経営にSDGsを組み込み、企業価値を上げるには
※Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)
SDGsが企業に重要視される理由は、SDGsを経営に実装することで「ビジネスの土台を強固にする」「新たなビジネス機会を獲得する」「事業上のリスクを排除する」の3つ。「経営戦略へのSDGsの内部化促進」と「SDGsの価値に符合した企業価値向上=ESG投資」という2つの大きな流れが見られます。
内部化促進のために必要といわれているのが、社会ニーズに基づいて事業目標を設定する“アウトサイドイン”ですが、日本企業の多くは創業理由が社会ニーズに応えることであるため、その理解が難しく、多くが現状の事業への「紐づけ」で停止しています。しかし、経営戦略への落とし込みが重要です。経営戦略に落とし込んで付加価値を得るのに必要なのは、3つの思考だと考えます。ケネディ米大統領のアポロ計画のように、壮大な目標から逆算し、必要なイノベーションを起こして実現させる「時間的逆算思考(ムーンショット理論)」。課題に対する論理的な解決施策の実施で、根本原因を解消するイノベーションを生む「論理的逆算思考(演繹的イノベーション)」。そして、「リンケージ思考(レバレッジ・ポイント理論)」。各目標が相互に結び付いているSDGsでは、てこの力点となる施策からさまざまな改善につながります。
企業の売上や利益・成長率といった「筋力」だけでなく、環境への配慮、透明性や健全性といった「内臓」の状態も見て長中期投資を決めるESG投資が、世界的に増加しています。2018年の運用額は約3300兆円を突破。特に日本は約250兆円で、投資資産額、割合ともに急増しています。また、投資家たちと同じ目線で企業を見ているのが就活学生。ESG対応ができていなければ優秀な人材の採用も不可能です。
田瀬 最初に取り組みや考え方をご紹介ください。
饗場 トヨタが進めている「グローバルビジョン」はSDGsの目指すものと一致し、その推進がSDGs達成への貢献につながると考えています。注力しているのは、交通死傷者低減、持続可能な街づくりやモビリティ向上、気候変動への対応。さらに「トヨタ環境チャレンジ2050」で目指すのは、自動車にかかるすべての活動におけるCO2ゼロへのチャレンジと、それにとどまらないプラスの世界へのチャレンジです。昨年には、2030年時点での具体的な数値目標「環境チャレンジ2030マイルストーン」を発表しました。
吉高 MUFGでは、少子高齢化、産業育成と雇用創出など、優先的に取り組む課題7つを決め、戦略を立てて取り組んでいます。今年5月、2030年度までに累計 20 兆円のサステナブルファイナンスを実行するという目標、新設の石炭火力発電所へのファイナンスは原則実行しないなど、禁止・留意する事業を明確化した環境・社会ポリシーフレームワークの改訂を発表しました。
百瀬 中部SDGs推進センターは、企業、行政、非営利活動団体へ知識や技能、経験を提供しており、事業のひとつがコンサルティング。企業に伴走している事例がワタミです。人材育成から始めて、「SDGsで、地球で一番たくさんのありがとうを集める」を目標に設定。地域の高齢者へお弁当を手渡しで届ける事業では、女性・高齢者の就労支援にもつなげ、容器回収・リサイクルも始めています。「人×地域×地球」がSDGsワタミスタイルです。
青木 JICAのビジョンは信頼で世界をつなぐ、ミッションは人間の安全保障と質の高い成長の実現。SDGsの理念と高い親和性があり、その達成に向けたアクションでは、国内外のパートナーとの連携を重要な柱として掲げています。途上国の課題解決において企業への期待は高まっており、公的機関の役割も変容しています。企業をはじめ多様なアクターとのパートナーシップで課題解決を加速させ、途上国のSDGs達成に貢献するビジネスの支援制度も推進しています。
ーーゴールへのベクトル、パートナー間で合わせる
田瀬 SDGsの推進は単独では不可能です。トヨタではサプライヤーも含めたパートナーシップをどうお考えですか。
饗場 目指すゴールを明確に示し、ベクトルを合わせることが重要。第一次サプライヤーに伝えたことが、二次、三次へ伝わっていくこと、また、取り組みを進める環境を整えるサポートも必要だと考えています。
田瀬 そこでもぜひ世界をリードしていただきたいですね。SDGsに関しては裾野からの逆流も出ており、業界全体で意識が高まることが大切です。一方で、金融界全体の温度感はどうですか。
吉高 ESG投資家の統合評価に備え、SDGsをコミュニケーションツールとする時代。リスクマネジメントのみならず、持続可能な経営モデルというポジティブ・インパクトの流れがあり、地域金融エコシステムも再構築中です。これだけ急激な変化は初めてのことで、サスティナビリティを受託者の責任のひとつと捉え、一緒に進めていくことが必要と考えます。大事なのはエンゲージメント(対話)です。
田瀬 確かに、経営について腹を割って語れることが重要ですね。
ーーSDGs経営、従業員と顧客の共感がカギ
田瀬 中小企業がSDGsに取り組む際の課題は何でしょうか?
百瀬 ひとつは人材育成で、自分ごとにしてもらうため、目指すものを従業員によくわかるようにすることです。そして、いかに顧客の共感を得るかです。
田瀬 直接利益に結びつかないといった反対意見は出ませんか。
百瀬 一部ありますが、いつ崩れるかわからない目の前の利益よりも、持続可能であることの大切さを繰り返し伝えます。
田瀬 JICAの活動について質問が2つあります。なぜ日本は税金で他国を助けるのでしょう。成功例も出ている官民連携のポイントは。
青木 生活の多くが海外に依存していることもあり、良好な関係維持が必要です。企業連携でポイントになるのは、組織の活動内容をはじめとするリソースの発信。課題を発信すると「この技術が使えるかも」という対話が生まれます。
田瀬 2030年にもっといい世界を子どもたちに引き渡し、先へつないでいくためのSDGs。共感が広がることが大事です。引き続き、広く関心を持っていただきたいと思います。