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菅新政権に託された、外交の大きな宿題 日本は影響力の低下を食い止められるのか

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衆院本会議で首相指名を受ける菅義偉・自民党総裁=2020年9月16日、恵原弘太郎撮影

複数の関係筋によれば、中国は8月下旬、王毅外相が秋ごろに訪日し、様々な懸案について協議したい考えを日本外務省に打診した。日本政府は習近平・中国国家主席の国賓訪問を保留しつづけており、中国には訪問への道筋をつけることや、米中対立の構図の中で日本をできるだけ中立の立場に誘う狙いなどがあったようだ。

これに対して日本側は、王毅氏の秋の訪日は難しいとの考えを伝えたという。尖閣諸島周辺海域での中国公船の活動や香港民主化問題などで、日本の対中世論が悪化している事情などを考慮した判断だった。茂木敏充外相も729日、王毅氏との電話協議で「中国による関係を悪化させる行動が、習主席訪日の環境作りを難しくし、日本をどんどん米国側に追いやっている」と主張したという。

同じ頃に中国と緊密なやりとりを見せたのが韓国だ。韓国大統領府の徐薫(ソ・フン)国家安保室長は822日、釜山で中国外交トップの楊潔篪(ヤン・チエチー)共産党政治局員と会談した。韓国大統領府は報道文で、習近平主席の早期訪韓などを確認したと強調した。

日韓のこの対象的な動きの背景に何があるのか。関係筋の一人は、「歴史と地政学の違いだ。文在寅政権は南北関係改善に向けた中国の支援を期待しているのはもちろん、中国の軍事や経済的な影響力をも恐れている」と語る。

そして日韓関係は、日本企業に元徴用工らへの損害賠償を求めた韓国大法院(最高裁)判決や文政権による日韓慰安婦合意の破棄などから、1965年の日韓国交正常化以降で最悪の関係に落ち込んでいる。日本の政権交代によって関係改善の機運が生まれる兆しもみられない。

日韓の対立で、日中韓の首脳会議や外相会議が年内に開かれる見通しも立っていない。今年の議長国は韓国だが、日本政府内に「徴用工問題で、日本企業の韓国資産の現金化が迫っている状況で、首相や外相の訪韓は考えられない」という声が強まっているからだ。

中国の王毅国務委員兼外相、韓国の康京和外相とテレビ会議をする茂木敏充外相(当時)=2020年3月20日、東京・霞が関の外務省

こうした事態を憂慮しているのが、日韓それぞれと同盟関係を持つ米国だ。米国の議会調査局(CRS)は910日、「安倍首相の辞任と日米同盟」と題した報告書を公開した。報告書は「日韓関係の深刻な悪化は、日米韓の防衛協力を妨げ、米国の利益を損ねた」と指摘した。

実際、韓国は829日に米領グアムで開かれた日米防衛会談に参加しなかった。201910月には、日本で民間の国際会議が開かれた際に米韓が日米韓外務局長級協議を開こうと持ちかけたが、日本が応じなかったこともあった。日韓には、「オバマ前政権が熱心だった日米韓協力にトランプ政権は冷淡だった」という評価もある。

米国務省のナッパー副次官補は9日、韓国メディアが主催したオンライン討論会で、日米韓協力の重要性に言及し、数週間以内に3カ国のオンライン協議を行いたい考えを示した。関係筋の一人によれば、外務次官か6者協議代表、あるいはNSC(国家安全保障会議)トップら、いずれかの枠組みによる開催を調整しているという。

ただ、実現した場合でも、オンライン会議でもあり、突っ込んだ協議は難しい見通しだ。関係筋の一人は「日韓関係や対中国問題など、敏感な問題は取り上げにくい。気候変動といった共通の課題について協議する程度ではないか」と語った。

「日米韓3者協議は何のためか」をめぐっても、意見がかみ合わない状態が続いている。日米は北朝鮮に加えて中国への対抗軸と位置づけたが、韓国は北朝鮮問題に限った枠組みにしたいという考えだ。韓国は、米韓同盟が朝鮮戦争を原点としていることや、日米韓協力の始まりだった3カ国高官協議「監督・調整グループ(TCOG)」が北朝鮮問題を目的としていたことから、3者協議が「対中包囲網」に変化することに警戒感を示している。

ただ、日米にしてみれば「日米同盟は、時代の流れに沿って変化してきた。なぜ、米韓同盟は変化できないのか」(関係筋の一人)という不満が残る。

日米韓協力が進まないなか、米国務省のビーガン副長官は831日、日米豪印4カ国の戦略対話「QUAD」に、韓国やニュージーランド、ベトナムが参加することに期待感を示した。これについても「寄り合い所帯のQUADが対中包囲網として機能していないのに、拡大しても意味がない」という声が関係国から出ている。

会談に臨むビーガン米国務副長官(左から3人目)と河野太郎防衛相(当時、右から2人目)=2020年7月10日、東京都港区、代表撮影

米国から聞こえてくる様々な発言は、日韓関係の悪化などから、東アジアで対中国包囲網をうまく作り上げられない焦りの声のように聞こえる。

一方、日本は、経済的な低成長もあって国際的な影響力が弱まっている。東アジアで中国の軍事的な脅威が強まるなか、日本が単独で経済や安全保障を巡る課題を解決することはできない。新型コロナウイルスの感染拡大問題が大きな議題となった5月の世界保健機関(WHO)年次総会でも、日本は存在感を示せなかった。

外務省外務審議官や国連大使を務めた西田恒夫氏は当時、「日本が、欧州連合(EU)や東南アジア諸国連合(ASEAN)のような地域グループに属さない、まれな国の一つである現実も、影響力の低下に拍車をかけている」と指摘していた。最近の日米韓や日中韓の枠組みを巡る混乱は、日本の国際的な影響力の低下を更に加速しそうだ。

西田氏は「日本がきちんとした自己認識と国際社会における存在意義を再確認して国際社会にアピールできなければ、米国からも中国からも軽んじられる時代が待っているだけだ」とも語った。