1. HOME
  2. World Now
  3. 「年内は米朝首脳会談なし」 金与正談話が暗示する「追い詰められる北朝鮮」

「年内は米朝首脳会談なし」 金与正談話が暗示する「追い詰められる北朝鮮」

World Now
2018年5月の南北首脳会談で、文在寅・韓国大統領(左)と握手する金与正氏=韓国大統領府提供

北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長が10日、米朝首脳会談について「今年は行われないものとみる」などと予測する談話を発表した。長文の談話には、米国が要求する核廃棄ではなく核軍縮に向けた交渉に持ち込もうとする、交渉のハードルを下げたい北朝鮮の思惑が込められている。だがその主張は国際情勢を無視した独善的なもので、自らを追い詰めることにもなりかねない。

金与正氏の談話は「米国人たちが連日発信している、我々に対する怪異な信号を、報道を通じて聞いている」と説明。これはトランプ米大統領が6月30日、米メディアに対して「新たな米朝首脳会談の可能性」に言及したことや、北朝鮮政策を担当するビーガン国務副長官が日韓を訪問中であることなどを指しているとみられる。

金与正氏は談話で、米朝協議の議題を「非核化措置対制裁解除」から「(米国の)敵視撤回対朝米協議再開」の枠に改めるよう主張した。2019年2月のハノイでの米朝首脳会談で、北朝鮮は寧辺にある核施設の廃棄と引き換えに対北朝鮮経済制裁の一部緩和という案を提示していたが、この提案を撤回したことになる。

談話は「非核化しないのではなく、今はできない。朝鮮半島の非核化実現は、我々の行動と並行して他方(米国)の不可逆的な重大措置が同時に講じられてこそ可能だ」と主張。米国が敵視政策を撤回するように求めた。文脈から、「重大措置」は制裁解除ではなく、軍事的脅威の除去を意味しているとみられる。

平壌駐在の外交筋によれば、金正恩党委員長の威信は、ハノイ米朝首脳会談の失敗でがた落ちになった。再び威信を取り戻すため、軍事的挑発をちらつかせながら、自分たちの要求を貫く構えだ。談話も「米国の圧迫に対し、我々指導部はいつまでも座視しない」と警告している。

2回目の米朝首脳会談が行われたベトナム・ハノイで、北朝鮮、ベトナム、米国の旗を手に車列を待ち受ける市民ら=2019年2月26日、飯塚晋一撮影

■北朝鮮の要求が通らない三つの理由

だが、談話が挙げる北朝鮮の要求は絶対に通らない。理由は三つある。

ひとつは、談話が再び、「朝鮮半島の非核化」に言及したことだ。北朝鮮は、自らの脅威となるあらゆる核兵器の全廃を求めている。だが、米国が保有する核兵器は北朝鮮だけをターゲットにはしていない。北朝鮮の要求を満たすには、オバマ前米大統領が掲げた「核なき世界」を実現させる必要がある。

2番目に、談話は「我々に対する経済的な圧迫や軍事的脅威にばかり専念すれば、どんなことが起きるのか見守らなければならない」と警告している。北朝鮮に対する経済制裁の撤回や、米韓合同軍事演習の中止、在韓米軍の縮小・撤退などを求める発言だ。

だが、国連制裁決議は米国の意向だけでは左右できない。日本のほか、国連安全保障理事会の常任理事国である英仏を含む欧州各国も、北朝鮮に対する制裁の維持を求める点は米国と一致している。

在韓米軍の役割も徐々に変化している。在韓米軍は最近、朝鮮半島外での多国籍演習に参加しているし、在韓米軍兵士の多くはローテーション制で動いており、他の戦場での実戦経験もある。世界でも有数の規模を誇るソウル近郊の京畿道(キョンギド)平沢(ピョンテク)にある在韓米軍基地は朝鮮半島西側の黄海のそばにあり、将来的に中国の脅威に備えた存在だとみられている。北朝鮮情勢だけをもって在韓米軍の規模が縮小できるわけがない。

在韓米軍司令部=2018年6月、李聖鎮撮影

そして3番目の理由は、図らずも談話が自ら告白している。談話は、米国が北朝鮮敵視政策を撤回しない理由として「人権問題」を掲げていると主張した。

2014年に発表された国連人権理事会の「北朝鮮の人権に関する調査委員会(COI)」報告は、国際刑事裁判所(ICC)での訴追の可能性も含め、金正恩氏ら指導者の責任を追及している。この問題は、北朝鮮が核を放棄したから許される問題ではない。

結局、北朝鮮の金正恩体制は核兵器を抱えることでしか、体制存続の道を模索できない状態に陥っている。経済制裁に加え、最近の新型コロナウイルスによる感染拡大で、北朝鮮の国内情勢がさらに厳しさを増していることは、様々なメディアが伝えている通りだ。

金与正氏は談話で、「朝米首脳会談の可能性まで示唆することになった米国人の心理変化をテレビニュースで興味深く見るのは、朝食時間の暇つぶしとしては申し分なくよかった」と語った。従来の四角四面な北朝鮮政府談話から脱皮し、「普通の国」を目指す、金正恩党委員長のスタイルを踏襲したかったのだろう。
だが、中身まで変わらなければ、北朝鮮が普通の国になれる日は決して訪れない。