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「世界最大の科学コンテスト」 オンライン開催でも日本の高校生が感じた手応え

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ロボットの研究を発表した長島大来さん

■「人生を左右する」コンテスト

ISEFは、規模の大きさや格式から、「科学界のスーパーボウル」とも呼ばれる。幼い頃から出場を目指し、高校生活の全てをかける生徒も多い。米国などの大学入試では、高校時代に出場したコンテストや大会の成果が重視される。全米50州や各国で開かれる予選で、上位数組に入らないと出場できないISEFは、最も格の高いコンテストの1つだ。その中止は、多くの高校生の人生を左右する。

今年のISEFは5月10日~15日に米国カリフォルニア州アナハイムで開かれる予定だった。日本からは、昨年開かれた「高校生科学技術チャレンジ(JSEC)」(朝日新聞社・テレビ朝日主催)と「日本学生科学賞」(読売新聞社主催)を勝ち抜いた1319人が渡米準備を進めていた。筆者も、JSECの事務局担当として準備をサポートし、米国に同行するはずだった。しかし、新型コロナウイルスを受けてISEFを主催する米国の非営利団体「Society for Science & the Public」は中止を発表。SNS上では、世界中の出場予定者から落胆の声が相次いだ。

主催者は急きょオンライン上で開く代替の企画を準備した。審査や表彰は行わないが、研究を発表する機会を設けることで、高校生らが「ISEFに出場した」という実績は残せることになった。代替企画は「バーチャルISEF」として、5月18日~22日に開かれた。 

■日本の高校生も参加

バーチャルISEFのロビー画面。見たい場所を選ぶと、それぞれの部屋に移動できる仕組み

バーチャルISEFでは、各国の1255人の高校生らが出品した1030の自由研究を研究分野別に見ることができ、チャット機能で研究への感想や質問を書き込むこともできた。一部の出場者が提出した研究風景の写真や1~2分のプレゼン動画も展示された。

兵庫県立宝塚北高校から今春、広島大学理学部に進学した高津舞衣さんは、糖のカラメル化に関する研究を動画で発表した。分かりやすい図表をつけた動画を撮影、自分が話す姿と組み合わせて編集した。カラメルは、プリンなどと相性が良い。動画の冒頭では、兵庫県が洋菓子で有名なことを紹介して、興味を持ってもらえるようにした。

日本から参加した高津舞衣さんのプレゼン動画の一場面

高津さんは「ウェブ上で、他国からの出場者の研究を興味深く見ることができた。私が出場した化学分野の掲示板は盛んに書き込まれていて、私も質問を頂きました。とてもよい雰囲気でした」と振り返る。

イネの研究を発表した岡山県のノートルダム清心学園清心女子高3年の前田彩花さんは「自分の研究内容や手法に自信を持てないこともあったが、多くの研究者の方が『自分のやりたいことをやればいい』と言われていたのが心に残りました。研究を続けてきた方の言葉には説得力がありました」と話す。

イネの研究を発表した前田彩花さん

ロボットの研究を発表した千葉県の渋谷教育学園幕張高3年の長島大来さんは、「実際に人に会えないことは、正直なところ物足りなさも感じたが、オンライン上でも色々なことができることが分かって良い経験になった。今後はバーチャルな交流が増えるでしょうし、自分の研究を進める上でもインターネットをより活用していきたい」と振り返る。ISEFの経験も生かし、将来は米国の大学で研究することが目標だという。

■コロナ対策「高校生も貢献できる」

「MAIN STAGE」では、連日さまざまなテーマのパネルディカッションも行われた。ISEFでは例年、ノーベル賞受賞者や企業幹部らが舞台上で話し、出場者が自由に聴講できることが魅力の一つになっている。これをオンライン上で実現しようというわけだ。

2018年にノーベル化学賞を受賞したカリフォルニア工科大学のフランシス・アーノルド教授や、「インターネットの父」とも称される計算機科学者のヴィントン・サーフ氏ら、各分野のトップクラスの先輩が、画面を通じて高校生らに語りかけた。

酵素の研究を続けてきたアーノルド教授は、「世界がどう機能しているかを理解しようとすることは魅力的で、一生をかける価値がある」と強調。「研究しているともどかしいことも多くあるが、私はいつも楽しいことに集中している」と、後輩を励ました。

パネルディカッションの一場面。右上がアーノルド教授

新型コロナウイルスをテーマにした回では、マサチューセッツ工科大学のフェン・ジャン教授が登場。彼の専門であるゲノム編集技術(狙った部分の遺伝子を自由に改変できる技術)が、コロナウイルスの迅速な検査や薬剤の開発にどうつながるかを紹介した。ジャン教授は、世界で進むコロナ対策の中で、「高校生の世代がかかわって貢献できる方法はいくつもある。自分が面白いと思ったことを研究している人に声をかけてみて」とアドバイスした。

ジャン教授は、自らも1998年と99年にISEFに出場し、人生が変わったと話した。ISEFを通じて多くの友人ができ、今も当時知り合った人と一緒に研究することがあるという。

対面での交流を通じ、各国に多くの友人を作れるのはISEFの最大の魅力の一つだが、今年はかなわなかった。ISEFの主催者は、せめて雰囲気だけでも、と1本の動画をつくった。世界中の出場者から、同じ曲にあわせて踊る映像を募って編集した。動画はYouTubeで見ることができる。

■リアルの価値、再認識

今年12月のJSECは開催する予定だが、今後の感染状況によってオンライン審査に切り替える可能性がある。来年5月のISEFがどのような形で開かれるかは、不透明な状況が続く。

学術系のコンテストに限らず、世界中のスポーツや文化系のあらゆる分野で、生徒や学生が日頃の取り組みの成果を発揮する場が失われている。もちろん、オンラインならではの利点もある。今回のバーチャルISEFの発表はウェブで広く公開され、時間や距離の壁をこえて、各国の多くの人が閲覧することができた。閲覧した人は計1万8500人に達したという。とはいうものの、多感な時期に、異なる文化の同世代とリアルに接することの価値は、やはり限りなく大きい。

一刻も早く感染が収束し、多くの人が国境を超えて交流できる日常が戻ることを祈りたい。

JSECを勝ち抜いてバーチャルISEFに出場した日本代表のプレゼン動画は、朝日新聞教育総合本部のYouTubeから見ることができる。