1. HOME
  2. Travel
  3. 【龍崎翔子】『未来に泊まれる宿泊券』に込めた、「なくなってほしくない宿」への思い

【龍崎翔子】『未来に泊まれる宿泊券』に込めた、「なくなってほしくない宿」への思い

Travel
龍崎翔子さん=本人提供

■混乱の中での挑戦

混乱のまっただ中だった4月、龍崎さんが代表をつとめるL&Gグローバルビジネスがリリースしたのが「未来に泊まれる宿泊券」だ。宿泊施設を先払いで予約できるプラットフォームで、休業していた宿泊施設側には事前決済によってキャッシュフローを確保でき、客側には「なくなってほしくない」と思う宿泊施設を応援できるメリットがある。L&G社は手数料収入を得るが、手数料率は1%と低く設定した。

「未来に泊まれる宿泊券」のメインビジュアル

5年前に立ち上げたL&G社は現在国内で5つのホテルを経営している。自社のホテルも3月末から稼働率が例年の5割程度に落ち、4月上旬からは全店休業に踏み切った。そんな中でも、龍崎さんが「他のホテルの資金調達の役に立ちたい」と考えたのはなぜだったのか。

「そもそもは、私たちのホテルにとって『未来に泊まれる宿泊券』というサービスが必要だった。そのうえで、当時コロナで一番影響を受けるのが宿泊業界だと言われる中、このサービスを自分たちだけで使うのはもったいないと思った」

システムは、L&G社の関連会社が以前から開発を進めていたホテルの予約プラットフォーム「CHILLNN(チルン)」の一部機能を切り出してつくったものだ。

チルンは各宿泊施設が宿泊客に直接マーケティングすることを想定し、立地や価格といった定量的な情報よりも、それぞれの宿泊施設が大事にしている理念や歴史といった「ストーリー」を伝えられるものを目指したプラットフォームだという。

「未来に泊まれる宿泊券」は、6月半ばには300を越える宿泊施設が利用。歴史ある旅館からラグジュアリーホテルまで様々な施設が参加した。施設同士のコミュニケーションは活発で、コロナショックをきっかけに「横のつながり」ができてきたという実感があるという。「未来に泊まれる宿泊券」は現在も運用を続けているが、今後はチルンに統合していく予定だ。

■なくなってほしくない宿があった

「未来に泊まれる宿泊券」を始めたもう一つの理由としてあげたのが、「なくなってほしくない宿がたくさんあった」という龍崎さん個人としての思いだ。

「あえてめちゃくちゃパーソナルに言うと、私自身がめぐってみたいホテルがたくさんあったからです。コロナショックをきっかけにクローズしてしまったら、悔やんでも悔やみきれない」

インタビューに応じる龍崎翔子さん。取材はオンライン会議システムで行った

自らを「一ホテル好き」と話す龍崎さんが、ホテル経営に関心を持った原体験は、8歳の時のこと。当時暮らしていたアメリカで、家族で1カ月間かけてドライブした。そこで見たホテルは、どこも「代わり映えのない金太郎飴のようだった」という。そのことに子どもながらに問題意識を持ち、自分でホテルを作ってみたいと思うようになった。

大学1年の時、北海道の富良野で母と二人でペンションを経営。そこで、「旅先の出会いは人の心を動かす」ことを知った。

「お金やノウハウがない中、何とかお客様に楽しんでもらおうと、夜に無料のバーを開いていました。あるとき、接客が追いつかないにもかかわらず、うれしそうな表情で過ごしているお客様がいました。なぜだろうと思っていたんですが、そのお客さまがバーで他のお客様と仲良くなれたことで、ハッピーな気持ちになっていたと気づいたんです」

「それまでは、ホスピタリティーや部屋のきれいさといったものが必要だと思い込んでいた。もちろんそういった点を大事にする方もいますが、ホテルや旅先で出会った『ポジティブな予定不調和』を意識的に仕掛けていくことが大事だと思うようになった。それがいまの自分たちのホテルにつながっています」

龍崎さんのホテルが大切にするのが、旅行者の「気分」にフィットするストーリーを訴求することだ。

「いまのトレンドで言うと、どこどこに旅行するから、近くで寝られる場所を探そうという発想でホテルを探す方が減っていると感じます。例えば石川県に行くとして、観光地だけをめぐるのではなく、美術館に行った後はカフェやセレクトショップを巡る……といった形で、旅は非日常を楽しむものから、自分の生活の延長線上にあるものになっている」

「そういう気分で旅を楽しむとき、ホテルは機能性を訴求するよりも、自分たちのストーリーを発信することで、旅行者に選んでもらえる流れが当たり前になったらうれしい」

■これからのホテルと旅

今後、ホテル業界はどうなっていくだろうか。

新型コロナによる宿泊業界への影響は甚大だ。帝国データバンクが発表した「旅館・ホテル・簡易宿所の倒産動向調査」によると、2020年1~6月の旅館・ホテル・簡易宿所の倒産件数は80件で、すでに前年(72 件)を上回っている。80件のうちコロナ関連の倒産は37件にのぼった。日本政府観光局によると、今年5月の訪日外国人客数は1700人(前年同月比99.9%減)で、統計を取り始めた1964年以降で最も少なかった。

人通りが少ない四条大橋=2020年5月14日午後、京都市中京区、筋野健太撮影

政府の観光支援策「GoToトラベル」事業は7月22日に東京都を対象外とするかたちで始まったが、国のちぐはぐな対応もあり、旅行業界には戸惑いが広がった。

L&G社のホテルは7月には例年の5割程度にまで回復した。だが、コロナによって生じた「旅行することへの抵抗感」が元に戻るには、「5年くらいはかかる可能性もある」と龍崎さんは冷静に見る。それでも「旅行することと、感染症対策をすることは両立できる」とも語る。

「多くの宿泊施設がガイドを作って感染対策に取り組んでいます。そもそもホテルは個室で過ごして楽しめる空間でもあります。自宅から目的地まで車で行き、屋外を中心に過ごす旅のスタイルも多い。そんなふうに密集を避けて旅することと、合理的な感染対策をすることは、矛盾しないと思っています」

いつもと環境が大きく違う夏休みを、どのように過ごせば良いか悩む人も多いだろう。龍崎さんはこんな楽しみ方を語った。

「いまは価格が安くなっているホテルも多い。ご近所で楽しめるホテルもあると思います。カフェやレストランを楽しむように、お出かけの感覚で近くのホテルを楽しむのもひとつの選択肢だと思います」