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2020年代は「小ささ」が美しい10年になる 世界経済予測

ニューヨークタイムズ 世界の話題
This was the jammed floor at the New York Stock Exchange on the morning of Nov. 6, 1968, after the presidential election on Nov. 5. In the first hour, stocks advanced. The Dow Jones Industrial average was up 5.41 points at that time. (AP Photo/OR)
1968年11月6日、熱気に包まれるニューヨークの証券取引所=AP。世界経済や株式市場で米国が「最も熱い国」だった時代だ

ミレニアムの節目(2000年)の後、米国経済は第2次世界大戦後「最弱の10年」に苦しんだ。米国は国際的な財政危機の中心になった。経済見通しの専門家たちは、米国の長期低落を予測した。しかし、そうはならず、米国は10年代を通して経済超大国として復活した。それどころか金融大国になった。

米国経済は他の富裕国よりも急速に成長し、景気の後退に一度も苦しまずに10年代の先頭に立ち続けた。これは記録が残っている1850年代以降では初めてのことだった。悲観論者の予測を一蹴するように、米国は中国と共に、10年代のグローバル経済の占有率を拡大した。

世界中の中央銀行、消費者、それに投資家たちは次第に米ドル保有に熱をあげ、ドル紙幣は世界のマネーフロー(資金の流れ)をかつてないほど支配するようになった。中国やドイツも含めて、10年代の世界の株式市場はわずかしか値上がりしなかったが、米国は200%も上昇した。今日では、株式市場価格にもとづく世界の大企業トップ10のうち7社が米国であり、09年末の3社から大幅に増えた。

しかし、もし歴史が一つの案内書だとすれば、20年代は「さらなるアメリカの10年」とはいかない。10年という単位でみた経済動向が、次の10年も続くことはめったにない。このサイクルは第2次大戦後、ずっと繰り返されてきた。

米国は1960年代、世界経済や株式市場では「最も熱い国」だった。しかし、70年代はその熱さを新興国に譲った。80年代は日本に譲った。90年代に再び熱気を帯びたが、新たなミレニアムを迎えた後は新興国が再び勢いを増し、この間、経済見通しの専門家たちは、新興経済国が次世紀に躍り出ると予測していた。

しかし10年代は、中国を除いて各新興国は全般的にグローバル経済の分け前にはあずかれず、縮小していった。新興国の株式市場の平均年間利益はゼロに近く、1930年代以降「最悪の10年」となった。

この10年サイクルは、なぜ予測通りに繰り返されるのか?

答えは簡単だ。好景気の時期を経て、その国のリーダーたちは緊張感を失い、無駄遣いをし始める。ビジネスも消費者も債務を増やす。投資家は株に過剰投資する。そして支配的な企業は活気を失い、集団の中に埋没する。

WASHINGTON, D.C. -- BC-OPED-SHARMA-ECONOMIC-FORECASTING-ART-NYTSF -- From left, Lloyd Blankfein, CEO, Goldman Sachs Group; James Dimon, CEO, JPMorgan Chase & Company; John Mack, Chairman of the Board, Morgan Stanley; Brian Moynihan, CEO, Bank of America Corporation, addressed the Financial Crisis Inquiry Commission in Washington on Jan. 13, 2010. (Doug Mills/The New York Times)--ONLY FOR USE WITH ARTICLE SLUGGED -- BC-OPED-SHARMA-ECONOMIC-FORECASTING-ART-NYTSF -- OTHER USE PROHIBITED.
2010年1月13日、ワシントンで開かれた金融危機調査委員会で証言する(左から)ロイド・ブランクファイン(ゴールドマン・サックスグループCEO)、ジェームズ・ダイモン(JPモルガン・チェース&カンパニーCEO)、ジョン・マック(モルガン・スタンレー会長)、ブライアン・モイニハン(バンク・オブ・アメリカCEO)=Doug Mills/©2019 The New York Times

2020年代の幕開け。米国は①政府の財政赤字の肥大②企業の債務拡大③アマゾンやAlphabet(アルファベット、訳注=グーグルの持ち株会社)といった超巨大企業の株式だけではなく、あらゆる種類の金融資産が膨れ上がって、自己満足し切っている。

一方で、多くの国、特に新興国は10年代、財政赤字と負債の削減という財政事情を余儀なくされ、経済の立て直しを速める改革の実行を迫られてきた。ひっそりと、だが着実にグローバル経済の力学は移行している。20年代はもっと小さな国々やビジネスの出番となる可能性が出てきた。

米国と中国は、互いに相手を封じ込めようと闘っている。米中の対立で貿易と投資が逃げ出し、ベトナムや台湾、メキシコ、オランダ、それにアイルランドを含めた比較的小さな国々や地域に向かっている。米中という超大国の貿易戦争から自国の利益を守ろうと、ブラジルや日本は地域貿易協定や二国間貿易協定の署名に乗り出している。

対照的に、米国の巨大テクノロジー企業は、その独占的な支配力にあらがうグローバルな規制強化の動きに直面している。超巨大企業は、これまで小規模のライバル企業を買収し、その多くを駆逐してきた。ただ一方で、超巨大企業は、そのプラットフォームに数百万もの起業家の参入機会を提供してきた。起業家たちは参入することで、幅広い支持者を得、その国、あるいは地域独自の嗜好(しこう)に応じるようにもなった。

かつて大企業は、数十億ドルもかけてテレビ広告を繰り広げ、長年にわたって消費者の信頼を獲得することにより、小売店の限られた陳列棚での売り上げ競争を演じてきた。だが今や、インターネットのプラットフォームに載せるだけで小さな会社でも小売店を迂回(うかい)して商品を売ることができる。消費者の評価を通じて即座に大衆の信頼を勝ち取ることができる。わずかなネット広告、無料のYouTube動画でもブランド作りができるのだ。

グローバリゼーション(世界化)は、そうして徐々にローカリゼーション(地域化)に道を譲っているのだ。このことは、地域ビジネスの大幅拡大を支えられるほど大きな国内市場を持つ国々にとっては有望だ。特にインドネシア、フィリピン、エジプト、メキシコといった国内人口の平均年齢が比較的若く、急速に人口が増えていく国々に当てはまる。

世界中の株式市場は、今なお「メガキャップ」――時価総額2千億ドルを超える株式あるいは総資本を持つ大企業――に支配されているが、メガキャップには手が届かない企業の台頭に直面している。財政に関して最も勢いがある企業は、デジタル決済アプリとそれを支援している小さな銀行だ。保険業界でも、勢いのあるサブセクター(下位部門)はモバイルインターネット保険サービス、すなわち「insurtech(インシュアテック)」だ。

最も急成長している米国の食品飲料製造会社は、いずれも小規模だ。たとえば「ketchup」を検索してみる。かつては単一のブランドと同義語だったアメリカ人の食卓に欠かせない調味料だった。だが今や地元の業者が売り出しているベーコン風味のケチャップといった商品を含め、680以上の検索結果が出てくる。食品の宅配サービスの窓口になっているアプリのおかげで、一人きりの料理人が続々と台頭し、世界中で腕前を発揮している。

多くのインターネット・プラットフォームがクラウド・コンピューティングも提供しているため、起業家は接客や集金をこれまでより素早く、安く行える。しかも参入障壁は低くなってきている。特に最も人気のあるインターネット企業の多くは、ほとんど物的資産を持っていないため、障壁は下がる一方だ。世界最大のタクシー会社であるウーバーは1台のタクシーも所有していない。だがそれは、今後登場してくるライバルも同じようにタクシーという物的資産を買う必要はない、ということでもある。

同時に、ポピュリストによる国家主義の台頭で、愛国的な情熱が「buy local(国産品を買え)」運動に拍車をかけている。19年10月のある調査では、中国の消費者は「米国製ブランドを再考する」際の主な理由を、「国家への忠誠心」としている。インドの食品会社の広告は「あなたの愛国的義務を果たそう」「中国、米国、英国、それにヨーロッパの製品をボイコットしよう」と客層に呼びかけている。

こうした動きが重なって、グローバルな巨大企業を脅かしている。そのほとんどは米国の企業だ。米国は世界の株式市場の時価総額の半分を大きく上回っており、他の国々の市場に比べても格段に高い。しかし、思い出すがいい。変動こそ規範である。今日の世界企業のトップ10の中で、09年12月段階で入っていたのはたった一つ(マイクロソフト)だった。

通常のパターンが展開すれば、米国はピークに達し、より小さな国々や小規模企業が復活してくるだろう。10年代が世界最大の経済国とその超巨大企業の黄金時代だったとすれば、20年代は再び「小さいほどビューティフルな10年」として記憶されそうだ。(抄訳)

(Ruchir Sharma=米モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのグローバル戦略最高責任者)©2019 The New York Times

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