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新型コロナの脅威、途上国にのしかかる重い課題 現場からの生の報告

World Now 更新日: 公開日:
オンラインサロン「新型コロナと途上国」。世界銀行駐レソト代表の石原陽一郎さんは、レソトの状況について説明した

バスの入り口で乗客の手に消毒剤をかける車掌、感染に注意を促し、屋台を立ち退かせる警察、スラムで消毒剤のボトルを配るボランティア、輸出が止まり、大量のバラを廃棄する農家――。ケニア・ナイロビ在住のフォトジャーナリスト、千葉康由さん(AFP通信)は15枚の写真を使って現地の状況を説明した。

ケニアの状況について、写真を紹介しながら話したAFP通信チーフフォトグラファーの千葉康由さん

3月中旬、英国経由の帰国者に初の感染が確認されたケニア。夜間の外出が禁止され、飲食店なども閉鎖。学校の授業や礼拝などはオンライン化する一方で、市外に移動できない状態が2カ月ほど続いているといい、千葉さんは「先が見えず、不安がいっぱいだ」とこぼした。

取材にも影響が大きいという。千葉さんは機材や全身を消毒して初めて相手の自宅に入れてもらえた事例や、取材先で感染するリスクが高いことから、近所の住民に不安がられた事例を紹介した。

ケニアを含む東アフリカでは、陸続きの各国を移動するトラック運転手が感染を広げたという指摘があり、国境封鎖も実施されている。千葉さんによると、感染は小康状態にあるが、ソーシャル・ディスタンスが守られていない地域もあり、感染爆発の不安が残っているという。

新型コロナは経済的な困窮者に追い打ちをかけ、社会的弱者へのしわ寄せを生んでいる――。こうした状況を説明したのは、ケニアの隣国ウガンダで南スーダン難民の支援にあたっている藤田綾さん(AAR Japan)だ。難民居住地内での感染はないが、ロックダウンで居住地への車移動が一時禁止され、支援活動に影響が出た。またロックダウンによる経済悪化の不安から生活不安も高まり、女性や子どもへの暴力が増えるといった状況も生じているという。

ウガンダや南スーダン難民の状況について話した「AAR Japan」ウガンダ事務所駐在員の藤田綾さん

アフリカでは、5月13日に南アフリカに囲まれたレソトで感染者が見つかり、全54カ国で感染が確認された。世界銀行駐レソト代表の石原陽一郎さんによると、レソトは貧困率が50%に及び、国民の4分の1が食糧難にあえぐ。3月中旬に非常事態宣言が出され、ロックダウンになったものの、日々の糧のために働かないといけない人が多く、なし崩しに解除状態になっているという。

政情が安定せず、情報も届きにくいというレソト。「首都でも情報が行き渡っていない。車で2、3時間の農村部では『COVID(新型コロナ感染症)って何?』から始めないといけない」。感染者数がアフリカ最多(5月23日時点で約2万人)の南アフリカと行き来しやすく、ロックダウンの徹底も難しいという。

「どこで何が必要とされているかを把握することが課題」と語ったのは、インドネシア・バリで活動する米NPOコペルニクの共同創設者兼CEOの中村俊裕さん。インドネシアの中でバリは感染者数が少ないが、基盤産業の観光業が軒並み影響を受け、経済的に苦しい状況だという。

インドネシア・バリの状況について説明した米NPOコペルニク共同創設者兼CEOの中村俊裕さん

中村さんによると、簡易調査で収入に影響を受けた人が8割を超え、うち4割強が仕事がなくなったと回答した。行商など公式に記録されない経済部門(インフォーマルセクター)や女性の収入の減少率が大きいことも分かったといい、今後女性の支援を増やすよう政府などに働きかける方針だと説明した。

一方、格差の拡大に懸念を示したのが、国連児童基金(ユニセフ)チリ事務所副代表の青木佐代子さん。格差社会のチリでは、貧困層が経済的な理由などで十分な医療を受けられないおそれがあり、冬の到来で状況の悪化も心配されるという。経済格差の拡大は教育格差の拡大にもつながるおそれがあるとし、チリ政府に対策を求めていることを説明した。

オンラインサロン「新型コロナと途上国」。ユニセフ・チリ事務所副代表の青木佐代子さんは、チリの状況について説明した

また感染症対策としてのロックダウンについて「限界がある」とも指摘。「その日の収入がないと食べられない人が途上国では多数だ」とし、感染症対策と経済のバランスをとる重要性を強調した。

途上国などへの医療支援はどうか。世界で三大感染症(エイズ、結核、マラリア)の対策を進める官民連携の基金「グローバルファンド」戦略・投資・効果局長の國井修さんは、新型コロナの流行で薬が届かないといった状況が生じ、80%の支援プログラムができなくなった地域もあると説明。一方新型コロナもアフリカで感染者が約4000万人、死者が約20万人に上るとの予測があるとし、医療従事者のための個人用防護具(PPE。医療用ガウンなど)の確保や、ワクチンなどが開発された場合に備えた手配を進めていると語った。

途上国などへの医療支援の状況について説明した「グローバルファンド」戦略・投資・効果局長の國井修さん

新型コロナについて國井さんは「最終的には収まると考える」としながらも、「免疫がつかないという話もあり、(流行の)第2波、第3波がありえる。アフリカや中南米での感染拡大を早めに抑えないと、日本にも戻ってくる」と強調。新たな感染症のパンデミックに備える体制作りについては、PPEの備蓄があるかないかの差も大きいとして、国内で供給できるよう、企業と政府が仕組みを作ることが重要だと指摘した。

日本の国際協力のあり方については、国際協力NGOなどでの活動経験がある衆院議員の山内康一さん(立憲民主党)が「教育や医療などの基礎的なニーズに、より多くのODA(途上国援助)をあてていくべきだ」と主張。国内ではODAへの支持が下がっているとして、「ODAが日本の利益にもなることを広く国民に知ってもらう必要がある。特に感染症は日本一国で鎖国できるわけではない」とも語った。

日本の国際協力のあり方について話した衆院議員(立憲民主党)の山内康一さん


このイベントは5月23日にテレビ会議システム「Zoom」で実施されたオンラインサロン「新型コロナと途上国 現状と課題、そして日本の役割」。朝日新聞記者の藤谷健さんらがコーディネーターとなり、約300人が視聴した。