対して前例のない社会的連帯を示した」という。

「ファッション業界において、あらゆる肌の色を持つ女性および男性の声を増幅させていかなければならない」とジーンさんは語った。

(Sophie Davies記者)

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