2019年11月中旬、厳寒のデンマーク・コペンハーゲンで出会った若者は、伏し目がちに語り始めた。「不安定な心にうまく向き合っていくには、社会との関わりが何かしら必要だと考えたんです」
クリスチャン・ルングさん(24)は、人との交流にずっと苦手意識を感じてきた。幼い頃のいじめが原因だった。高校で友人ができず、学校から独り帰る日々が続いた。自分が孤独だと感じ始めたのはそのころだ。それでも、寂しいと打ち明けることはなかった。「迷惑に思われて、遠ざけられるのが嫌だった」
苦悩する息子を見かねた両親が探してくれたのが、NGO「ヴェンチレン」だった。活動はいたってシンプルだ。週1、2回、クリスチャンさんのような孤独を抱える若者が集まって数人でテーブルを囲み、トランプやカードを用いて大人も楽しめるボードゲームなどをして遊ぶだけ。元々、1999年に若者の電話相談として始まったが、多くの問題の根っこに「孤独」があると分かってきた。若者たちを集めて対話させようにも、押し黙るばかり。試しにボードゲームをやらせてみたら、会話が流れ出したという。
若者たちと直接ふれあうスタッフはみな同年代のボランティアで、現在国内20都市に活動を広げる。統括スタッフのジュリー・ヴェルソさん(41)は、「同世代がどのように考え、行動するのかをじかに学ぶことが重要です」と話す。
クリスチャンさんは同世代の若者と交流しながら、ソフトウェアについて勉強している。「(ヴェンチレンの仲間との)団結は感じている。でもきっとまた孤独な感情をもてあます時がくると思う。その時はできるだけ傷つかないよう、うまくつきあっていくしかない」
「幸福な国」の孤独な若者たち
国連の幸福度調査で常に上位ランク入りするデンマーク。2019年もフィンランドに次いで2位だった。そんな「幸福な国」でも若者の「孤独」が社会問題化している。18年に国民健康委員会が発表した、16歳以上の18万人以上から回答を得た調査によると、16~24歳が最も孤独を感じているという結果が出た。16~29歳の10~12%がいつも、またはしばしば孤独を感じているという調査結果もある。高齢者にも孤独を感じる人が増えている。こうした社会事情を踏まえ、メアリー皇太子妃は「社会的孤立と戦う」ことを掲げて財団を2008年に設立している。
なぜ、幸福度が高いデンマークで孤独が問題になるのか。ジュリーさんは「幸福度をどう測るかは知らないが、デンマークは様々な制度によって最も保障された国の一つだとは思う」。そして社会保障制度が充実しているがゆえに、人とつながる必要性が低く、孤独になる人が多いのではないか、と指摘する人もいる。
若者はどんなときに孤独を感じるのか。両親の離婚や身近な人の死、引っ越しといった「生活の変化」は以前から言われてきたが、スタッフのジュリーさんは現代特有の問題を指摘する。「若者たちは見た目も可愛くなければいけない、頭も良く、社交性もなければいけないという『理想の若者像』を勝手に描いて、そこから外れた自分は『ダメな若者』と思い込んで、孤独に陥ってしまうのです」
輪を掛けているのが、SNSの普及だ。キラキラした友人の写真をSNSで見るれば見るほど劣等感にさいなまれるというわけだ。
ヴェンチレンに参加するオリバー・キルシュさん(23)は、SNSやスマホを使うことで孤独が広がっていると自覚している。「ベッドの中でも連絡が取れる。自分たちの親が若い時のように、面と向かって話さなくても何かができるからね」
将来の選択が自由なことも若者の不安を増幅させていると、ジュリーさんは指摘する。「かつては親の職業を子どもが継いでいましたが、今は全ての選択肢が目前にある。逆に若者たちは成功のハードルが高くなって苦しんでいるのです」
どうすれば抜け出せるのか。ヴェンチレンでは、「自分は孤独だ」と認めることが最初の一歩だと指導している。孤独を他人に打ち明けることに抵抗感が強いデンマーク人にはたやすくないが、それでも、とジュリーさんは言う。「本人に抜け出す心構えができていないとダメ。時間はかかっても親が粘り強く教え、話し合うべきだ。『自分は孤独』と認めることができたら、次に何ができるかが見えてくるからです」