――日本の宅配市場には、他国と比べてどのような特徴がありますか。
五つある世界の注力市場のうち、日本はその一つです。日本は飲食店の文化が社会に根付いており、国内には60万の飲食店があると言われていますが、まずこの規模が非常に大きい。にもかかわらず、オンラインでの出前文化というのはまだまだこれから、という段階なのです。日本ではいまだに電話での注文が大きな割合を占めています。電話からオンライン注文へのシフトが、私たちが市場に入っていくことによって加速度的に増えていくと思っています。
――オンライン化は、まだまだ進んでいないということですね。
ホテルや飲食などのインターネット関連ビジネスをやってきた経験からすると、日本の飲食店のIT化は米国など進んでいる国と比べて、だいたい7年近く遅れています。店舗が食材を発注する際など、いまだにファクスを使っているところもあるくらいです。この分野のIT化は今後、どんどん進むとみています。
■テクノロジーを促進剤に革新ねらう
――より長期的な視野では、事業の将来像をどう描いていますか。香港で開いた「食の未来サミット」では、ウーバーイーツはテックカンパニーなのか、ホスピタリティーを重視するのか、という議論もありましたが。
私たちはテクノロジーから始まった企業ですので、そのテクノロジーを促進剤のような形として、飲食業界全体に対して革新を起こしていきたいと考えています。日本の飲食業界は経営としては健全と言える状況ではないと思っています。30%近い飲食店が毎年廃業しているような状況ですし、人件費や家賃も高い。そうした中で、大きなコストをかけることなく追加の売り上げ機会を提供することによって、経営の健全化につなげ、そして食文化全体を革新することをめざしていきたいと思っています。
――今後の成長のための戦略は。
基本的にはサービスを提供できるエリアを広げていきたいと思っています。8月中旬までに、東京では23区外にもエリアを広げます。具体的には、西東京、東久留米、調布、府中、小金井、武蔵野、三鷹、八王子、町田。千葉県浦安市や埼玉県川口市にも進出します。
(※インタビューは7月9日に実施。7月30日に東京市部などでも新たにサービスが始まった)
――今年10月に消費税が増税されると、税率が宅配は10%ではなく8%のまま据え置かれます。
消費税増税をきっかけに、「あ、デリバリーってお得なんだ」と気づいてくださる方が増えると思っています。そういう意味では良い契機にはなるかなと思います。全体としての市場自体が加速度的に伸びているので、もう一押しになると思っています。また、宅配だけでなく、あらかじめアプリで注文しておいて、飲食店に立ち寄った際に商品を受け取れるピックアップサービスも始めました。こうしたニーズにも応えていきたい。
■「配達員は柔軟な働き方を重視」
――急速にサービスが拡大する一方で、配達員の安全確保や労働環境の改善はいかがでしょうか。労働組合を作ろうという動きもありますが。
配達員のうち90%を超える方々が、誰にも縛られない自由な働き方がありがたいという理由で配達員をやってくださっております。新しい、柔軟な働き方というものを推進していきたい。そして同時に、会社としても安全第一を掲げています。警察に協力いただいて道路交通法の理解を深めるセミナーを開きました。また、事故が起きた際の対人・対物の保険を、自転車とオートバイの配達員全てに適用できるような形で、会社でコストをまかなって提供するという取り組みもしています。配達員の方が喜んでくださる、誰にも縛られない自由な働き方というものを推進しながら、そのベースとして安全を守れるような取り組みも進めていきます。
――日本でも実店舗を持たない宅配専門の「バーチャルレストラン」が増えています。こうした事業についてはどう見ていますか。
一緒に新しい市場を作っていきたいと思っています。実店舗を出すのは初期投資のハードルが高く、二の足を踏んでしまうという現状があります。飲食店に対しては新しい機会の創出、またそのエリアに住んでいる方々に対しては新しい選択肢を提供するという意味でも、バーチャルレストランとは手を取り合って成長していきたいと思っています。
むとう・ゆきこ ウーバー・ジャパン執行役員、ウーバーイーツ日本代表。旅行情報サイトのトラベルズー・ジャパンや、レストラン予約サイトのオープンテーブルで社長を務める。グーグル合同会社の新規顧客開発の日本代表を経て現職。