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日米防衛相会談、欠けていたもう一人の閣僚 目立つ韓国の消極姿勢

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エスパー米国防長官との会談に臨む河野太郎防衛相=2020年8月29日、米領グアム、防衛省提供

複数の日米韓関係筋によれば、元々、日米韓防衛相会談の開催に積極的だったのは韓国で、5月ごろから日米両国に働きかけていたという。米国も東シナ海や南シナ海での中国の活動が活発になっていたほか、香港の民主化問題、新型コロナウイルスの感染拡大問題などで、米中の対立が激しくなったため、この動きを歓迎して調整を進めていた。

ただ、新型コロナの影響で人的往来が制限されたこともあり、調整が難航。8月29日のグアム会談は、ようやく米側がひねり出した日程案だった。

だが、韓国側は米側の要望に対して、鄭国防相の参加は難しいと返答した。理由は、8月に韓国で米韓合同軍事演習が行われることと、韓国国防相の交代人事が行われる可能性があるというものだった。

関係筋の1人は、韓国側の説明は理解しにくい点があると指摘する。「演習は28日までだったし、国防相が必ず国内にいる必要はなかったのではないか」と語る。

8月15日から17日まで東シナ海で共同訓練を行った海上自衛隊の護衛艦すずつき(左)と米海軍駆逐艦マスティン=海上自衛隊ホームページから

また、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は28日、鄭国防相の後任に徐旭(ソ・ウク)陸軍参謀総長を指名したが、国会の聴聞会を経るまでは鄭氏が現職にとどまる。米国にすれば、中国に対して強固な日米韓協力をアピールするのが狙いなので、退任間際であろうと、就任早々であろうと、韓国国防相が参加することに意味があった。

韓国が参加に難色を示した背景には、6月に南北連絡事務所を爆破した北朝鮮を刺激せず、米中間でうまく立ち回りたい韓国大統領府の意向が働いていたようだ。韓国外交省も8月上旬に開いた政策調整会議で、米中間のどちら側にもくみせず、あいまいな政策を維持する方針を再確認したという。

ただ、米国は今回、日米韓防衛相会談の日程を再調整せず、日米だけでの開催に踏み切った。関係筋の1人によれば、米国は、中国の在ヒューストン総領事館の閉鎖や香港問題などを巡る対中国制裁に乗り出している。11月には米大統領選も控えているため、これ以上、日程を遅らせることはできないという判断があったという。

米ホワイトハウスのオブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)も28日に行われたオンライン講演で、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国の安保補佐官による会議を10月にハワイで開催する方針を明らかにした。

また、関係者を残念がらせたのが、米軍トップのミリー統合参謀本部議長による日韓歴訪の延期だった。ミリー氏は27日から日韓を歴訪した後、グアムにも立ち寄る計画だったが、米陸軍省などでの新型コロナ感染問題の影響で、延期を余儀なくされたという。

米国が重視するインド太平洋戦略のなかで、韓国の存在感は薄れる一方だ。

逆に、韓国大統領府の徐薫(ソ・フン)国家安保室長は22日、釜山で中国外交トップの楊潔篪(ヤン・チエチー)共産党政治局員と会談した。韓国大統領府は報道文で、習近平中国国家主席の早期訪韓などを確認したと強調した。

8月22日に釜山で会談した韓国大統領府の徐薫国家安保室長(右)と楊潔篪中国共産党政治局員=韓国大統領府ホームページから

国際社会が懸念を強めている中国の一連の行動を巡っては、韓国大統領府の報道文は「楊氏が最近の米中関係に対する状況と中国の立場を説明し、徐氏が米中間の共栄と友好協力関係が北東アジアと世界の平和と繁栄に重要だと強調した」と触れただけだった。

関係筋の1人は「徐氏は南北関係しか扱ったことがない。韓国大統領府がますます、北朝鮮シフトに傾斜するなか、インド太平洋戦略にまで頭が回らないのだろう」と話す。

韓国は日韓の防衛協力にも消極的だ。自衛隊統合幕僚監部の報道資料によれば、アデン湾西方海域で7月中旬、海上自衛隊と韓国・スペイン両海軍の艦艇が合同訓練を行った。日本は訓練の実施を報道公開することを決め、外交ルートで韓国にも伝えたが、韓国は沈黙を守った。韓国は米国も注視している日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について、「いつでも破棄できる」という立場を崩していない。

米国が日韓GSOMIAの維持を求めているのは、北朝鮮はもちろん、中国に対する抑止力の強化という狙いがある。

エスパー長官は従来、米国がロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱したことを受け、地上配備型中距離ミサイルのアジア配備に積極的な姿勢も示してきた。日本や韓国はその有力な候補地でもある。

この8月、日米は沖縄本島と中国大陸に挟まれた海域や、沖ノ鳥島近くの海域で共同防衛訓練を行った。尖閣諸島や沖ノ鳥島付近での中国公船の行動を牽制する狙いがあったとみられる。

この海域は韓国のシーレーンにもあたる。韓国国防省は8月10日に発表した、2021年から25年までの5年間の国防中期計画のなかで、「国民の海洋活動を保護するため、哨戒範囲を1・5倍以上に増やす」などと表明。シーレーン防衛に意欲を示しているが、8月の訓練に韓国軍が参加することはなかった。

関係筋の1人は「韓国軍も参加してくれれば助かるが、おそらく無理な話なのだろう」と語る。

25日から26日までは、日本も参加した米インド太平洋軍とフィジー軍が共催する2020インド太平洋参謀長等会議(CHOD)がオンライン形式で行われた。ここでもインド太平洋戦略について活発な議論が交わされたが、日米韓協力は特に話題にならなかったという。

韓国が、日米韓の防衛協力に消極的な姿勢を示せば示すほど、日本の負担が増すことになる。朝鮮半島有事の際、韓国在留日本人の救出には、空港や港湾、道路の使用権限を持つ韓国の協力が不可欠だし、米本国から朝鮮半島に展開する米軍のなかで日本を出撃拠点とする部隊も増えるだろう。ポストINFで、米国がアジアでの配備を求める中距離ミサイルの候補地も韓国ではなく、日本に目が向くだろう。日米韓協力の強化は、誰のためでもなく、私たち日本のために必要なのだ。