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福島第一の廃炉にも参加 ロスアトムが日本の原子力ビジネスになぜ着目

World Now 更新日: 公開日:
廃炉作業が続く東京電力福島第一原発。海側に並ぶ1~4号機の建屋の地下に高濃度汚染水がたまっている=2019年2月17日、朝日新聞社ヘリから、福留庸友撮影

――ロスアトムと日本との関係は、いつごろから続いているのでしょうか。

核の平和利用で世界をリードしているロシアと日本は、強固なパートナーシップと長年にわたる協力関係で結ばれてきた。ウランの供給は協力分野の一つだ。2004年には、関連会社で、原発の燃料である濃縮ウランを扱うテネックス・ジャパンを設立し、日本の電力会社に供給してきた。福島第一原発事故前のピーク時、日本の大手電力10社のうち原発を保有する全9社に濃縮ウランを納め、シェアは約20%を占めた。

――福島第一原発の廃炉ではどんな作業に関わったのですか。

現時点で、重要かつ見込みのある協力の方向性の一つが、福島第一原発事故の惨禍を克服することだ。

テネックス・ジャパンが率いるロシアの企業連合はすでに、三菱総合研究所から委託を受けた多くの仕事を終えた。例えば、破損した燃料の特性を研究するプロジェクトは3月に終了している。

ただ4月に、テネックス・ジャパンはロスアトムのほかの子会社とともに、三菱総研が始めた、原子炉内に溶け落ちた燃料(デブリ)と原子炉の内部の構造物を回収する技術開発事業を落札した。2年間の予定で、ロスアトム傘下の組織が、核燃料のサンプルや様々な物質を含むモデルサンプルを切除する実験を続け、出てくる粉末状の物質の特性を研究する。結果は、福島第一原発での復旧作業の一部として、溶解した燃料の断片を取り出す作業のための安全システムを開発するのに用いられるだろう。

私たちはまた、日本にある使用済み核燃料を管理する全国的なシステムを新しくするための提案をまとめる作業へ、ロスアトム傘下の企業を参加させることで、東芝エネルギーシステムズと合意した。現在、私たちはロシアで使用済み核燃料を管理するシステムを見直している。

昨年末には、日本の企業団にロシアの原子力産業と親しくなってもらおうと、技術分野の視察旅行を実施した。危険な核施設を解体する際の科学的及び技術的な基本的事項や実践的な経験について学んでもらった。

私たちはもちろん、ほかの原発の廃炉にも関心がある。ロスアトム傘下の企業は必要な能力を持っており、喜んで日本のパートナー企業に技術的な知見を提供するつもりだ。

国営原子力企業ロスアトムの本社=モスクワ、大室一也撮影

――福島第一原発以外の廃炉にも参入する計画はありますか。

日本市場の規制はとても厳しい。我々だけで廃炉に貢献するのは不可能なので、いくつかの日本の原子力企業と交渉し、パートナーになれないか可能性を探っている。東芝や三菱重工などとは長い間関係があるが、パートナーシップとまでは言えない。ジョイントベンチャーもまだない。日本の原発の廃炉が本格化するのは2~3年後からだと考えており、それまでに日本企業とパートナーシップを結べると思う。

――支社開設は、日本企業との関係強化を狙ったものですか。

支社開設の主な目的の一つは、原発やそれ以外の部門で、日本企業とのビジネスのつながりを強固にし、新しい協力の機会を生み出すことにある。

個人的な考えだが、高速増殖炉の分野ではすばらしい機会を提供できる。私たちは、ロシア西部のディミトロフグラードで(高速炉の技術開発などを目的とした)多目的高速中性子研究炉(MBIR)に取り組んでいる。ロシア中部の町セベルスクで始めた野心的な「ブレークスルー」プロジェクトも重要なプロジェクトだ。高速炉や高濃度のウラン・プルトニウム混合燃料の生産施設、そして使用済み核燃料再処理施設といった実験と実証のための拠点だ。

――日本は高速増殖炉「もんじゅ」を廃炉にする決定をしましたが、一方でフランスの次世代実証炉「アストリッド(ASTRID)計画」への協力を打ち出しています。高速炉で日本と協力できると考えていますか。

日本はかなり前にASTRIDに協力する決断を下しており、私たちはコメントする立場にない。しかし、ASTRIDの能力は計画当初と比べ、非常に小さくなった。日本側がこの点に満足しているとは思わない。ロシアは商業的に稼働している高速増殖炉がある世界で唯一の国。ロスアトムはそれを運営している世界で唯一の会社だ。

――日仏の高速増殖炉はトラブルが相次いで廃止となりました。なぜロシアはうまく稼働させられるのですか。

私にも分からない。言えるのは事実だけ。ロシアが高速増殖炉で最も進んだ技術をもっている国だということだ。歴史を振り返れば、旧ソ連の時代から原型炉BN600があり、数年前には実証炉BN800が稼働を始め、電力を市場に供給している。さらにBN1200を計画中だ。

――日本の原発から出た使用済み核燃料の再処理を引き受けるつもりはありますか。

とても興味深くて複雑な問題だ。日本の原発で使用済み核燃料の貯蔵場所はいっぱいになりつつあり、青森県六ケ所村の再処理工場の開業は遅れている。政府や電力会社、自治体はこうした状況をとても心配している。一部は英国やフランスで再処理されているが、ロシアでは全く再処理されていない。

ロスアトム日本支社のセルゲイ・デミン支社長=東京都港区、大室一也撮影

日本は米国と原子力協定を結んでおり、協力を広げるには制約がある。日本の使用済み核燃料を、ロシアで再処理するのはそんなに簡単ではない。禁止されているわけではないが、米国の技術や装置を使用した原発から生じた使用済み核燃料は、米国の許可なしに処理できないようだ。今のところ、ロシアで再処理することは検討していない。

――外国に原発を輸出する際、ロシアは高レベル放射性廃棄物の処分まで引き受けるとの報道があります。

ロシアでは、他国の放射性廃棄物を永久に保管することが禁止されており、どの国とも、放射性廃棄物を引き受ける協定を結んでいない。しかし、私たちが設計した原子炉から出た使用済み核燃料はロシアで再処理できる。例えば、東欧に造った原子炉から出たものは、ロシアに持ってきて再処理できる。再処理後は一時的に保管し、その国に戻す。原子炉を保有する国が使用済み核燃料の所有者となる。

――安倍政権は原発を「重要なベースロード電源」と位置づける一方、原発新設の計画はありません。廃炉以外でビジネスチャンスはありますか。

たくさんあると思う。日本政府は原発を国にとって最も重要な電源とみなしており、30年までに総発電量の20~22%を原発でまかなう計画だ。再生可能エネルギーによる発電についても研究開発しようとしているが、20~22%の目標を忘れてはいけない。

古い原発はいくつか再稼働されたが、ほかの原発が再稼働するにはまだ数年かかるだろう。原発の新設は、喫緊の課題ではないが、日本の専門家は(新設が必要だと)理解している。恐らくみなさんも原発は必要だと思うようになるだろう。

■特集「核の夢 二つの世界」に登場した世界中の原子力専門家たちに、核のいまと未来を聞いたインタビューを掲載します。第3回の明日は、原発大国ロシアの反原発派に、原発輸出を批判する立場から語ってもらいます。