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アングル:広がる在宅勤務、先行組は「家計負担」緩和 コロナ後も意識

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新型コロナウイルスの影響で在宅勤務の動きが広がる中、先行する企業の間では、光熱費など家計の負担を緩和する動きが出ている。写真はガーナで6日撮影(2020年 ロイター/FRANCIS KOKOROKO)

■オフィス経費を還元

「在宅勤務で浮いたオフィス経費を全従業員に還元する」──。新型コロナの影響を受けて大規模な在宅勤務の取り組みで先行したGMOインターネットは、在宅勤務の長期化に伴って浮上してきた課題にもいち早く対処する構えを示した。

同社が全従業員の約9割に当たる約4000人を対象に在宅勤務を開始したのは国内感染4例目が報じられた翌日の1月27日で、その後も対象範囲を拡大している。

実施した社内アンケートの反応は概ね好評。代表の熊谷正寿会長兼社長は2月半ばに「何がすごいかと言うと、業績に影響がほぼない。この結果をみて、そもそもオフィスが必要なのか真剣に考えている」と、取り組みの成果をツイッターに投稿した。

ただ、アンケートからは、在宅に伴う家計の負担も明らかになった。自宅の作業環境整備のため、パソコン周辺機器や机、いすなどの購入費や、暖房を使用する冬季だったため光熱費の増加が多く指摘されたという。

一方、稼働が低下したオフィスでは、水道光熱費や、社内のカフェで無料提供するドリンク・食事など運用コストが軽減されたため、1月との差額を従業員に還元する方針を決めた。在宅勤務体制が継続する期間中は毎月還元するという。

他にも早くから在宅勤務を進めた企業は、従業員への配慮を進めている。料理レシピ検索サービスのクックパッドは、2月18日から在宅勤務に移行。国内従業員約350人の9割以上が在宅勤務しており、家計の負担については4月分の給与から光熱費補助として一律支給する方針だ。

■コロナ後を見据えた動き

三菱総合研究所の経営イノベーション本部の片山進主任研究員は「テレワークの流れは不可逆的」とみている。

米アドビシステムズが2月に都内在住のテレワーク経験者500人を対象に実施したアンケートでは、生産性向上を8割が実感し、9割以上が定期的な実施を希望している。平時であっても、少子高齢化で子育てや介護などで通勤が困難になる従業員も想定され、働き方の多様な選択肢が提供できなければ優秀な人材の確保も難しくなりかねない。

先行する企業は「コロナ後」も見据えている。GMOはコロナが終息した後も、週に1―3日、在宅などオフィス以外で働ける仕組みを制度化する考えだ。オフィスの賃料や運用コストが抑制される分の50%を従業員に還元していくという。

「非常時」と異なり完全なテレワークにしないのは「対面でのコミュニケーションも重要なため」と、同社は説明する。オフィスでは休憩時間などに他部署の人と雑談する機会があり、新しいビジネスの発想が偶然、生まれることもある。「テレワークで事業継続は可能でも、それだけでは成長に向けた取り組みは難しい」としている。

■遅れる中小企業、行政が後押し

一方、中小企業では、規模が小さいほどテレワークの実施率が低い。東京商工会議所が会員企業に対して3月に実施したアンケート調査では、従業員300人以上が57.1%だったのに対し、50人以上300人未満で28.2%、50人未満で14.4%だった。

日本テレワーク協会の担当者は、企業からの問い合わせが2月あたりから増え始め「4月に入って加速した」と説明する。自治体による外出自粛要請や政府の緊急事態宣言発出の時期と重なっており、「今まで意識していなかった人たちが興味を持っている」と話す。

政府や自治体は、助成金の時限的な拡充も打ち出しており、これも「追い風になっている」(IT業界関係者)という。東京都は、パソコンなどの購入費用を250万円まで助成する仕組みを入れ、5月12日まで申請を受け付けている。すでに企業からの問い合わせや申請は多く、関係者は、予算枠の拡大も調整中と話す。

テレワークに欠かせないパソコンやタブレット端末などの品不足も懸念されるが、三菱総研の片山氏は、迅速に普及させるには「今ある機材でどのようにテレワークを推進するか知恵を絞る観点も重要」と指摘している。

(平田紀之、編集:石田仁志)

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